薄衣うすぎぬ)” の例文
「ピイピイ笛の麦藁むぎわらですかえ、……あんな事を。」と、むら雲一重、薄衣うすぎぬの晴れたように、嬉しそうに打微笑む、月の眉の気高さよ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
尼達の饒舌しやべるのを聞いて、偸目ぬすみめをして尼達の胸の薄衣うすぎぬき掛かつてゐる所をのぞいてゐたことは幾度いくたびであらう。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
Auオオ revoirルヴォアアル!」の一声いっせいを残して、狭い横町を大股おおまたに歩み去る大村を、純一は暫く見送って、ゆうべ薄衣うすぎぬに次第に包まれてく街を、追分の方へ出た。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
薄衣うすぎぬの下で身もだえをした。桃色の薄衣が裸休に準じて、蠱惑的の襞を作っている。胸の辺りが果物のように、両個ムッチリ盛り上っていたが、乳房がその下にあるからであった。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
縫箔のある小袖に精巧な地の薄衣うすぎぬをかぶった優美な旅姿をしていたことだったろう。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
(高綱は馬の口をとりて、子之介に渡す。子之介うけ取りて厩のうしろへ牽いてゆく。六郎は馬盥ばだらひなど片附ける。高綱の娘薄衣うすぎぬ、十六七歳。侍女小萬こしもとこまんを連れて、下のかたより出づ。)
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
まさか天使でもないでしょうが、可愛らしい子供が、太った手足を出してしゃがみ、薄衣うすぎぬらしいものを頭から被って、そのひだが形よく柔かに垂れている純白の美しいのもありました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
しや薄衣うすぎぬきなでて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
雪と輝く薄衣うすぎぬ
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
ほたるもすそしのつまりて、うへ薄衣うすぎぬと、長襦袢ながじゆばんあひだてらして、模樣もやうはなに、に、くきに、うらきてすら/\とうつるにこそあれ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その娘薄衣うすぎぬ
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
はじめ遠山とほやまくも薄衣うすぎぬすそに、ちら/\としろく、つめたひかつてはしした、みづいろはるかのぞんだときは、にしきふすまけた仙宮せんきうゆきうさぎた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はるかにそのあたりを思うさえ、端麗なるそのおん姿の、折からの若葉の中にこずえめたる、紫の薄衣うすぎぬかけて見えさせたまう。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
をんなざうどう仰向あふむけに、かたふなべりにかゝつて、黒髪くろかみあしはさまり、したからすそけて、薄衣うすぎぬごとかすみなびけば、かぜもなしにやはらかな葉摺はずれのおとがそよら/\。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なかほどともなく、上面うわつらともなく、一条ひとすじ、流れの薄衣うすぎぬかついで、ふらふら、ふらふら、……はすに伸びて流るるかと思えば、むっくり真直にを立てる、と見ると横になって、すいと通る。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つき山々やま/\いた薄衣うすぎぬあふときくも棧橋かけはしおもひがした。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)