膂力りょりょく)” の例文
それからもう一つは、そう云う離業はなれわざって退けられる膂力りょりょくと習練を備えた人物が、現在この事件の登場人物のうちにあるからだ。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
裏庭の暗がりを、肉体のしなやかさにくらべて、驚くべき膂力りょりょくを持った不思議な人間は、ぐいぐいと、お初を塀の方へいてゆく。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
すべての膂力りょりょくと意力を傾けてたたかうことが出来る、征服するか、それともこちらがたおれるか、ぎりぎりで挑むことが出来るであろう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
が、それにしても、あんなに膂力りょりょくすぐれた大石武右衛門が、こんなに簡単に殺されるなどということが、あり得るだろうか。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
果してそれは驚くべき程の膂力りょりょくであった。額に大きな汗をにじませ今に息も絶え兼ねまじい苦しい表情で、一歩一歩と踏板を下りて行くのだ。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
見れば山寨さんさい第一の膂力りょりょく、熊のごときひげをたくわえている轟又八とどろきまたはちだった。すると一ぽうから、軍謀ぐんぼう第一のきこえある丹羽昌仙にわしょうせんがしかつめらしく
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
膂力りょりょくまた衆に秀でていると見えて、ひと際すぐれた強力ごうきゅうを満月に引きしぼりながら、気取りに気取って射放ったまでは大層もなく立派だったが
と私は一喝したが、しかし私とてもこの付近にあの膂力りょりょくすぐれた類人猿が潜んでいると知っては、もちろん背筋を冷汗が走るのを禁じ得なかった。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
悪漢は異常な膂力りょりょくを有していて脱走することを得たが、脱走後三、四日にして、警察は再びパリーにおいて彼を捕えた。
金五郎の膂力りょりょくをよく知っているので、正面から立ち向かっても、勝ち味のないことは、角助自身が、百も承知している。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
すなわち片手で自由自在に、大刀をふるうだけの膂力りょりょくあるもの、そうして軽捷けいしょう抜群の者とおのずかめられているのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けれどもいずくんぞ知らん、外より共に帰って家庭内の人となるや、往々にして、たちまち夫婦喧嘩げんかを演じ、声荒々しく膂力りょりょく逞しき妻にその手をねじ伏せられて
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
そうして殆どすべての場合、相手の女を抓り引掻き突飛ばした揚句あげく、丸裸に引剥いてしまった。エビルは腕も脚も飽く迄太く、膂力りょりょくに秀でた女だったのである。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この人間以上の膂力りょりょくは、周囲にたたずんだ若者たちから、ほとんど声援を与うべき余裕さえ奪ったかんがあった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
廖平こゝにおいて人々にって曰く、諸人のしたがわんことを願うは、もとよりなり、但し随行の者の多きは功無くして害あり、家室のるい無くして、膂力りょりょくふせまもるに足る者
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
常人よりも膂力りょりょくの弱い私は、常に人一倍の苦痛を忍ばねばならなかった。その記憶が眼前の光景につながり、呼吸いきがつまるような気がした。私は、吉良兵曹長の顔をぬすみ見た。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
組ませておいて投げるつもりだったが、相手のくそ力に吃驚びっくりした。右四つに組んだ巨躰きょたいは千斤の鉄塊のように重く、じりじりと引く双腕の膂力りょりょくはまんりきのように強靱きょうじんであった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一学は剣技に錬達しているだけではなく、それに持ち前の膂力りょりょくが加わって、どのような敵に対しても肉体的な迫力を示した。その進境の眼ざましさには浦周之助も舌を巻いている。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
おとりになった浅川監督は、人一倍優れた膂力りょりょくを持っていたし、その上武器も持っていれば、張り切った警戒力も備えていた筈であった。おまけに相手は武器も持たずに隠れているのだ。
坑鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
なかなかの膂力りょりょくがあって、酒を飲んで興たけなわなる時は、神祇組じんぎぐみでも、白柄組しらつかぐみでも、向うに廻して喧嘩を辞せぬ勇気があり、また喧嘩にかけては、ほとんど無敵——というよりは
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とにかく腕力と膂力りょりょくとだけは十分な記録があり、また記録外の証跡も残っている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この動物の巨大な身長や、非常な膂力りょりょくと活動力や、凶猛な残忍性や、模倣性などは、すべての人によく知られているところである。私はあの殺人が凄惨を極めているわけをすぐに悟った。
年の割り合いに体重があり膂力りょりょくがある法師丸は、剣にかけても自信があった。
猿は臂長く膂力りょりょくに富み樹枝をゆすって強くはじかせ飛び廻る。
膂力りょりょくは自然の賜物たまものだ。……
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
空腹と疲労から来る神経のたかぶりであったかも知れぬ。いずれにせよ、あの男のことを考えると膂力りょりょくが全身にみなぎって来た。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「宗匠、遺憾ながら事態を解せず。剣力、膂力りょりょくをもって処せんには、あに怖れんや。ただ金力なきをいかんせん」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それっと手下の者ども、総がかりとなって、相手の浪人をおおいつつみましたが、その者の膂力りょりょく絶倫ぜつりんで、当れば当るほど猛気を加え、如何とも手がつけられません。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この人は苦労人だなとすぐに子路は感じた。可笑おかしいことに、子路のほこる武芸や膂力りょりょくにおいてさえ孔子の方が上なのである。ただそれを平生へいぜい用いないだけのことだ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
手力雄尊は素戔嗚の罪を憎みながらも、彼の非凡な膂力りょりょくには愛惜の情を感じていた。これは同時にまた思兼尊が、むざむざ彼ほどの若者を殺したくない理由でもあった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
で、八犬士でも為朝でもそれらを否定せぬ様子を現わして居ります。武術や膂力りょりょくの尊崇された時代であります。で、八犬士や為朝は無論それら武徳の権化ごんげのようになって居ります。
右衛門は桂子の股肱ここうの臣で、桂子のためなら水火の中であろうと、笑って平然とはいって行くほどの、忠誠の心の持ち主であり、仁に近いほどの木訥漢ぼくとつかんであったが、剛勇無双膂力りょりょく絶倫
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ハヌマン猴王は死せず、その身金剛にして膂力りょりょく人に絶す。
山の木をったり、土を掘りくりかえしたり——つまり、これは一人前だ、と、そう認める膂力りょりょくであった。労働に耐え得る体格であったのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
司馬の道場をここまで持ってきたのは、むろん、老先生の剣と人物によることながら、ひとつには、この膂力りょりょくと才智のすぐれた峰丹波というものがあったからで。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼等はみんな腕まくりをして、なるべく大きい岩をき起そうとした。が、手ごろな巌石のほかは、中でも膂力りょりょくたくましい五六人の若者たちでないと、容易に砂から離れなかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ところが、生不動一人さえ容易ならぬ大敵だのに、彼の両側には、こんがら重兵衛、せいたか藤兵衛という、膂力りょりょくのすぐれた二人の乾分がいて、事ごとに手をやくばかりだった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魁岸かいがん勇偉、膂力りょりょく絶倫、満身の花文かぶん、人を驚かして自ら異にす。太祖に従って、出入離れず。かつて太祖にしたがって出でし時、巨舟きょしゅうすなこうして動かず。成すなわち便舟を負いて行きしことあり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と、呼ばわりつつ、縦横に血戦をひらき、膂力りょりょくのつづく限り暴れ廻った。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よって其の護衛を削り、其の指揮宗麟そうりんちゅうし、王を廃して庶人となす。又湘王しょうおうはくいつわりてしょうを造り、及びほしいままに人を殺すを以て、ちょくくだして之を責め、兵をってとらえしむ。湘王もと膂力りょりょくありて気を負う。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
武敏は、精悍せいかんな若さと、すぐれた膂力りょりょくをもっていて
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)