しま)” の例文
倫敦ロンドンの大学の地下室で実験をしていた頃、三寸か五寸位の針金の切端までちゃんと木箱に入れてしまっておいて、針金が欲しい時には
米粒の中の仏様 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
義雄の方でもそう言うし、貴様も当分謹慎していたいと言うものなら、俺も今度は見合せて帰る。まあ、この手紙はそっちへしまって置け
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なにしろ、一月のことだから、ホテルのモーター・ボートは格納庫の中にしまわれていて、ちょっとやそっとで引きだすわけにはゆかない。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「あゝ、にます。」と、手を伸ばして姉の前の煙草入をしまひかけたが、煙管は先刻から煙草ばかり吸ひ續けてゐる姉が持つたまゝでゐた。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さうすれば裏と綿とだけ買つて戴けばいゝのだから。——それも序に私が買つて、だまつて拵へてしまつて置けばいゝのである。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
で、そのは「良心」が吃驚びつくりするとけないからと言つて、茶匙は道具箱にしまひ込んで滅多に見ない事に決めてゐる。茶人馬左也氏に教へる。
それから間もなく白石さんは確かに自分が総領事から預って、金庫の中へしまっておいたはずの秘密書類が全部紛失しているのを発見したのです。
機密の魅惑 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「次の間には庭のベンチがしまってある……」とイヷン・イヷーヌィチが呟いた、「もう誰もマズルカを踊るものがないのでね。閉めちまった。」
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
はいと晋太郎は頭を垂れた、志保はその額のあたりを見まもって、「ではその着物はしまって置きましょうね」と云った。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それからその一部分がちょっと片附いていて、そこへ、一年中ついぞ使う事のないような雑具がしまいこまれてあった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
失礼だが、こんな物のある家ではないのに、大事にしまってあったところをみても、刀——といったのはこれでしょう。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兎に角之ほど用心に用心してしまって居る箱だから中には一方ならぬ秘密を隠して有るに違いない、鬼が出るか蛇が出るか余は恐々に其の中を窺いて見た。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
毒薬と云へばあの俺がある種類の予防にしまつて置いたあの甘汞を、何と間違へたか、蒼くなつて慌ててかくして了つた俺の弟はほんとに可哀いい道化ものだ。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
好い著物はよごすといけないからつて、お富どんがみんな鞄の中へしまつてしまつたんでせう。あたし宿屋の貸浴衣の長いのをずるずる引き摺つて逃げ出したの。
梅龍の話 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
自分が升屋の老人から百円受取って机の抽斗ひきだししまったのは忘れもせぬ十月二十五日。事のはじまりがこの日で、その後自分はこの日にうごとにくびを縮めて眼をつぶる。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
半襟はんえり一つでも余裕を見出した時の嬉しさ、もつと大きな買物をするときの輝かしい喜び、選択する間の希望にみちた心、そして買つて来て、幾度か箪笥の抽斗ひきだししまつたり
買ひものをする女 (新字旧仮名) / 三宅やす子(著)
「ええ、もう沢山で御座います。十両の金は我々に取っては大変な物で御座いますよ。早速亭主うちの野郎に見せて腰を抜かさして遣ります」と嬶さんは急いで小判をしまい出した。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
なるほど、自分のためにしまっておかねばならぬから、これを自分の意見というのであろう。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
包紙は一應反覆ひつくりかへして何か書いてあるかと調べたり、皺くちやにして捨てて了つたが、又袂を探してヘナ/\になつた赤いレース絲で編んだ空財布を出して、それに銀貨を入れて、再び袋にしまつた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
美禰子は一寸ちよつと三四郎のかほを見たが、其儘さからはずに、紙包かみづゝみを受け取つた。然し手に持つたなり、しまはずにながめてゐる。三四郎もそれを眺めてゐる。言葉がすこしのあひだれた。やがて、美禰子が云つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と、チョビ安は、こけ猿の壺をしまいこんで
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
師走しわすも十日過ぎに成って岸本は小旅行を思立った。彼は節子の一人でれている写真なぞを自分の眼に触れないところへしまってしまった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あゝ、去にます。」と、手を伸ばして姉の前の煙草入をしまひかけたが、煙管は先刻から煙草ばかり吸ひ続けてゐる姉が持つたまゝでゐた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
「私のなもんですか。——私のいない留守の間に、誰かが戸棚の中にしまったんですよ、早く——、どなたか、ちょいと、中を覗いてごらんなさい」
青い風呂敷包 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
……今もそうである。あの夜客から貰ったまましまってあった笛を、二人っきりのつれづれに、ふと取りだしてみせると、藤尾は珍しくまあと眼をみはった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「どうもこうもあるものか、そっちで出して目の出た金、黙ってしまっておけばよかろう」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
重い枕下まくらもとへ金三郎様をお呼び寄せの上、実はこれこれの次第と箪笥たんす抽斗ひきだし深くしまってあった新太郎少将様の御守脇差を取出させて、渡されて、しかし決して名乗り出ては相成ならぬ。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
包紙は一応反覆ひつくらかへして何か書いてあるかと調べたり、皺くちやにして捨てゝ了つたが、又袂を探してヘナ/\になつた赤いレース糸で編んだ空財布を出して、それに銀貨を入れて、再び袂にしまつた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
こうして帯の間に秘してしまってあることが、普通の人から来た普通の手紙として破くに忍びなかった妻の心を色々と想像して、私は煩悶しました。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
玄一郎は立って、しまってあった横笛の箱をとり出して来た。竹子が古いかと思ったが、音を調べてみるとさしてわるくもない、灯を消し、窓をいっぱいにあけた。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
手盛りで喰べた後の茶碗と小皿とは、學校とこの隱居と村に唯二つしかないポンプ井戸から汲んだ清水で洗つて、丁寧に拭き込んだ八寸の膳とともに、戸棚の中にしまつた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
この帳面と色鉛筆は父さんが巴里パリで買って来たんだよ。お伽話とぎばなしの本もあるね。英吉利イギリスのお伽話だ。その方は父さんが倫敦ロンドンで見つけて来た。二人とも大切にしてしまって置くんだぜ
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いつもきちんとしまってかぎを掛けておくのだが、鍵も掛かっていないし日記帖もなかった。……彼は立って机の上を捜した、そして新聞紙の下にそれをみつけだした。
四年間 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「どうせ、過失のない人間なんてありやしないんだから——」と、小夜子は自分に云って聞かせるように言って、手紙を箪笥の中へしまい、ピンと錠をかけてしまった。
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
庫裡くりの奧まで、一目に見通すことは出來るが、手習ひ子は庫裡へ片足でも踏み込むことを禁ぜられてゐるから、羊羮のしまつてある茶箪笥へ近づくことは、文吾の忍び足にもなか/\むづかしかつた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
三樹八郎は金をしまって立上った。ひどい貧乏の中にたった一組だけ残った内裏雛だいりびなと、たちばな、桜、雪洞ぼんぼりが二つという、さびしい雛壇に燈を入れる、——昔を思うと夢のようだ。
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は血に染ったシーツと一緒に、行李の底にしまい込み、戸棚の奥へ押し込んだ。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
主計はそれを穿き、はさみ糸屑いとくずや針を、手作りらしい小箱にしまった、都留は「お片付け申しましょう」といって、その箱のほうへ手を差出した、主計は渡そうとしながら
晩秋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は耳香水をさも大切そうに内ポケットにしまい込んでしまいました。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
龍介は外へ出るとそう呟いて、昨日ポケットにしまっておいた名刺を取り出した。事務所は麹町こうじまち区内幸町東京ビル四階とある。龍介は自動車へのると、内幸町へ向かって走らせた。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夫人は写真を大切そうにしまってから言葉をつづけた。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「金が、金が無えだ、ここへしまっといた金が無くなってるだ。この仏壇の抽出ひきだしへ入れて、上へ過去帳を載せて置いたことまでちゃんと覚えているだに——あ、そういえばここへ過去帳が落ちてるだぞ」
暗がりの乙松 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
杉村は鞄の中に指輪をしまいながら
梟の眼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
それまでどこかへしまっておいて下さいまし。
落ち梅記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「有難う、大切にしまって置くよ」
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)