なへ)” の例文
梅雨つゆ降頻ふりしきる頃には、打渡した水の満ちた田に、菅笠すげがさがいくつとなく並んで、せつせとなへを植ゑて行つてゐる百姓達の姿も見えた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ふえいたらをどれ、なんでも舶來はくらいもののなへならべること、尖端モダン新語辭典しんごじてんのやうになつたのは最近さいきんで、いつか雜曲ざつきよくみだれてた。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれ甘藷さつまいもほかには到底たうていさういふすべてのなへ仕立したてることが出來できないので、また立派りつぱなへひにだけ餘裕よゆうもないので
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
現にいつか垣の外に「茄子なすびなへ胡瓜きうりの苗、……ヂギタリスの苗や高山植物の苗」と言ふ苗売りの声を聞いた時にはしみじみ時好じかうの移つたことを感じた。
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
よくやしなへとおほせによりてなへのころにいたり心をつくしてうゑつけけるに、鶴があたへしにかはらずよくひいでければ、くにかみへも奉りしとかたれり。
江戸の街々がすつかり夏姿になつて、なへ賣りの聲が薫風に送られて何處からともなく響いて來る頃。
十八ヶ月位たちました丈夫ななへを植付けます。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
彼等かれらあめわらみのけて左手ひだりてつたなへすこしづつつて後退あとずさりにふかどろから股引もゝひきあし退く。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
紅花べにばななへや、おしろいのなへ——とくちうするにおよぶまい、苗賣なへうりこゑだけは、くさはながそのまゝでうたになること、なみつゞみまつ調しらべにあひひとしい。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
よくやしなへとおほせによりてなへのころにいたり心をつくしてうゑつけけるに、鶴があたへしにかはらずよくひいでければ、くにかみへも奉りしとかたれり。
錢形平次は丹精甲斐もない朝顏のなへを鉢に上げて、八五郎の話には身が入りさうもありません。
夕顏ゆふがほには、豆府とうふかな——茄子なすびなへや、胡瓜きうりなへ藤豆ふぢまめ、いんげん、さゝげのなへ——あしたのおつけのは……
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「さうだつけな、ほんに」亭主ていしゆはいきなり一ぽん徳利とくりにして土間どまへおりた。かまどうへすゝけたちひさな神棚かみだなへはからげてた一なへせてあつた。かれその苗束なへたば徳利とくりからすこさけいだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
十萬兩の寶搜しよりも、朝顏のなへの方が大事だつたのです。