泉水せんすい)” の例文
広い縁の向うに泉水せんすいの見える部屋だ。庭いっぱい、黄金こがねいろの液体のような日光がおどって、霜枯しもがれの草の葉が蒼穹あおぞらの色を映している。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
門の中には右のほうに水のきれいな泉水せんすいがあって、そのへり仮山つきやまがあった。仮山の上には二三本の形のおもしろい小松が植わっていた。
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
泉水せんすいなかに、こいと金魚きんぎょが、たのしそうにおよいでいました。しかし、くろいねこが、よくねらっていますので、ゆだんができませんでした。
こいのぼりと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『今度、お引移りになる本所のお屋敷にも、かなり広い泉水せんすいがあるそうですから、鶴も、それへ移せば仔細はございますまいが』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くだん泉水せんすいを隔てて寝床のすそに立つて居るのが、一間いっけん真蒼まっさおになつて、さんも数へらるゝばかり、黒みを帯びた、動かぬ、どんよりした光がさして居た。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
与八はつるべ縄へ掛けた手を休めて見ていると、その人の影は泉水せんすいの池のほとりから奥殿の廊下の方へと進んで行きます。泥棒どろぼうだ、泥棒に違えねえ
両手で膝をかかえ、視線は、公会堂から泉水せんすいのうえに散る水しぶきの方に落したまま、なお、ひとりごとのように
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
地中を掘ってゆくうち、そういうことのないように気をつけていたつもりであったけれど、とうとうお隣りの鬼河原邸おにがわらてい泉水せんすいをこわしてしまったのであった。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
左側の方は支那風を摸したので桐や竹が植ゑてある。後側は日本固有の造り庭で泉水せんすい築山つきやまこしらへてある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そしてその地図の立派りっぱなことは、夜のようにまっ黒なばんの上に、一々の停車場ていしゃば三角標さんかくひょう泉水せんすいや森が、青やだいだいみどりや、うつくしい光でちりばめられてありました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
祖母はやはり母家を仕切って裏側の部屋に住んでいたが、間の檜戸ひのきどかたく釘づけにされて開かなかった。裏の泉水せんすいは木の葉や泥でうずもって浅く汚くそしてにごっていた。
飾り付けも立派でございまして、庭からずうと見渡すと、潮入しおいりの泉水せんすいになって、模様を取って土橋どばしかゝり、紅白の萩其のの秋草が盛りで、何とも云えんい景色でございます。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
昨日一昨日おとといまでは礫一つ打つことならざしり泉水せんすいの、尺余の鯉を、思ふまゝに釣り勝ち取り勝ちし得べき、公開? 釣堀と変りたることなれは、百の釣手、千の見物の、蟻集麕至ぎしゅうくんしせしも
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
四角い爪をいじりながら西向きのお庭の泉水せんすいに咲いているお父様の御自慢の花菖蒲はなしょうぶをボンヤリ見ておりましたが、今までカンカン照っていたお日様に雲がかかったかしてフッと暗くなりました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして、くろいねこが泉水せんすいちかくをあるいていると、コケッコ、コケッコといって、泉水せんすいなか金魚きんぎょや、こいにも、注意ちゅういをしたのであります。
こいのぼりと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
人間地下戦車が、お隣りの鬼河原邸の泉水せんすいをこわしてしまったので、岡部一郎は、たいへん叱られた。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
戸外おもての方は騒がしい、仏間ぶつまかたを、とお辻はいつたけれども其方そっちを枕にすると、枕頭まくらもとの障子一重ひとえを隔てて、中庭といふではないが一坪ばかりのしツくひたたき泉水せんすいがあつて
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お力士さんのように肥ったからだに、紋服のそでが似合った。泉水せんすいのまわりを歩いているのだ。いい天気だ。金いろの水のような日光が空間くうかんを占めて、空は、高く蒼い。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
フラン毛布けっとを前に押附けて、これから福寿庵の前に車をおろします。車から出て板橋を渡って這入りますと、奥に庭が有りまして、あの庭は余程手広てびろで有りまして、泉水せんすいがございます。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かねて今宵こよいのことをもくろんでいる裏切うらぎり者は、夕方の炊事かしぎどきを見はからって、とりで用水ようすい——山からひく掛樋かけひ泉水せんすい井戸いど、そのほかの貯水池ちょすいちへ、酔魚草すいぎょそう、とりかぶとなどという
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竹林に、風が騒ぎ、どこかの泉水せんすいに、水の落ちている音がする。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
それは空気の中に何かしらそらぞらしい硝子ガラスの分子のようなものがうかんできたのでもわかりましたが第一だいいち東の九つの小さな青い星でかこまれたそらの泉水せんすいのようなものが大へん光が弱くなりそこの空は早くも鋼青こうせいから天河石てんがせきいたかわっていたことからじつにあきらかだったのです。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わたくしが、見張みはりをしてあげましょう。」と、毎日まいにち泉水せんすいのほとりであそんでいるにわとりがいいました。にわとりは、すばしこかったから、けっして、ねこにとらえられるようなことはありませんでした。
こいのぼりと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
數「いや中々の博識ものしりじゃ、うふゝゝ面白い男だの、此の泉水せんすい潮入しおいりかえ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのやかた奥庭おくにわを、もののかげからかげへ、くらがりから暗がりへ、ソロ……ソロ……といきをころしてしのんでいった三つのかげは、やがてひろい泉水せんすいふちへでて、たがいになにかうなずき合いながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは泉水せんすいの大きな池であった。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
泉水せんすいの音。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
天竜川からみれやあ、こんな川は、まるで泉水せんすいみてえなものだ。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蘭「どうも広いお泉水せんすいで」