空虚くうきよ)” の例文
然しかれこの空虚くうきよな感じを、一つの経験として日常生活中に見出みいだした迄で、其原因をどうするの、うするのと云ふ気はあまりなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しよめしなぞべると、かれはいつでもこゝろ空虚くうきようつたへるやうな調子てうしでありながら、さうつてさびしいかほ興奮こうふんいろうかべてゐた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
再び空虚くうきよな沈默。時計が八時を打つた。その音に、我に歸つて、彼は、組合はせてゐた足を揃へ、眞直まつすぐに坐りなほすと、私の方を向いた。
製作せいさくに付きては内部の充實じうじつしたる物と空虚くうきよなる物との二種有り形式けいしきに付きては全体ぜんたいふとりたる物と前後よりし平めたるが如き物との二種有り。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
だけど、子供こどもなんからないなどゝ仰言おつしやるのは、えうするに空虚くうきよ言葉ことばにちがひありません。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
たがひになんとなくつまらない、とりとめもない不安ふあん遣瀬やるせなさが、空虚くうきよこゝろつゝんでゐるやうであつた。二人ふたりいへにゐることがさびしく、よるになつてることがものたりなかつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
ある朝——其頃私は甲の友達から乙の友達へといふ風に友達の下宿をてん々として暮してゐたのだが——友達が學校へ出てしまつたあとの空虚くうきよな空氣のなかにぼつねんと一人取殘とりのこされた。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
入り見ればせみがら同様人を見ず、され共古びたる箱類許多あまたあり、ふたひらき見れば皆空虚くうきよなり、人夫等曰く多分猟師小屋れうしこやならんと、はからず天井をあほぎ見れば蜿蜒えん/\として数尺の大蛇よこたはり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
私はふと、私のぼんやりしたその空虚くうきよな心のなかから、きふに、かうしてゐてもはじまらない、今日ぢゆうに家をつけなければ、と思ふあわたゞしい気持きもちが、あわのやうにぽつかりと浮き上つて来た。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
たんあたまからした、あたかにかいたもちやう代物しろものつて、義理ぎりにも室中しつちゆうらなければならない自分じぶん空虚くうきよことぢたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
消えかけの火が、この長い空虚くうきよな部屋に彼女がはひつてくるのを示した。彼女は私の珈琲コーヒとパンを持つて來てくれたのだつた。
しかし、私はたゞなにらずに煙草たばこを吹かせてぼんやりとしてゐただけである。このぼんやりとしたゆるんだ心理しんりつゞいてゐる空虚くうきよ時間じかんに、もく々として私達わたしたち運命うんめいうごかせてゐた何物なにものかがあつた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
英國イングランドを離れる事は、愛するが、しかし空虚くうきよな國を離れることだ——ロチスターさまは此處にはゐらつしやらないのだから。
特別の事情があつて、三千代みちよがわざとないのか、又は平岡がはじめから御世辞を使つかつたのか、疑問であるが、それがため、代助はこゝろ何処どこかに空虚くうきよを感じてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)