物騒ぶっそう)” の例文
旧字:物騷
そのとしも段々せまって、とう/\慶応三年のくれになって、世の中が物騒ぶっそうになって来たから、生徒も自然にその影響をこうむらなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おかみさんは物騒ぶっそうだからといって、さんざん止めたのだけれど、何しろ豪傑と名を取った床屋の親方だから、承知するものでない。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……と言ふとたちまち、天に可恐おそろしき入道雲にゅうどうぐもき、地に水論すいろん修羅しゅらちまたの流れたやうに聞えるけれど、決して、そんな、物騒ぶっそう沙汰さたではない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
自家うちまでいて来られては、父母や女房の手前もある。ましてこの為体のしれない物騒ぶっそう面魂つらだましい、伝二郎は怖気おぞけを振ったのだった。
しないぞ。日本の国内にこんな物騒ぶっそうなものを据えつけるような卑怯な国の人間に、いい具合にこきつかわれてたまるものか
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
姉達はみんな夜半よなかに起きて支度したくをした。途中が物騒ぶっそうだというので、用心のため、下男がきっとともをして行ったそうである。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ネクタイ屋の看板にしては、これはすこし物騒ぶっそうすぎる。聖公教会の門のところに、まるで葡萄ぶどうふさみたいに一塊ひとかたまりに、乞食こじきどもがかたまっている。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
暇があれば、壬生寺みぶでらの本堂に籠ったり、深夜、物騒ぶっそうな町を歩いてみるくらいのことで、いままでは至って無事でした。
『事情の如何にかかわらず、左様な物を盗み出す物騒ぶっそうな女が、御邸内にいても差しつかえないと尊公は云われるのか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから、起重機の鎖から危くぶらさがっている物騒ぶっそうな梁に、うま引綱ひきづなをしばりつけなければならないのだ。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
今も見上げると、天井の墜ちて露出している屋根裏に大きな隙間があるのであった。まだ此処ここでは水道も出ず、電燈もかず、夜も昼も物騒ぶっそうでならないという。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
これらの些細ささいの事柄は笑うべきではあったが、まただいたいにおいて彼らのなすところ、物騒ぶっそうの傾向なきにあらざりしも、その動機においてはいかにも男性的で
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
燃えて来たのかと聞くと、そうではないが放火で物騒ぶっそうだし今にも燃えて来そうなのだという。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
私が死にましたら此処の寺へ投込みになすって道中も物騒ぶっそうでございますから、お気をお付けなすって、あなたは江戸へいらっしゃいまして親父の岩吉にお頼みなすって下さいまし
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
玄関は真暗なので、身体からだ付きも分らないが「どうも失礼致しました。この頃ちょっと物騒ぶっそうなものでとんだ失礼を致しました。どうぞお上り下さいませ」という丁重な言葉つきである。
I駅の一夜 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「それに、ちがいありません……。なんという物騒ぶっそうなことでしょう……。」
なまずとあざみの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「これはどうも物騒ぶっそう千万、死地へ乗りると同じようなものだ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし、もっともっと綺麗きれいな赤い色。それに、物騒ぶっそうでない。
(再び籠を編み始める)………物騒ぶっそうでしようがない。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「マ、そ、その、人斬庖丁ひときりぼうちょうという物騒ぶっそうなものを納めなされ。そして、そして、何なりと、ゆっくり話をうけたまわろうではござらぬか」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そんな物騒ぶっそうな話が我が身の上に懸けられているとも知らぬ覆面探偵青竜王は、竜宮劇場屋上の捕物とりものをよそに、部下の勇少年と電話で話をしていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「だって、ちま子さんの殺されていたのは、この短剣とそっくりの兇器だったじゃないの。あんたの外に、こんな物騒ぶっそうなもの持ってる人はありゃしないわ」
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
余はこの物騒ぶっそうな男から、ついに吾眼をはなす事ができなかった。別に恐しいでもない、またにしようと云う気も出ない。ただ眼をはなす事ができなかった。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
がんりきの周囲まわりで、あちらにもこちらにも紛失物の声がありましたので、四辺あたりがにわかに物騒ぶっそうになります。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、ひたすら急いで来たのであったが、女の脚ではあり、物騒ぶっそうな戦地に近づくほど、道も思うままはかどらず、とうとう兄の臨終いまわには間にあわなかったものであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おおこれはどうだ。赤バラ印の弾薬函だんやくばこだッ。これを使う銃は、僕の探していたアメリカのギャングが好んで使う軽機関銃じゃないか。これは物騒ぶっそうだぞオ——」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何となく物騒ぶっそう気合けわいである。この時津田君がもしワッとでも叫んだら余はきっと飛び上ったに相違ない。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「近頃は、トンと左様なうわさも聞きませぬ。なんにしても、こう吠えられては物騒ぶっそうでなりませんな」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
母里太兵衛や栗山善助が危ぶんでいた理由は、主君の体ばかりでなく、帰路の物騒ぶっそうにもあった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この物騒ぶっそうな折も折、もう八時を過ぎた今時分、彼女は一体どんな急用が起こったというのであろう。いくら気丈な女探偵だといっても、これは少し冒険すぎはしないだろうか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「火事装束? へんな話だね。なんにしても押し迫ってから物騒ぶっそうな」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なにしろ、東京のまん中に原因不明の爆破事件が起るなんて、物騒ぶっそうなことですからね。当局はこういう方面のことについては、たいへん警戒をしているのです。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おれは、性来しょうらい構わない性分だから、どんな事でも苦にしないで今日まで凌いで来たのだが、ここへ来てからまだ一ヶ月立つか、立たないうちに、急に世のなかを物騒ぶっそうに思い出した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「こいつは、おかしい。うっかり町へは物騒ぶっそうで踏み込めないぞ。気をつけろ、石秀せきしゅう
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは物騒ぶっそうだ」
山道 (新字新仮名) / 中里介山(著)
真鍮は真鍮と悟ったとき、われらは制服を捨てて赤裸まるはだかのまま世の中へ飛び出した。子規は血をいて新聞屋となる、余は尻を端折はしょって西国さいこく出奔しゅっぽんする。御互の世は御互に物騒ぶっそうになった。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「——ずいぶんお気をつけておいでなされ。路次はなかなか物騒ぶっそうですぞ」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうですかい。この辺は物騒ぶっそうですから、気をおつけなさい」
それにしても世の中は不思議なものだ、虫の好かない奴が親切で、気のあった友達が悪漢わるものだなんて、人を馬鹿ばかにしている。大方田舎いなかだから万事東京のさかに行くんだろう。物騒ぶっそうな所だ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見ると、役人であろう、胸に県の吏章りしょうをつけている。近頃は物騒ぶっそうな世の中なので、地方の小役人までが、平常でもみな武装していた。二人のうち一名は鉄弓てっきゅうを持ち、一名は半月槍はんげつそうをかかえていた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先頃、佐々成政さっさなりまさ物騒ぶっそうな暗躍や、あばれ方に対して、前田利家にも、何事につけても、五郎左と協力してやれと秀吉は云いやっておいたが、その後も、丹羽五郎左の行動は、すこしも積極的でない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「待ってたものがなんで門なんか締めるんだ。物騒ぶっそうだからかね」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
曲者くせものといえばこれくらい上品にして物騒ぶっそうな曲者はない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大分だいぶ物騒ぶっそうな事になりますね」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「何しても物騒ぶっそうな人物。この上とも要心にくはない」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人々は思わず、物騒ぶっそうらしい顔を空にむけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは物騒ぶっそうだ」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)