真逆まさか)” の例文
旧字:眞逆
国中に内乱の起った場合で取りくずす人夫も無く其のまま主人を見殺し、イヤ聞き殺しにした、けれど真逆まさかそうとも発表が出来ぬから
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
あんまり万力を可愛がっているので、今に万力を養子にするのじゃあねえかと、近所じゃあ云っていますが、真逆まさかにそうもなりますめえ。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
真逆まさか学生たちに「講義なんかいい加減にしろといわれたから」と云って退場するわけには行かないから、急用だといって講義を打切った。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
真逆まさかこんな鳥が、人間と同じように、しかも自分に話しかけようとは夢にも思わなかったのだから、怪しんだのも無理はない。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「しかしそりゃ本当の事なの、あなた。あなただって真逆まさかそんな男らしくない事を考えていらっしゃるんじゃないでしょう」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真逆まさか、背負って歩く訳にも行かぬ、又、誰か、心ある者でも、発見したなら、工夫の役に立つこともあろう」
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「どうしたんだろう、真逆まさか無断で旅行する筈はないが……」浅田はふと昨夜の妻の怪しい挙動を思い出した。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「アッハッハハハハハ、これは面白い。他殺でもなく自殺でもなく、又過失死でもないか。じゃあいったいあの男はどうして死んだのだね。真逆まさか、君は——」
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
然し、重明は真逆まさか父を疑ってはいなかったであろう。重行の子と信じていたに違いない。又、乳母のお清を真実の母だなんて、夢にも考えていなかったろう。
「そうだといって、しかし。……真逆まさかしかしチョコが、自分でこれ身上しんしょをなげ出してかゝるんじゃァ……?」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
偽勅使で一杯引ッ掛けたタア真逆まさかに気も付くめエ、智慧の足り無エ癖に口ばかり達者にベラベラ喋りやがって、今に其舌の根ッ子オ引ン抜いてやるから待ってろヨ。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
でも真逆まさかに人形の中に、南蛮寺の謎を解き明かせた秘密の研究材料など、隠してあろうとは思われない。売っても大事はないだろう。第一背に腹は代えられない。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
真逆まさかに其方は世評の如く切支丹の邪宗を信奉なし、魔術を行うものではあるまい……しからば一体どうした訳で、かくも常若でおわすのじゃ。此の返答がうけたまわり度い
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
真逆まさか墓表ぼひょうとは見えずまた墓地でもないのを見るとなんでもこれは其処そこで情夫に殺された女か何かの供養に立てたのではあるまいかなど凄涼せいりょうな感に打たれて其処を去り
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自分が正直に働いてい、従って真逆まさか荷車で村から出されるようなことにならないのは解り切っている筈なのに、其那気になるのが植村の婆さんには我ながら情けなかった。
秋の反射 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
しかしそれでもまだ彼は真逆まさかに信じたくはなかつた。だが二つとも一様に特殊な型をしてゐるし、つかと鞘とに同じく施された雑多な配色の華麗な点も似てゐるのであつた。
その配置さえ適当にすれば醜女しこめたちまち絶世の美女となるわけさ……といっても真逆まさかシンコ細工のようにちょいちょいするわけには行かんから、勢いモデルが必要となる。
地図にない島 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
苦々し気にそれを言つたのはしうとの土井であつて、幾が中村屋と云ふ料理屋の女主人で、今はその母と二人暮の身であることは民子も知つてゐたが、真逆まさかあの父が、と云ふ気がした。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
お松 いくらあたしだって、真逆まさかあの無法者の前じゃ、迂闊に口をきやしませんよ。お蔦さんのいい草じゃないが、体をやくざに持扱もちあつかってしまっても、まだこれで命は惜しいや。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
真逆まさかあなたは、この一つの修辞的方程式に盲目であっていいとは仰言おっしゃいますまいね。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
でも真逆まさか、母は知ってはいないだろう、と気強く思い返して、夢のなかの喬は
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
真逆まさか萍の花から雲へ乗ることの出来ぬことは一茶も承知しているのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
いや彼塔あれを作った十兵衛というはなんとえらいものではござらぬか、あの塔倒れたら生きてはいぬ覚悟であったそうな、すでのことにのみふくんで十六間真逆まさかしまに飛ぶところ、欄干てすりをこう踏み
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ねえ御隠居様、たしかこの笄は、花魁おいらん衆のおぐしを後光のように取り囲んでいるあれそうそう立兵庫たてひょうごと申しましたか、たしかそれに使われるもので御座りましょう。けども真逆まさかの女のお客とは……」
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
真逆まさか、公金をつかい込んだんじゃあるまいね?」
三等郵便局 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
ホーテンスは水戸の説に興味を覚えた、しかし真逆まさかそのことが間もなく本当に水中に於てためされようとは神ならぬ身の知る由もなかった。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
併し真逆まさかに問題の黒星になっている源次を相手にして踊ろうとは思わなかったのであった。皮肉といおうか大胆といおうか。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
主人にむかって真逆まさかにそんなことを打ち明けるわけにも行かないので、彼女は朋輩のおよねにそっと話すと、お米は又それを店の者どもに洩らした。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三四郎は真逆まさかうかとも云へなかつた。うす笑ひをした丈で、又洋筆ペンはしらし始めた。与次郎もそれからは落付おちついて、時間の終る迄くちかなかつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
多分は倉子が一たび太郎に向い伯父を殺せと説勧ときすゝめたる事ありしならん、如何に女房孝行とは云え真逆まさかに唯一人の伯父を殺すほどの悪心は出し得ざりし故
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「所で第二段の備えだがね。僕は真逆まさか支倉が君が浅田に書かした手紙を真向から信じないのではないと思う」
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
真逆まさかそんな事はないわ。無論、男の筆蹟には違いありませんが、小父さんとは違ってよ」
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
けれども、真逆まさか東京にあれ程のことが起っていようとは夢想するどころではなかった。
私の覚え書 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私も真逆まさかにあの念願が届こうとは思わなんだが、どうした訳か受納されて、今ではかえってわれとわが身がおとましいわ、あの時、其方が此の絵姿をさえ描かなんだら、すべて自然に此の私も
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
と、云ったがむしろ一枚はねると外だ。四五人が御用提灯を一つ灯して立っているからはっとしたがままよと引かれる。何かのかかり合いだろう。真逆まさか露見したのじゃあるまい。と思いながら役宅へつく。
相馬の仇討 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「いつかそういうことになる、そうなるときがきっと来る、矢っ張そうは思っておりましたが、真逆まさかこんなに早く、こうまで急にそうなろうとは。——思うと、矢っ張、夢のような気がいたします。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
顔は大きく、頭の上に乗っている鳥打帽はいやに小さく、昨夜の刑事にたいへん似ているが、真逆まさかあの刑事ではあるまい。
思わずゾッと致しました位で……ヘイ……けれども真逆まさか、それがあのような事の起る前兆まえおきとは夢にも思い寄りませなんだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼奴あいつが不親切な奴で、金を貰いながら其儘そのままどこへか行ってしまったらうだろう。いや、真逆まさかにそんな事もあるまい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
裏山の絶壁を真逆まさかくだかけいの竹が、青く冷たく光って見えた幾日を、物憂ものうへやの中に呻吟しんぎんしつつ暮していた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貴方は真逆まさかに探偵ではあるまいけれど報酬の受け渡しが終らねば、此の上一歩も話を進める事が出来ません
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「でも、気にかかるゆえ——真逆まさか、女を斬りもしまい」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
まあ、真逆まさか毎日喋り続けては居ないことよ
われらの家 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
真逆まさかそれほどでもないでしょうか……」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「然し真逆まさか私が——」
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ことに藤六は、あの通りの人物じゃったけに真逆まさかに山窩とは思われぬと思うて、格別気にも止めずにおったのじゃがのう
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
真逆まさかそういう訳でもありますまいよ、しかの若様が変死した事については、いろいろの評判があるのです」
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「これは舞台でもこの通りやるんです。それに真逆まさか痣蟹があの美しい女優に化けているとは思いませんが……」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この間も原の御母おっかさんが来て、まああなたほど気楽な方はない、いつ来て見ても万年青おもとの葉ばかり丹念に洗っているってね。真逆まさかそうでも無いんですけれども
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其実深き仔細ありて真逆まさかの時の証人にと心にたくみて呼びし者に非ざるか、斯く疑いて余は目科の顔を見るに目科も同じ想いと見えちらりと余と顔を見交せたり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)