法華ほっけ)” の例文
ヘイ、そのさきに寺がめいます、森の上からお堂の屋根がめいましょう。法華ほっけのお寺でございます。あっこはもう勝山かつやまでござります、ヘイ
河口湖 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
道衍の言を考うるに、大槩たいがい禅宗ぜんしゅうに依り、楞伽りょうが楞厳りょうごん円覚えんがく法華ほっけ華厳けごん等の経に拠って、程朱ていしゅの排仏の説の非理無実なるを論ずるに過ぎず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
走り湯権現の良暹りょうせんは、大勢の僧をつれて会し、法華ほっけ、仁王、軍勝の三部妙典を勤行ごんぎょうして、鎮護国家のいのりをあげた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さればやがて数年ののちには法華ほっけ団扇太鼓うちわだいこ百万遍ひゃくまんべんの声全くみ路地裏の水道共用栓きょうようせん周囲まわりからは人権問題と労働問題のかしましい演説が聞かれるに違いない。
とうとうおしまいにこの日本国にほんこく皇子おうじまれてて、ほとけみち跡方あとかたもないところ法華ほっけたねいた。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
法華ほっけり固まりが夢中に太鼓をたたくようにやって御覧なさい。頭の巓辺てっぺんから足の爪先までがことごとく公案で充実したとき、俄然がぜんとして新天地が現前するのでございます」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雨戸のうちは、相州西鎌倉乱橋みだればし妙長寺みょうちょうじという、法華ほっけ宗の寺の、本堂にとなった八畳の、横に長い置床おきどこの附いた座敷で、向って左手ゆんでに、葛籠つづら革鞄かばんなどを置いたきわに、山科やましなという医学生が
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「成程ここは法華ほっけだね。身延まいりは御信心だ。そうして、いつ立ったのだね」
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
年に二度の法華ほっけの八講、またそのほかのおりおりの仏事などを怠らずあそばすだけがお役目のようで、出入りする中将をかえって御自身のほうが子のように頼みにしておいでになったから
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
また御定番ごじょうばんの松浦九兵衛尉どのは法華ほっけの信者でござりまして、小庵しょうあんをむすんで上人しょうにんをひとり住まわせておかれましたところ、その上人もまつうらどのがろうじょうなさるのをきかれまして
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
平吉の口から出た話によると、彼は十一の年に南伝馬町みなみでんまちょうの紙屋へ奉公に行った。するとそこの旦那だんなは大の法華ほっけ気違いで、三度の飯も御題目をとなえない内は、箸をとらないと云った調子である。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
東大寺——わけても今日「奈良の大仏」として親しまれている毘廬舎那仏びるしゃなぶつ鋳造や、法華ほっけ滅罪寺の建立は御二方の名を不朽ならしめた。御二方なくしては天平仏教の開花はありえなかったであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「たとえばだよ、おまえの宗旨しゅうし法華ほっけだそうだが、おまえが艱難かんなんとうとするときは、日蓮にちれんのつよい意志を思い出して、自分の意志を励まそうとするだろう」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぜんか、法華ほっけか、それともまた浄土じょうどか、なににもせよ釈迦しゃかの教である。ある仏蘭西フランスのジェスウイットによれば、天性奸智かんちに富んだ釈迦は、支那シナ各地を遊歴しながら、阿弥陀あみだと称する仏の道を説いた。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と言って、源氏は屏風びょうぶをもとのように直して去った。もう明け方になっていた。法華ほっけ三昧ざんまいを行なう堂の尊い懺法せんぽうの声が山おろしの音に混じり、滝がそれらと和する響きを作っているのである。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
寂照が願文がんもんを作って、母の為めに法華ほっけ八講はっこうを山崎の宝寺にしゅし、愈々本朝を辞せんとした時は、法輪さかんに転じて、情界おおいに風立ち、随喜結縁けちえんする群衆ぐんじゅ数を知らず、車馬填咽てんえつして四面を成し
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大沼竹渓の墳墓は芝区三田台裏町みただいうらまちなる法華ほっけ宗妙荘山薬王寺の塋域えいいきにある。今茲ことし甲子の歳八月のある日、わたくしは魚籃坂ぎょらんざかを登り、電車の伊皿子いさらご停留場から左へ折れる静な裏通に薬王寺をたずねた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
堂に法華ほっけと云い、石に仏足ぶっそくと云い、とう相輪そうりんと云い、院に浄土と云うも、ただ名と年と歴史をして吾事わがことおわると思うはしかばねいだいて活ける人を髣髴ほうふつするようなものである。見るは名あるがためではない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
豚の如く肥えたここの内儀おかみさんは法華ほっけ信者とみえて、店先から見通しの部屋で、非常に木音のよく響くものをカチカチと懸命にたたきながら、トム公を横目に見て
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一山の高徳天室、宗謙、その他の衆僧が、曹洞最大な法華ほっけをささげて、英魂の冥福をいのるあいだも、義清は、ひとみをあげて、それの壇を仰ぐことができなかった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)