白砂はくさ)” の例文
海岸の白砂はくさのないのは物足らぬけれど、このあたりから清澄せいちょうな温泉が出ると思えば、それくらいのことは我慢しなければなりません。
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
かつひと一人ひとりいなければ、真昼の様な月夜とも想われよう。長閑のどかさはしかし野にも山にもまさって、あらゆる白砂はくさおもかげは、あたたかい霧に似ている。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは天然てんねん白砂はくさをばなにかでほどよくかためたとったような、心地ここちで、足触あしざわりのさともうしたら比類たぐいがありませぬ。
誰れから先きに動いたともなく、二人は銀杏いてふそばを離れて、盛り上げるやうに白砂はくさを敷いた道を神殿の方に歩いた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
翠嶂すいしょう山と呼ぶこのあたり、何かわびしい岩礁と白砂はくさとの間に高瀬舟の幾つかが水にゆれ、波に漂って、舷々げんげん相摩あいまするところ、たれがつけたかその名も香木峡という。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
流れの淀むところは陰暗く、岩をめぐれば光景瞬間に変じ、河幅かわはば急に広まりぬ。底は一面の白砂はくさに水紋落ちてあやをなし、両岸は緑野低く春草しゅんそう煙り、森林遠くこれを囲みたり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ときとしては柳条にりて深処にぼつするをふせぎしことあれども、すすむに従うて浅砂せんさきしとなり、つひに沼岸一帯の白砂はくさげんじ来る、砂土人馬の足跡そくせき斑々はん/\として破鞋と馬糞ばふんは所々に散見さんけん
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
えだあひだ白砂はくさのきれいなさかうねつてけて、そのをかうへ小學校せうがくかうがある。ほんの拔裏ぬけうらで、ほとんど學校がくかうがよひのほか、ようのないみちらしいが、それでも時々とき/″\人通ひとどほりがある。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私達わたくしたちちてうみ修行場しゅぎょうばあとに、波打際なみうちぎわのきれいな白砂はくさんでひがしひがしへとすすみました。
松林にも腕白わんぱくらが騒いでいた。良寛堂の敷地には亭々ていていたる赤松の五、六がちょうどその前廂まえひさしななめに位置して、そのあたりと、日光と影と、白砂はくさ落松葉おちまつばと、幽寂ゆうじゃくないい風致を保っていた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
屋内酒樽さけだるのあるあらばきはめてめうなれども、若し之なくんば草臥くたびぞんなりと、つひに帰路をりて戸倉にいたるにけつす、一帯の白砂はくさおはれば路は戸倉峠につらなる、峠のたかさ凡そ六千呎、路幅みちはばわづかに一尺
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
脚下きゃっかは一たい白砂はくさで、そして自分じぶんっているいわほかにもいくつかのおおきないわがあちこちに屹立きつりつしてり、それにはひねくれたまつその常盤木ときわぎえてましたが、不図ふとがついてると
それよりも、実に驚いたのは、宏大な三角洲の白砂はくさのかがやきであった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)