稻妻いなづま)” の例文
新字:稲妻
『あゝ、今迄いまゝでなん音沙汰おとさたいのは、稻妻いなづま途中とちうんでしまつたのでせう。』と、日出雄少年ひでをせうねん悄然せうぜんとして、武村兵曹たけむらへいそうかほながめた。
また共鳴させられないことを悟り、ちやうど人が、火や稻妻いなづまや又は美しいが何となく蟲のすかないものを避ける樣に避けて了つたのだらう。
宵々よひ/\稻妻いなづまは、くもうす餘波なごりにや、初汐はつしほわたるなる、うみおとは、なつくるまかへなみの、つゞみさえあきて、松蟲まつむし鈴蟲すゞむしかたちかげも、刈萱かるかやはぎうたゑがく。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところが、當てが外れて、横井源太郎は蠅の入つてゐる方を呑んだ、——そんな氣の張つた時は、相手のチヨイとした眉の動きでも、稻妻いなづまのやうに此方の心に響くものだ。
ヂュリ あゝ、もし、誓言せいごんは、およしなされ。うれしいとはおもへども、今宵こよひすぐに約束やくそくするのは、粗忽そこつらしうて、無分別むぶんべつで、早急さっきふで、あッといふえる稻妻いなづまのやうで、うれしうない。
そこでこちらも早速さつそくに「君が色香いろかもかんばせも」と鸚鵡返あうむがへしをしておいた。したが、あらしに打たれる花は、さぞ色褪せることだらう。……ぴかりと稻妻いなづまはたたがみ、はつとばかりに氣がついた。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
つぐ遠寺ゑんじかねガウ/\とひゞき渡りいと凄然ものすごく思はるればさしも強氣がうきの者共も小氣味こきみ惡々わる/\足にまかせて歩行あゆむうちあをき火の光り見えければあれこそ燒場やきば火影ひかげならんと掃部は先に立て行程にはや隱亡小屋をんばうごや近接ちかづく折柄をりから道の此方こなたなる小笹をざさかぶりし石塔せきたふかげより一刀ひらりと引拔稻妻いなづまの如く掃部が向うずね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたくしんだか心配しんぱいなんです、稻妻いなづまがいくらつよくつたつて、あの澤山たくさん猛獸まうじうなかを、無事ぶじ海岸かいがんいへかへこと出來できませうか。
「ぢやあ帽子を取りに行つておいで。稻妻いなづまのやうに早く引返すのだよ。」と彼はアデェルに向つて叫んだ。
稻妻いなづまが一と打ち二た打ち、それを合圖のやうに、サツとオゾンの匂ひのする突風が吹いて來ると、屋根船の灯の半分を消して、軒に提げた提灯も幾つかは吹き落されてしまひました。
閃々ぴか/\、と稻妻いなづまのやうに行交ゆきかはす。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ただ稻妻いなづまつか
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それでは、稻妻いなづま私共わたくしどもわかれて、單獨ひとりで、このさびしい、おそろしいやまえて、大佐たいさ叔父おぢさんのいへへお使者つかひくのですか。
歐羅巴から來た爽やかな風が、海面をわたり、開け放した窓にさつと吹き込んで、暴風が起り、俄かに雨がやつて來て、かみなりが鳴り、稻妻いなづまが閃いて、大氣は清澄になつた。