気位きぐらい)” の例文
旧字:氣位
これまた、円心におくれては、自身のこけんにかかわるような気位きぐらいで、ありもせぬ兵略や猛気をふるッているものと思われる。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今から考えて見ると先方が横柄なのではない、こっちの気位きぐらいが高過ぎたから普通の応接ぶりが横柄に見えたのかも知れない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
智力思想の活溌高尚なることは王侯貴人きにん眼下がんか見下みくだすと云う気位きぐらいで、ただ六かしければ面白い、苦中有楽くちゅううらく苦即楽くそくらくう境遇であったと思われる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それは、前途ぜんとにおおくの希望きぼうを持った、わか時代じだいには、ずいぶんいやにすました人だといわれたこともあった。実際じっさい気位きぐらい高くふるまっていたこともあった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
かれはたかが犬をれていなかを興行こうぎょういて回る見世物師みせものし老人ろうじんではあったが、ひじょうに気位きぐらいが高かったし、権利けんり思想しそうをじゅうぶんに持っていたかれは
零落おちぶれても気位きぐらいをおとさなかった彼女は、渋沢家では夫人がコレラでなくなって困っているからというので、後の事を引受けることになって連れてゆかれた。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
葉子はそんな人間からは一段も二段も高い所にいるような気位きぐらいを感じた。自分の扮粧いでたちがその人たちのどれよりも立ちまさっている自信を十二ぶんに持っていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
女の癖に変なこうポツ/\毛の生えた羽織などを着ていけません、それに洋学などを習ったりすると変な気位きぐらいばかり高くなって、外国の話なんぞを為ますが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
気位きぐらいの高いベシイ・コンスタンス・アニイ・マンディ嬢かられば、いささか教養の点に不満があったようだが、元来性的結合には、なんらの条件が予在しない。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
こうした貧窮ひんきゅうの間にもなお、私をその昔のままの気位きぐらいで育てたのに違いなかったのである。
姉さんのお気に入ろうと思って、乃公にまで恁麽こんなに御愛嬌を振撒くのだろうが、豪気だの豪勢だのという下町言葉を使っては、気位きぐらいばかり妙に高いお花姉さんに好かれる筈がない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
……そして、ひょっとして、こんなふうにでもいったら、見向きもしないというこの長人参を、気位きぐらいの高いこの馬さんに食べていただけるようなことになるかも知れないと思って。
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
言う。貴様、少うし腰も低くなって、気位きぐらいもだんだんと折れて来たと思ったらじきに今のようなとげを出すな。いくら荊を出したとて、もう貴様等ごときせ旗本の天下は廻って来んぞ
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
自分の知人に彼を紹介する場合に、如何に自分が愛されてゐるかを誇示することがまた、気位きぐらいの高い彼女の性格の現はれの一つでもあつた。それは又一面彼女の愛らしい甘へでもあつた。
ある夜 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
人を人とも思わず、気位きぐらい高う生まれたは、母の子なれば是非がないのじゃ。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし、その父親は酒飲みで、さんざん遊び暮らし、娘に迷惑ばかりかけてることは、クリストフもたやすく推察し得た。彼女はしぼり取られながら、気位きぐらいを高くもって一言も文句を言わなかった。
君兪は名家に生れて、気位きぐらいも高く、かつ豪華で交際を好む人であったので、九如は大金をもたらして君兪のために寿じゅを為し、是非ともどうか名高い定鼎を拝見して、生平せいへいの渇望をしたいと申出もうしだした。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そしてわれわれはそれによってある気位きぐらいを自分自身で感じていたものだった。先ず鞭声粛々べんせいしゅくしゅく時代といえばいえる。東洋的大和魂やまとだましいがまだわれわれの心の片隅かたすみに下宿していたといっていいかも知れない。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
事実、直義自身も、それくらいな気位きぐらいだった。このさいの難関は、たんに、兄の代行者ぐらいなことでは切り抜けえないとしていたのである。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これがお延のとうから叔母おばにぶつかって、ただして見たい問であった。不幸にして彼女には持って生れた一種の気位きぐらいがあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
銭はうちの銭だ、盗んだ銭じゃないぞと云うような気位きぐらいで、かえって藩中者の頬冠をして見栄みえをするのを可笑おかしくおもったのは少年の血気、自分ひと自惚うぬぼれて居たのでしょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
けれどいくらなり下がってもやはり気位きぐらいが高く、これが有名なカルロ・バルザニのなれのてだということを世間に知られるくらいなら、はずかしがって死んだでしょう。
職人でも芸人でも金持に贔屓にされるアいが、見よう見真似で万事贅沢になって、気位きぐらいまで金持を気取って、他の者を見くびるようになるから、おらア金持と交際つきあうことア大嫌でえきれえだ
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その声に、夫人のふところに眠っていた幼君の阿斗あとが泣きだした。侍女たちは怖れてみな片隅に打ち慄えている。しかし、さすがに夫人は気位きぐらいが高い。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小林の云い方があまり大袈裟おおげさなので、お延はかえって相手を冷評ひやかし返してやりたくなった。しかし彼女の気位きぐらいがそれを許さなかったので、彼女はわざと黙っていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
右の如く、ただ気位きぐらいのみ高くなりて、さて、その生計はいかんというに、かつて目的あることなし。
といえば、今川家では、侮蔑ぶべつまとであったから、彼女の気位きぐらいは、築山の一かくに住んでからも、三河者の家来をいやしみ、良人にはわがままと盲愛でのみ接していた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やはり人間同等の気位きぐらいで彼等の思想、言行を評隲ひょうしつしたくなる。これも無理はあるまい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これへ来るまでのあいだに、宗厳の心は、自分が柳生城のあるじであるというような日頃の習慣や気位きぐらいはとうにりすてていた。道を求めてまないものだけが胸を占めていた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六波羅の目代という官僚的な気位きぐらいは、庶民の想像以上、彼自身には、高い位置であった。従って、頼朝をめぐる郷土の青年たちの活動も、まったく知らないではなかったが
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恋の盲目は何をするか分らない——殊に御方は公卿出の気位きぐらいと、江戸で別扱いの吾儘わがままに勝った人、まったくそんなこともやりかねないのである。新九郎はのどを締められるような強迫を感じた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)