とっ)” の例文
「オ、とっツアん、いつものくちを、五ごうばかりもらおうじゃあねえか。くちに待っていられてみると、どうも手ぶらじゃアけえれねえや」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あれいけねえ、おとっつぁんだぜ」「いえ、あんな年寄りが、熊と相撲を取るのかね」「やめなよ爺つぁんあぶねえあぶねえ!」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とっさん、俺は御用聞には相違ないが、この辺は柴井町の友次郎兄哥の縄張だから、今日はそんな用事で来たんじゃねえ」
『気みじかでのう、野馬をっとばしたり、棒なぐりは好きだが、気永なことは向かんて、死んだとっさんも云い居っただ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
森「そうじゃアねえ、亥太郎あにいと此の旦那と見附前で喧嘩をして、牢ゆきになったから気の毒だって、とっさんお前の所へ此の旦那が見舞みめえに来たのだ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
茶碗にぬぐいをかけるやら、炭をあおぎはじめるやら、ここはおとっさんが車輪になって八人芸をつとめる幕となりました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、盲目めくらとっさんとすれ違って前へ出たと思うと、空から抱留められたように、ひたりと立留って振向いた。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二十歳はたち前後が一番百姓仕事にが入る時ですから、とこぼす若いとっさんもある。然し全国皆兵の今日だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ところでとっつぁん、春にはなんとかして当てようと思うんだがね。いっそ、慣例しきたりを打ち破って、四谷を
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「ナアンダイ。おとっさん。胡麻化ごまかしちゃイケないぜ。大抵わかってんだろ」
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とっさんお光が——お光ちょう、お光ちょうい」のび上って叫べば、万作もころげ出でて木にすがり泣声あげて「お光ちょうい、おー光ちょうい」と叫んで見ても、舟は次第次第に陸を離れて
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「おとっさん、これお爺さん、何をそんなにうなされてるのだよ」
遁げて往く人魂 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
とっつぁん、寒いの」
寺坂吉右衛門の逃亡 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
とっつあん」は嬉しそうにこう云うと、夜具の襟から顔を出した。「爺つあん」は酷くやつれていた。ほとんど死にかかっているのであった。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「えこうっ、とっつぁん、やに手間あ取らせるじゃあねえか。人殺し兇状きょうじょうは、人ごろし兇状はな。いいか、人殺し兇——」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「こうなれば、小堀様の宝物は、伊織様へお返しするのが順当だ。とっさん、秘伝書と御墨付、出してやって下さい」
「さあ、翠蓮もとっさんも、早く手車を押してここを立て。何をぶるぶるふるえているのか。わが輩がここで見送ってやる。かまわんかまわん、旅へ急げ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さあ、おとっさん、こっちへ来て、芸娼院の人別に入れてもらいねえよ、これがお安いところの鐚公というおっちょこちょいだ、お見知り置きなせえ」
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここへ来る途中で俄盲目にわかめくらとっさんに逢って、おなじような目の悪い父親があると言って泣いたじゃないか。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
安「これは誠に有難うごぜえやす、うちのおとっさん、此処においでなさる親方さんは何処の親方さんか知らねえが、わっちのような者に金を呉れるてえのは何だか危険けんのんだ」
とっつぁん爺つぁん嘉門の爺つぁん! 犬帰村の方角からも、城方の兵ども百人あまり、こっちへ寄せて来るようだぞ!」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おウとっつあん、子供につまらねえことを言わねえでもらいてえ。おいらがなんとかして、忘れさせようとしているのに、爺つあんがそんなよけいなことを
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「それは、お常に聴いたら解りましょう、——どうだお常坊、もう隠すまでもあるまい、みんな申上げる方が、お前のためにも、とっさんのためにもなるだろう」
とっさん、手拭を持っているかい、その手拭を河原へ行ってらしておいで、しぼらないでいいよ、それから、足へ捲くきれが欲しいな、その三尺で結構、ナニ、さらし
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
己のとことっさんのところへ旦那が見舞みめえをくれたと云うことを聞いて面目次第もねえ、旦那にそう云ってくんねえ、土産を持って来るのだが、本所にはろくな酒はあるめえと思って
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おやきんとっさんだったのか。こいつあ意外だ。故郷くにへ帰ったものとばかり思ってたら」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小春さん、先刻さっきの、あの可愛い雛妓おしゃくと、盲目めくらとっさんたちをここへお呼び。で、お前さんが主人になって、みんなで湯へ入って、御馳走を食べて、互に慰めもし、また、慰められもするがい。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紫錦しきん」と「とっつあん」は云いつづけた。「俺の命は永かあねえ、胃の腑に腫物できものが出来たんだからな。で俺はじきに死ぬ。また死んでも惜しかあねえ。 ...
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とっさん、お前の手柄にさせる積りで、今まで知らん顔をしていたが、こうなっちゃ仕方があるまい」
野郎が言うことにゃ、おやおや、おとっさんの頭か、おりゃまた大事の燗徳利かんどっくりかと思ったと、そうぬかすんですから、こんなのは、とても親孝行の方には向きませんよ。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仙「おとっさん、此のわけしゅさんの勘定も一緒に取ってくんな……なに、つりはいらねえよ」
「けれども、おとっつぁんだから話して上げよう」と女はちょっと真顔になって、「あたしゃもう何もかもいやになった。いっそあの中へはいってどこかへ行ってしまいたいのさ」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何だ、しみッたれやがッて、二両ばかしとは。——まアいいや、とっさん、十五両もありゃあ、宿屋払いをして、あとを路銀に国へ帰れようが。……あれまた、シュクシュク始めやがったぜ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「や、とっさん、こりゃ姉さん、」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「裏から見れば子供で、表から見ればおとっさんだから、これが本当のとっちゃん小僧というんだろう」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紫錦しきんよ、わしは「とっつあん」だ。これはお前への遺言だ。そうしてお前はわしの子だ。わしの本名は藤九郎だ。その頃わしは悪党だった。わしは宝壺を盗み出した。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「八、そんな手荒なことをしちゃならねえ。ねとっさん、お前何か、この私に用事があるんだろう」
勘「この阿魔ふてえあまだ、大金を出して抱えて来たものを途中から逃げさせておたま小法師こぼしがあるものか、オイとっさん、此奴こいつのいう事アみんな嘘だ、おめえだますんだぜ、ハヽヽヽヽ」
こう、石金のとっつあん、まあ、聞いてくんねえ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とっさん、大変ッ、綾吉が殺された。三輪の親分へ一と走り頼むぜ、——それから順序は違うが、帰りに町役人へ声を掛けてくれ、何と言っても、下手人を捜すのが先だ」
「オイおとっつぁん!」と宿の主人は、毒蛇コブラのように頬をふくらせ憎々しい声で怒鳴り出した。
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とっさん、飛んだ迷惑をかけちまった、それでもまあ、おたがいに命拾いをしてよかったね」
仙「何ういたしまして、昨夜きのうとっさんと話をしたんですが、無闇にお侍の死骸を引取って、伯父の積りで葬式とむれえを出しましたから、若旦那がおこりゃアしねえかッて心配して居るんです」
「おとっつぁん、何ていうの、名は」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「多過ぎるってことがあるものか。とっさんは逗留するんだから、その間の食費と部屋やね代だ」
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「よしよし、それでよく解った。真夜中に江戸の町を平気で飛ばせるのは医者の駕籠くらいのものだ、——それだけ聴けば見当はつく。ところでとっさん、これからどこへ帰るんだ——」
「まあ、米友さんが、おとっさんのようなことを言い出しました、ホ、ホ、ホ」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
角「はい、碌にかめえませんでハア、うちのおとっさんは居やんすかなア」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とっつぁん、百両だ。百両——。」
さすがは猪之松、先へ渡ったか、こいつはどうも恐れ入った。……じゃアとっつあんこうしてくんな。俺か猪之松かどっちか一人、間もなく宿の方へ帰るから、向こう岸へ帰らずに船を
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)