欣然きんぜん)” の例文
以て此證據の品にもとづき事成就じやうじゆ致すやう深慮しんりよの程こそ願はしとのべければ伊賀亮は欣然きんぜんと打笑ひ左こそ有べし事を分てたのむとあれば義を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
茶会御出席に依り御心魂の新粧をも期し得べく、決してむだの事には無之これなく、まずは欣然きんぜん御応諾当然と心得申者に御座候。頓首。
不審庵 (新字新仮名) / 太宰治(著)
宋憲は欣然きんぜんと、武者ぶるいして、馬を飛ばして行ったが、敵の顔良に近づくと、問答にも及ばずその影は、一まつの赤い霧となってしまった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
工匠こうしょうの家を建つるは労働なり。然りといへどものみかんなを手にするもの欣然きんぜんとしてその業を楽しみ時に覚えず清元きよもとでも口ずさむほどなればその術必ずつたなからず。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
僕もそれを拒む理由はないし、欣然きんぜんと応諾しました。不破が連れて行ったのは、花園町のあるウナギ屋の二階です。不破は革財布を掌でパタパタと叩きながら
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
殺戮さつりくを何とも思はぬなどは一層小児と選ぶところはない。殊に小児と似てゐるのは喇叭らつぱや軍歌に鼓舞されれば、何の為に戦ふかも問はず、欣然きんぜんと敵に当ることである。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
古来多くの新米しんまい山姥やまうば、すなわちこれから自分の述べたいと思う山中の狂女の中には、何か今なお不明なる原因から、こういう錯覚を起こして、欣然きんぜんとして自ら進んで
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
野々宮君はすこぶる質素な服装なりをして、外で会えば電燈会社の技手くらいな格である。それで穴倉の底を根拠地として欣然きんぜんとたゆまずに研究を専念にやっているから偉い。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暗いところに数十日をぶち込まれたはずの彼等の、顔色の何処どこにそんな憂色があるか! 欣然きんぜんと、あたかも、凱旋がいせんした兵卒のようではないか! ……迎えるものも、迎えらるるものも
(新字新仮名) / 徳永直(著)
きょうにして敬あらばもって勇をおそれしむべく、かんにして正しからばもって強を懐くべく、温にして断ならばもって姦をおさうべし」と。子路再拝して謝し、欣然きんぜんとして任におもむいた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それと反対に未熟ではあるが気韻生動して作陶に生命あるものとなされるならば、私は欣然きんぜんとして層一層研究を進め後進青年達各位のためになにか遺さなければならんと思っているものであります。
近作鉢の会に一言 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
お雪は欣然きんぜんとして、立って本を取りに自分の部屋へ出かけました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
矢部も欣然きんぜんとして喜びけり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
欣然きんぜんとして 煩襟はんきんひろうす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたくし欣然きんぜんとしてさけんだ。
三郎は欣然きんぜんとして
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八風斎も欣然きんぜんとして、衣服大小をりっぱにあらため、獣皮じゅうひにつつんだ図面を懐中ふところにいれ、ふたりのあとについて屋敷をでた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貸與かしあたへたれば左京は欣然きんぜんと支度を調とゝのふもとさして出で行きし跡に大膳は一人つぶやき左京めが己れが意地いぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
殺戮さつりくを何とも思わぬなどは一層小児と選ぶところはない。殊に小児と似ているのは喇叭らっぱや軍歌に皷舞されれば、何の為に戦うかも問わず、欣然きんぜんと敵に当ることである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
欣然きんぜんと死におもむくということが、必ずしも透明な心情や環境で行われることでないことは想像は出来たが、しかしのあたりに見た此の風景は、何か嫌悪すべき体臭に満ちていた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
『西遊記』にいうところの薩摩方面の山わろなども、やはり握り飯をもらって欣然きんぜんとして運送の労に服したが、もし仕事の前に少しでも与えると、これを食ってから逃げてしまう。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
雀を見よ。何ひとつ武器を持たぬ繊弱の小禽しょうきんながら、自由を確保し、人間界とはまったく別個の小社会を営み、同類相親しみ、欣然きんぜん日々の貧しい生活を歌い楽しんでいるではないか。
後年の孔子の長い放浪ほうろう艱苦かんくを通じて、子路ほど欣然きんぜんとして従った者は無い。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
暁霧咫尺しせきヲ弁ゼズ。既ニシテ西風一掃シ碧空ぬぐフガ如シ。近日ノ連雨、今仰イデ天日ヲ見ル。衆欣然きんぜんトシテまゆヲ開キ、覚エズ脚力精進セリ。郡山こおりやまいたルニ朝市マサニ散ゼントシテ日影食時ニ向フ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
中野君は欣然きんぜんとして帰って行く。高柳君は立って、着物を着換えた。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
少年は欣然きんぜんとして勇み立ちました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たった今、主人信長を弑逆しいぎゃくした光秀すら、信忠から書を以て、親王の御移徒ごいしを仰いだうえで決戦せんとの申し入れには、欣然きんぜん、応諾の旨を答えている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手に持て欣然きんぜんとしてひかへたりやがて言葉を發して九條家の浪人山内伊賀亮いがのすけとやらん其方の儀は常樂院よりつぶさ承知しようちしたり此度予につかへんとのこゝろざし神妙しんめうに思なり以後精勤せいきん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
同時にまた次第に粟野さんの好意をにした気の毒さを感じはじめた。粟野さんは十円札を返されるよりも、むしろ欣然きんぜんと受け取られることを満足に思ったのに違いない。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それでも文鳥は欣然きんぜんとして行水ぎょうずいを使っている。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
欣然きんぜんとしてまぼろしの春を待ったのである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
随斎が撰した『房山集』の序に「予ハすなわチ竹渓先生ト忘年ノ交ヲかたじけのフス。子寿モマタ推シテ父執トナシ時時来ツテソノ文字ヲ質ス。予乃チソノ美ヲ賛揚シソノヲ指摘ス。子寿欣然きんぜんトシテコレヲ受ケ改メズンバカザルナリ。」
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
欣然きんぜん同意を得ました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
信雄は欣然きんぜんとして、長島へ帰った。庸劣ようれつなこの公達きんだちは、秀吉から約された微々たる戦捷せんしょうの分け前をもって、鬼の首でも取ったように、得々とくとくとして去った。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
辛毘は欣然きんぜんと会いにきて、袁譚から手簡を受けた。袁譚は使いの行をさかんにするため、兵三千騎を附してやった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふたりは深く恩を謝して、自国の降服を、さながら自己の幸運のごとく欣然きんぜんとして帰って行った。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もちろん秀吉は、欣然きんぜんそのいさぎよきねがいをいれ、併せて、三木の城を収めた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、その生命は枯化するなく、肉体のないいのちも、幾世にわたって、思うところの動きをなしうるのであるから、むしろ欣然きんぜんとして、大火焔のうちに微笑をたたえていただろうと思われる。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
欣然きんぜん、馬岱は下流へ向った。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)