よこたわ)” の例文
しかも、日頃忠実であって、深い信頼をけていた由蔵が、僅々きんきんの時間に、場所もあろうにこんな所に屍骸と化してよこたわっているとは!
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから、私はガクガクする足を踏みしめながら、そこによこたわった兄の死体を側の古井戸までころがして行き、その底へと押しおとしました。
彼はまないたの上に大の字になってよこたわったように、ベンチの上にのびのびと横っていた。彼は伝教のことなどもう今はどうでもよかった。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
余にしてもしマロック皮の大椅子おおいすよこたわりて図書室に食後の葉巻を吹かすの富を有せしめば、おのずからピアノと油絵と大理石の彫刻を欲すべし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
机のかたわらに押立たは二本だち書函ほんばこ、これには小形の爛缶ランプが載せてある。机の下に差入れたはふちの欠けた火入、これには摺附木すりつけぎ死体しがいよこたわッている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
話が大変科学的であるようだが、しかしながらこの科学が油絵の重大な原因ともなってその技術の底によこたわっている事を忘れてはならないのである。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
そこによこたわる実際の煩わしさが如何に自分の神経にさわるかなどと云うことは考えず、女性の共通本能で、生やさしく家庭生活をあこがれたのではないか。
一旦寝台によこたわってから、一度起上って扉に内側から鍵をかけた形跡が歴然としていたので、その際誤ってガス管を足に引かけ、抜け去ったのを知らないで
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
その中間によこたわっている多数の場合は皆この両面を兼ねているでしょう。もし兼ねているのが不都合ならば或る比例において入り交っていると云うが好いでしょう。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
後殿しんがりになっていたM氏は、其辺で太さ湯呑大の蛇が途によこたわっていたのを火光あかりかして見たそうだ。
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
厭らしい黄色な幅広い一筋の雲が、くっきりと灰色の空に浮き出ていた。——ただその黄色な雲の帯が長くよこたわっているのを見たばかりで、後は日の落つる処も見えない。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
幾本かの大きなぼくが庭によこたわって仕事を待っている。それを一尺ほどに切って轆轤ろくろにかける。凡て生木である。見ていると松のしぶきが強い香りを立てて吾々の顔を打つではないか。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
たそがれの空は、古びた絵のように重々しく静かに、並木の上によこたわっていた。
可哀相な姉 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
しかし現在そこによこたわっている死体は、人間でない、勿論M大尉でない。たしかに一匹の古狐であった。若い士官たちが如何いかに雄弁に論じても、この生きた証拠を動かすことは不可能であった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたくし衣服ゐふくあらためて寢臺ねだいよこたわつたが、何故なぜすこしもねぶられなかつた。
それは吾々の心の底によこたわつて居る根強い力である。
菊の根分をしながら (新字旧仮名) / 会津八一(著)
それらの人や彼等の創造物のよこたわ
余にしてもしマロック皮の大椅子おおいすよこたわりて図書室に食後の葉巻はまきを吹かすの富を有せしめば、おのずからピアノと油絵と大理石の彫刻を欲すべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼は完全に祖国を救ったのでした。しかも彼の死たるや僕に洩したとおりとすれば彼の側には愛人のなきがらも共に相並んでよこたわったことであろうと思われます。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
この一番に重要な、一番に不明確な「場所」に、ある何ものかと混合して、人としての眼と、個人としての眼と、その個人を見る眼とが意識となってよこたわっている。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その根柢によこたわる男女共通の勤労階級としての利害を理解して、しかもその上に、女の母性が必要とする様々の条件を見て行こうとする段階に歩み出して来たのである。
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
毛沼博士が一旦寝台によこたわってから、暫くして眼を覚ましたものとすると、もう余ほど酔が覚めているだろうから、ガス管を蹴飛ばしたり、ガスの漏洩に気がつかないという事はない筈だ。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それらの人々にようせられて、今は彼自身のうちであるところの、菰田邸につれて行かれる間、それから、そこの主人の居間の、彼が嘗て見たこともない様な立派な夜具の中によこたわってからも
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ここには、もはや理論を絶した、手をつけることの不可能な、混濁したものがよこたわっているのである。参木は運び出されたスープの湯気の上へ延びながら、笑っていった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
誰にも語ることのできない淫恣いんしな生涯の種々様々なる活劇は、丁度現在目の前によこたわっている飯田橋いいだばしから市ヶ谷見附に至る堀端一帯の眺望をいつもその背景にして進展していた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その天井の、ちょうど女の屍体がよこたわっている真上まうえおぼしい箇所に、小さな、黒いが見えていたのだ。いや、黒いと思ったのは、実は真紅な環で、血のにじみ出た環であったのだ。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
文学作品ではないが「新しき土」に対する日本の有識者間の批評とドイツの批評との間によこたわるグロテスクな現代的矛盾についてなど若し一事実として報告的にふれられることが出来たら
夕闇の街路には、先刻さっきのエレベーター・ボーイを始め数人の人々が死体を取り囲んでいた。その真中に、ひしゃげた様な黒いものがよこたわって、暗い中にも、生々しい血潮ちしおがハッキリ見えていた。
左方さほうに立つがけの側面をえがくに北寿は三角形の連続を以てし、またそのふもとよこたわる広き畠をばと緑と褐色の三色を以て染分けたる格子となし、これを遠近法によりて配列せしめたる事なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
智識階級の自意識過剰の問題がよこたわっているからであるが、いったい、浪曼主義と云い、能動主義を云う人々で、一番に解決困難な自意識の問題を取り扱った人々を、かつて私は見たことがない。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
早春の平野に包まれた湖が太陽に輝きながら、眼下に広広とよこたわっていた。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そのもあらず一同を載せた屋根船は殊更に流れの強い河口のうしおに送られて、夕靄ゆうもやうちよこたわ永代橋えいたいばしくぐるが早いか、三股みつまた高尾稲荷たかおいなりの鳥居を彼方かなたに見捨て、暁方あかつきがたの雲の帯なくかなかずの時鳥ほととぎす
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)