種々くさぐさ)” の例文
椰子やしを並べ、蘭を飾り、種々くさぐさの熱帯植物の咲き乱れたサン・ルームの中からは、手に取るように二人の話が耳を打ってくるのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
席上の各々方おのおのがた、今や予が物語すべき順番の来りしまでに、諸君がかたり給いし種々くさぐさの怪談は、いずれも驚魂奪魄きょうこんだっぱく価値あたいなきにあらず。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小虎の全身に搦んでいる種々くさぐさの藻の種類。それを切払って水妖すいようの囚われから救おうとする竜次郎の苦心。それは実際一通りでは無かった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
助、豊雄をにらまへて、なんぢ神宝かんだからを盗みとりしはためしなき一七六国津罪くにつつみなり。なほ種々くさぐさたから一七七いづちに隠したる。明らかにまうせといふ。
と、採取した百合科ゆりか龍胆科りんどうか蘭科らんか植物などの薬草を種々くさぐさそこへ取り出して、その医効を説明したり、また本草の由来を聞かせたりして
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるいは枯山からやまをして変えて青山にす。あるいは黄なるつちをして変えて白き水にす。種々くさぐさあやしき術、つくして究むべからず。
「当来の波羅葦僧はらいそうにかけても、誓い申すべきや。」と云ったら、相手が「誓い申すとの事故、それより上人も打ちとけて、種々くさぐさ問答せられたげじゃ。」
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僧都は珍客のためによい菓子を種々くさぐさ作らせ、渓間たにまへまでも珍しい料理の材料を求めに人を出して饗応きょうおうに骨を折った。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
多くの医師くすしを招き、種々くさぐさ、よしということの限りをつくしたれど、ふぐり玉、日に日にただ大きうなりもて行くにつけて、折々、痛み悩むこと更にやむときなし。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この宝の船は種々くさぐさの宝を船に積たる処をかき回文かいぶんの歌を書添へ元日か二日の夜しき寐してしき夢は川へ流す呪事まじないごとなりとぞ、また年越としこしの夜もしくことある故に冬季ともいひたり
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
江戸のほうへは遠慮しても、奥州のヒョットコはこんなような種々くさぐさの表情を投げている。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
高天原たかまのはら神留かんづまります皇親すめらがむつ神漏岐かむろぎ神漏美かむろみみことをもちて、大山祇大神おほやまつみのおほんかみをあふぎまつりて、青体あをと和幣三本にきてみもと白体しろとの和幣三本を一行ひとつらに置き立て、種々くさぐさのそなへ物高成ものたかなして神祈かむほぎに祈ぎ給へば
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
心なることの種々くさぐさかき置きぬ思い残せしことなかりけり〔安心〕
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その種々くさぐさかたらひかずいと繁きひといろは
心なることの種々くさぐさかき置きぬ
留魂録 (新字旧仮名) / 吉田松陰(著)
壇の道教神どうきょうじんのまえには、紅蝋燭べにろうそく赤々と燃え、金紙のぜに、色紙の馬、お花、線香、羊の丸煮まるになどの供え物が、種々くさぐさ、かざり立てられてある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
種々くさぐさ神宝かんだからは何とて女の盗み出すべき。さきつまの良からぬ心にてこそあれ。よくよくおぼしわけて、二四〇思ふ心の露ばかりをもうけさせ給へとて、さめざめと泣く。
あるいは黄なるつちをして変えて白き水にす。種々くさぐさあやしき術、つくして究むべからず(『扶桑略記ふそうりゃっき』四には多以究習とす)。また、虎、その針を授けて曰く、慎矣慎矣ゆめゆめ、人をして知らしむることなかれ。
「それよりも、種々くさぐさと、その後のはなしが聞きたい。わたしも話したい。……城太さん、一刻もはやく、ここから逃げて」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
即ち、その日秀吉が、明けて四歳となったばかりの三法師に謁して、たずさえて来た春駒の玩具など種々くさぐさの土産物をならべ
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中村から送り届けてよこしたという、母が手搗てつきの餅も喰べた。寧子が心をこめた種々くさぐさの料理も喰べた。屠蘇とそんだ。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さし向けられ、また、霊前へ種々くさぐさのおん手向たむけ物など賜わり、一族、お心のほどを、みなありがたく存じております
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ご予定の行嚢にもつのほか、またぞろ、夫人おくがたさまから先の大臣邸の女家族のかたがたへ、種々くさぐさな贈り物がふえ、そのため執事のしゃという人物とその他の家来二
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、いたずらにおつらがらせをいうわけではない。さぞと、お察し申すゆえ、かたちばかりの正月の神酒みき、ご膳部など、種々くさぐさ、係へ申しつけおきました」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……とまれ、ここで委細は申しかねますが、刑部殿がお目にかかっての上は、何かのおん物語りも種々くさぐさとございましょうず。……いざ、どうぞ、お起ち出であって
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殺気満ちつ中を、歩々、水の如くすすんで、周瑜しゅうゆの祭壇に到るや、その前にぬかずいて、やや久しく黙拝していたが、やがて携えてきた酒、その他の種々くさぐさを供え
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
首は函送かんそうして、これを、安土の信長に供え、遺物かたみ種々くさぐさは、安芸の吉川元春の許へ送り届けてやった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その日が来て、母を旅舎にのこし、ひとり種々くさぐさ土産みやげものをたずさえて、いざ、岐阜の殿中へあがってみると、心がすわったというものか、取り越し苦労はわすれていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
亀岡の城下の、とある旅亭に落ち着いた三人は、互に種々くさぐさの物語をしつくしたが、新九郎はその翌日から、膝にうけた太刀傷と、五体の疲労で、大熱を起してしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いのこ、酒、土産物の種々くさぐさなど、しきりに買物しながら、わが主劉皇叔には、この度、呉侯のお妹姫と婚礼を挙げるのじゃと、彼方此方で自慢半分にしゃべったものですから
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御寮人は、大和やまと詣りの途中、ふと見かけて拾って来たわけを話し、佐渡はまた、伊織の師宮本武蔵という者を、年来捜しているところじゃが——などと種々くさぐさの物語も出て
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとで開けてみると、獣皮やら山の物の種々くさぐさ、それに三十両ほどな金ののべ棒も入っている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清げな尼さんが、大原御幸おはらごこう絵巻やら、種々くさぐさな寺宝を出して見せてくれる。薄茶をいただく。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵は、そこらへこぼれた青い種々くさぐさのものを、小笊こざるの中へ拾いあつめた。そして、自分は飽くまでやさしい心を示すつもりで、その小笊を持って、老尼の後から歩いて行った。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……見ればお年寄が、せっかくまれた若菜やせりなどの種々くさぐさが後に散っているではないか。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが帰ったと思うと、佐々成政さっさなりまさが立ち寄り、蜂谷頼隆はちやよりたかが訪い、市橋九郎右衛門と不破河内守ふわかわちのかみが同道して見え、京都の貴顕きけんから使いやら、近郷の僧俗から、種々くさぐさの物を持って
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、そこへ広蓋ひろぶたに載せた種々くさぐさ音物いんもつに、一のうの砂金まで贈っていた。幕府内の有力な者が地方へ出れば、ところの地頭や守護は、あいさつとして、通例、こういう礼を執ってくる。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野里鋳物のざといもの種々くさぐさなどと——その数も品目の多いことも、まったく言語に絶している。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは、きつい仰せを」と、忠顕は苦笑し「——そのような昔ばなしはまずくといたしましょう。……ほ。香のよい松茸たけやら、種々くさぐさな山のさちが、見事に台盤に盛られてございますな」
奥へ通った万太郎と釘勘は、そこで、夜のふけるまで種々くさぐさの話が尽きない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「たぶん……そんなことじゃろう。それはともかく、お吟どのがいわっしゃるには、何かと、種々くさぐさのはなしも積っている。秘かに告げたいこともある。いや何よりは、恋しい、会いたいと、道ばたもわすれて、泣かぬばかり……」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)