さか)” の例文
そうしてかくのごとき丁稚生活からたたき上げる地位が満員になってから後、さらに中年者の都会出稼ぎということがさかんになった。
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これらの長篇制作ちょうへんせいさくに関するノートを書きつけたような結果になったが、他の人々も今後さかんに純粋小説論を書かれることを希望したい。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
また城内には燎火にわびさかんに焼かせるがよい。——ただし防禦は厳に、部署は整然と、鳴りをしずめ、敵の懸りようを見まもっておれ
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
横着で、物慾がさかんで、生活力が強大で、その上力があつて、女漁をんなあさりに一生を賭けたやうな、手のつけやうのないやくざ男だつたのです。
さかんな表現の衝動をもって、深い、博い人性の善くなろうとするねがいを失わずに、あなたの芸術的努力をつづけて下さいまし。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そうした場合、もしも創作意慾がさかんであり、ジャアナリズムの気受けがよかったら、彼の心意もそう沮喪そそうしなくても済むはずであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もつと努力がさかんで内部の芸術的活動が盛んであれば、完成したものとして、振返つても見ずに、すぐ先きの活動に移つて行くはずである。
三月の創作 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
むろん失笑しはしない。辛くもがまんしたが、大いに気は楽になったらしく、積極的に掛け声をあげて、しきりに闘志のさかんなところを示した。
雨あがる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
またその頃、築地に起立工商会社という美術貿易の商会があって、これは政府の補助を受けなかなかさかんにやっておった。
血気さかんなゲルマン人を指揮者に選び、住居と植民地とを求めて、親族、朋友、故郷に別れを告げて、出発したのである。
さかんなることはうしおのように、今もこうしてわたしの身肉に食い入って、わたしをこんなに浮動させている悩ましいこの存在を、お前は知らないの?
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何しろ飲みさかっている絶頂だったので、以前の飲み仲間なぞは、一時真剣に心配したり冷かしたりして、手を換え品を換えて詰問したものであるが
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この地方で高松人は、早くより土州の立志社に共鳴してその支社を開いていたから、それらの人々はさかんに演説会を開いて自由民権の唱道をしていた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
煙はさかんにして火は遂にえたり、けんは抜かれて血は既に流されたり。燕王は堂々として旗を進め馬を出しぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
春風楼の茶の間の大きな古代青銅の鉄瓶に白い湯気がさかんに立って、微妙な快い音が鳴っていた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
とにかく、メンスのあがつた女性ぢよせいで(どうもこれも失言しつげんらしいが)いてます/\さかん(これもまた失言しつげんらしいが)なのは、關西くわんさいでは林歌子はやしうたこ關東くわんとうでは長谷川時雨はせがはしぐれだけである。
父といふ人は、強慾がうよくで、そして我執がしふの念の強い、飽迄あくまでも物質よくさかんな人物であツたらしい。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
こうした感情は日光浴の際身体の受ける生理的な変化——さかんになって来る血行や、それにしたがって鈍麻してゆく頭脳や——そう言ったもののなかに確かにその原因を持っている。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
大きな穀物問屋の白壁に「売家」の貼紙はりがみが雨風にさらされて黄色くなっていたり、鷲尾がまだ土地にいた頃はさかんだった時計屋の看板が、かたむいて軒と一緒に倒れかかっていたりした。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
食慾がさかんになって、肉がついて来ました。そうです、僕はふとりはじめたのです。
誤診 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
その時も私は多少それに応酬したことがあったが、今また反花鳥諷詠論のさかんになろうとすることを見るに及んで、私はまた私の説の価値を自ら大きく評価するようになろうとしている。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そのころは左翼運動のさかんな頃で、高木と私が歩いていると、しきりに訊問じんもんを受けた。ニコライ堂を背にして何遍となく警官と口論した鮮明な思い出もあり、公園の中や神楽坂かぐらざかやお濠端ほりばた等々。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
取っておきの老酒ラオチューかめが姿を消したり、つらはちの苦難つづきであったが、しかもなお彼は抗日精神こうにちせいしんに燃え、この広大なる濠洲の土の下に埋没まいぼつしている鉱物資源を掘り出し、重工業をさかんにし
格納庫は、まださかんに燃えている。しかしトラスト型の鉄骨と、飛行機の形骸けいがいを、無慚むざんにもさらして、はや、火焔も終りに近かった。老博士は、敵の銃口に身をさらしながら、なおも言葉をつづける。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
それからそれを始めてからずつとやり通したたゆまぬ勤勉さ、その困難を切り拔けたあなたのさかんな精力と他からわづらはされぬ氣質——それ等の中に僕は、僕が求めてゐる性格の總和を認めたのです。
「迷惑だとおっしゃるんですか。」前川は、勢いさかんに訊ねた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
生命を支へる大事な材料をさかんに集めて蓄めるのだ。
金五郎 (棄鉢になり、闘志がさかんになる)
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
大国今川の大規模な軍備とそのさかんな行装は、宇内うだいの眼をみはらせた。また、その宣言は、弱小国のきもをすくませるものだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勘太夫は若い頃に江戸邸で用人を勤め、酒も呑むし遊里などへもさかんに出入りして、ひとさかり家中での「通人」と云われた過去をもっている。
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たとえば私の師匠東雲師がさかんにやっておられた時代に、私たちのような弟子を置いたようなわけとは全く訳が違います。
世の中の好奇心の方はかえってさかんで、こんな会を催すと、江戸中の文身自慢は言うには及ばず、蚤の螫した跡のような文身を持っている人間までが
本年に這入はいってさかんになった能動精神といい、浪曼主義というのも、云い出さねばおられぬ多くの原因の潜んでいることは、何人も認めねばなるまい。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
分家をすれば平民となるのが辛さに、縁もゆかりもない絶家ぜっけぐ風習がはなはださかんである。
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
燕王はかちに乗じて諸将を進ましめぬ。燕兵の済南に至るに及びて、景隆なお十余万の兵を有せしが、一戦にまた敗られて、単騎走り去りぬ。燕師の勢いよいよさかんにして城をほふらんとす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何だか新しいうしほの滿ちて來るやうな、さかんな、爽快たうかいな感想が胸にく。頭の上を見ると、雨戸あまどふし穴や乾破ひわれた隙間すきまから日光が射込むで、其の白い光が明かに障子しやうじに映ツてゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
果ては時々来る小童などにそぞろごとを云いかけては心をなぐさめていたが、愈々徒然の心がさかんになって、故郷を思う心ばかり多く極楽を願う心は少なくなってしまいました。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は外房州の「日本で最も早く、最もさかんなる太平洋の日の出」を見つつ育ち、清澄きよすみ山の山頂で、同じ日の出に向かって、彼の立宗開宣の題目「南無妙法蓮華経」を初めて唱えたのであった。
そうして、そのハイカイと称える詩をさかんに作って名を成した人にヴォカンスという人がありました。これはもう相当の老人でありました。その人はハイカイ詩人の集りには欠けていました。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
彼は血気さかんな時分でさえ、こんなに仕事のはかどったことがなかった。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
さかんな気力じゃ。わしは、この身体で——闘えぬであろう」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
と、がせて来た。——と果たして、賤ヶ嶽方面に煙が見られ、やがて、葛尾の岸近くに来ると、さかんな銃声さえ聞えて来たのであった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家鳴り震動はますますさかんである、床下でも負けずに景気をあげている、「うーん」旦那は閉口して唸った、とたんにあらゆる物音が死滅した。
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
気もさかんであるから、高い足場へ上って、差図をしたり、竹と丸太をいろいろに用いて、おとがいなどの丸味や胸などのふくらみをこしらえておりますと
こういうような夢想にふけって歩いている定雄の頭の上では、また一層鶯の鳴き声がさかんになって来た。しかし、定雄はそれにはあまり気附かなかった。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
もう一つは健康で事業欲のさかんな讃之助は、忘れるともなく隆少年の事を忘れる時間の方が多くなって行きました。
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
利休がさかんな時代に、これも並び称された無量居士という隠士は死の直前に於て
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは夜明けの最も気力のさかんな時刻とか、またはよくよく人影の見えぬときを見定めて、決行するものと考えられる。芝の上に卵や雛の落ちていることは、気をつけているためかいよいよ多くなる。
何か、彼の満身が血でふくれた。無人は、自分たちのさかんだった時代の気骨を、そのまま持つ若者を見いだしていることがうれしいのであった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海面には相変らず夜光虫の活動がさかんで、夢のようにおぼろなその青白い光が、この場面を一層妖しいものにしていた。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)