書籍ほん)” の例文
まだペンキの香のする階段はしごだんを上って行って二階の部屋へ出ると、そこに沢山並べた書架ほんだながある。一段高いところに書籍ほんの掛りも居る。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうでもあるまい、相当であろうぞ。……もっとも『赤蝦夷風説考』などという、しちむずかしい書籍ほんを作り、ロシアとの貿易を
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
先月は少し書籍ほんを買ったものだから送るものを送られなかったという申しわけをして、机の上にある書籍ほんを出して父親に見せた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この遺憾を補う一端いったんとして、最近読んだ書籍ほんの中から、西洋にもあり得た実例の一例として、その要領だけを引き抜いてみることにしよう。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
僕の酒宴のむしろを奪いながら平気で書籍ほんを読んで居るなんてと、僕はそれで貴様を見つめながら此処を去らなかったのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
惜しいのばかり取り残しておいた書籍ほんを売ったりしてやっといるだけのぜにを工夫してお宮の気嫌げんをとりにやって来たのだ。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
出入りの貸本屋にお金を出して新本をかわせ、内密ないしょで読んで、直きにやってしまうので、彼は注文次第で、どんなむずかしい書籍ほんも買って来てくれた。
ギッシリと書籍ほんをつめて趣のある飾り方をして居る千世子の部屋を「誰かに見せてやりたい」などとも自分で思って居る千世子は出来る事なら肇にこれを
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
世高は昭慶寺の前の家へ帰ったが、女のことで頭がいっぱいになっていて、書籍ほんを見る気にもなれなかった。
断橋奇聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いや厚い、いや細かい、これも読んだのかと取散らしある大字典の金字に目を留め、これは高価な物であろうと云われたに附込んで、書籍ほんの代に追れますと
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
ここに着物が二枚ある、是れでまかないの代ぐらいはあるだろう、ほか書籍ほんもあるが、是れは何にもならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
背皮に黄金おうごんの文字をした洋綴ようとじ書籍ほんが、ぎしりと並んで、さんとしてあおき光を放つ。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
昼寝をしていた高安平四郎たかやすへいしろうは、顔に乗せていた書籍ほんを落して、むくりと寝転ねがえると
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その晩、三吉は遅くまで机に対って、書籍ほんを開けて見たが、彼が探そうと思うようなものは見当らなかった。復た夜通し考え続けた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
えたような心を我れから引き立てて行李こうりをしばったり書籍ほんをかたづけたりしながらそこらを見まわすと、何かにつけて先立つものは無念の涙だ。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ははああいつが鑿孔機せんこうき、うんとこさ書籍ほんも持っていやがる……オヤオヤオヤ人形もあらあ、やアいい加減じじいの癖に、あんな人形をいじっていやがる。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
左様そうサね、僕は忘れて了った。……何とか言ったッけ。」とひとり書籍ほんを拾い上げて、何気なにげなく答える。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
清三が書籍ほんばかり見て、あおい顔をして、一人さびしそうにして宿直室にいると
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
私はよく言われた、お前は、書籍ほんばかりすきだと、ああいう人になるよと。
あらかじめ書籍ほんに就いて、その名を心得、その形を知って、且ついかなる処で得らるるかを学んでいるものにも、容易に求猟あさられない奇品であることを思い出した勇美子は、滝太郎がこの苔に就いて
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ、まあボツボツ集めてます……なんにも子供にのこして置く物もありませんから、せめて書籍ほんでも遺そうと思いまして……」
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そんな事はどうでもよい。これちょっと手伝ってくれ。かくしから、書籍ほんを出してくれ」相変わらずいかにも呼吸いき苦しそうに紋太夫は云うのであった。
「あゝ行きたい。」と思えば段々段々と大切にしている書籍ほん凝乎じっと、ひらいて見たり、ひねくって見たりして、「あゝこれを売ろうか遊びに行こうか。」と思案をし尽して
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
甲乙ふたりは無言で煙草を喫っている。ひとり書籍ほん拈繰ひねくって故意わざと何か捜している風を見せていたが
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
古い書籍ほんや紙の匂いが——悪い印刷インキの香は堪らない。
十六歳の秋から二十歳はたちの夏までを送った学窓に離れて行く時が捨吉にも来た。荷物や書籍ほんは既に田辺の小父さんの家の方へ送ってあった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「こう書籍ほんにありました」「斯うある人が云って居ります」つまりこんなように云われるのである。これは露骨な自己拡張を、欲しない人の態度である。
小酒井不木氏スケッチ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
長く彼方あちらにいるつもりであったから、その中には、私に取って何よりも大切な書籍ほんもあった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
暫時しばらくすると、ひとり書籍ほんを草の上に投げ出して、のびをして、大欠おおあくびをして
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
友達の読む書籍ほんは彼も読み、彼の読む書籍は友達も読んだ。話せば話すほど引出されて行く。後から後から何か湧いて来る。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
書籍ほんを取り上げページひるがえし、じっと一所ひとところを見詰めたが、ガラリ言葉の調子を変え紋太夫はこう云った。
けれども果して書籍ほんに入れたのやら、それとも私自身に入れたのやら、分らなくなった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「それは別問題です。」と彼は一寸ちょっと眼を自分の書籍ほんの上に注いだ。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
岸本は学校の書籍ほんを習うよりも前に、父が自身で書いた三字文を習い、村の学校へ通うように成ってからは大学や論語の素読を父から受けた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
咒文とは真理の精粋エッキスを、短いリズミカルの文にしたもので、咒文の解剖を行ったら、大部の書籍ほんさえ出来るのであった。印を結ぶということは、自己催眠の手段であった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
矢張やはり書籍ほんからうぢやないか』と判事はんじこたへた。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
その事を胸に浮べて、彼は自分の部屋に帰った。旅のかばんに入れて国から持って来た書籍ほんの中には昔を思い出させる英吉利イギリスの詩人の詩集もあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
冠者の前には台があり、台の上には書籍ほんがあり、書籍ほんには次のように書かれてある。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「僕は此処ここ書籍ほんを読むの自由をもって居ます。」
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それは巴里のサン・ミッシェルの並木街あたりを往来ゆききする人達の小脇こわきはさまれるような、書籍ほんや書類などをれるための実用向の手鞄であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
で、十平太は書籍ほんを出した。黒い獣皮で装幀された厚い小型の本である。
「ええ……左様さようだ……貴方がたの父親さんは、こう大きなふところをして、一ぱい書籍ほん捩込ねじこんでは歩かっせる人で……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
利器——書籍ほんさ! 何んでもありゃァしない。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
旅情を慰める為に、曾根が東京から持って来た書籍ほんは机の上に置いてあった。それを曾根は取出した。旅に来ては客をもてなす物も無かったのである。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『すこしばかり書籍ほんを持つて来ました——奈何どうでせう、これを引取つて頂きたいのですが。』と其を言へば、亭主は直に丑松の顔色を読んで、商人あきんどらしく笑つて
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
老先生が眼鏡を掛て、階下したで牛肉を切つて居る間は、奧の二階は閑寂しんとして居る。そこには先生の書籍ほんが置並べてある。机の上には先生の置き忘れた金錢かねがある。
次第に三吉は恐怖おそれいだくように成った。いつもお俊が風呂敷包の置いてあるところへ行ってみると、着物だの、書籍ほんだのは、そのままに成っているらしい。三吉はすこし安心した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ホラ、あのお繁の亡くなった時には、山から書籍ほんを詰めて持って来た茶箱をけずり直して貰って、それを子供の棺にして、大屋さんと二人で寺まで持って行きました。そういう勢でしたサ。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこいらに散乱ちらかつたものは皆な押入の内へ。床の間に置並べた書籍ほんの中には、蓮太郎のものも有る。手捷てばしこく其を机の下へ押込んで見たが、また取出して、押入の内の暗い隅の方へ隠蔽かくすやうにした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)