をり)” の例文
或日おれはをりの羊に、いろいろな本を食はせてやつた。聖書、Une Vie, 唐詩選たうしせん、——なんでも羊は食つてしまふ。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
襦袢じゆばんや何かを縫つたり又は引釈ひきときものなどをして単調な重苦しい時間を消すのであつたが、然うしてゐると牢獄のやうなをりのなかにゐる遣瀬やるせなさを忘れて
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
狐も沢山くしゃみをして起きあがってうろうろうろうろをりの中を歩きながら向ふの獅子の檻の中に居るまっくろな大きなけものを暗をすかしてちょっと見ました。
月夜のけだもの (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
自分の心のうちを眺め、その思想や感情をしらべ、はてしのないらちのない、想像の荒野の中を逍遙さまよつてゐるのを嚴格な手で安全な常識のをりの中につれ歸らうと努力した。
金太郎は中學で物理の時間に四かくをりのやうなはりさい工のはこの中に人間を入れておいて、そのはこに高あつ電流を通じても、中の人間は少しも知らないで平然としてゐられる
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
老人は障子の外の、廊下の片隅に置いてあるをりの狐に合掌して何か云つてゐた。よく聞くと
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
萬一の事を考へて、俺はこれだけの用意をしたのだ——今まで彼方此方に散らして置いた五人の兄妹は、昨夜まとめて此處へ連れ込んで、以前熊を入れたをりの中へ投り込んである。
幾ら異教徒嫌ひの神様だつて、まさかソクラテスと浜田氏を同じをりには打込ぶちこむまいから。
之に加ふるに東側の巌端には危ふく懸れる倒石ありて我をおびやかし、西方の鉄窓には巨大なる悪蛇を住ませて我を怖れしめ、前面には猛虎のをりありて、我室内に向けて戸を開きあり
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
それはお疳癪かんしやくつのつてなまやさしい離縁りえんなどをおしなさるより何時いつまでもをりなかいてくるしませてやらうといふおかんがへであつたか其處そこわからぬなれども、いまではわたし何事なにごとうらみも
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おくみはその間井戸ばたへ出て、つまをからげて傘をさしかけてゐてお上げした。山羊はじと/\と水を吸うたをりの板屋根の下に小暗く引つ込んで、人のけはひを恋しがるやうにみい/\啼いた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
イヘ默止ますまいと云ば何役人へ對ひ不屆の一言牢へ打込うちこむぞとしかり付れば三五郎はハイ/\牢へでもをりでも勝手の處へ入度ば入さつしやい何ぼ御奉行でもよりほかには御座るまい依怙贔屓えこひいきなどを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
小さなをりが運ばれて来た。それには兎と雞とが入れてあつた。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
うつし世をはかなむかあはれ穴熊はをりの奧にべそをかきゐる
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
我は知る、このをりの家を出づるなきを
妄動 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
日はをりの外よりぞむごくも臨む。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
花百合のなかにけものをりは見ゆ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
またにがをりのおびえに
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
をりのなか
歌時計:童謡集 (旧字旧仮名) / 水谷まさる(著)
外をのぞくと、うす暗いプラツトフオオムにも、今日は珍しく見送りの人影さへ跡を絶つて、唯、をりに入れられた小犬が一匹、時々悲しさうに、吠え立ててゐた。
蜜柑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は心の弱き者の爲めに力を願ひ、をりからさまよひ出た者に導きを、また現世と肉の誘惑が狹い路から誘つてゐる者の爲めに、しまひぎはにさへ歸つて來ることを願つた。
その青じろい月の明りを浴びて、獅子ししをりのなかをのそのそあるいてりましたが、ほかのけだものどもは、頭をまげて前あしにのせたり、横にごろっとねころんだりしづかにねむってゐました。
月夜のけだもの (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
けものに於てをりと呼ぶもの
妄動 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
そとのぞくと、うすぐらいプラットフォオムにも、今日けふめづらしく見送みおくりの人影ひとかげさへあとつて、ただをりれられた小犬こいぬが一ぴき時時ときどきかなしさうに、ててゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あの横手にあるをりにゐる野獸か、それとも惡鬼の動くのを耳をすましてゐなくてはならなかつた。しかし、ロチスター氏が來て以來、それはまるで咒文に縛られたやうであつた。
前のいろ/\な出來事に懲りてゐる弟子たちは、まるで虎狼と一つをりにでもゐるやうな心もちで、その後師匠の身のまはりへは、成る可く近づかない算段をして居りましたから。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
前のいろ/\な出来事に懲りてゐる弟子たちは、まるで虎狼と一つをりにでもゐるやうな心もちで、その後師匠の身のまはりへは、成る可く近づかない算段をして居りましたから。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)