断念あきらめ)” の例文
旧字:斷念
ちょっとなまって、甘えるような口ぶりが、なお、きっぱりと断念あきらめがよく聞えた。いやが上に、それも可哀あわれで、その、いじらしさ。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身を断念あきらめてはあきらめざりしを口惜くちおしとはわるれど、笑い顔してあきらめる者世にあるまじく、大抵たいていは奥歯みしめて思い切る事ぞかし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これで断念あきらめるかと思いのほか、また翌年の夏船でやって来て、ひちくどく纏いつきますけん、お種も腹を立て、云分いいぶんつくる気なら勝手にしなされ
と云って、のままに立去たちさるほどの断念あきらめは付かぬ。断念の付かぬのも無理はない。重太郎は宝に心をひかされて、徒爾いたずらに幾日かを煩悶のうちに送った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし良人おっとわたくしよりもきに歿なくなってり、それにまたかみさまが、時節じせつればわしてもやるとまうされましたので、そちらのほう断念あきらめ割合わりあいはやくつきました。
夫の方からは病気になつたからとて離婚するは人情でないから出来ぬと言ふ反対の手紙が二三囘来たけれども、親の方からは病気の性質がよくないから断念あきらめろと言つてやつた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
嬢様の撰択おみたてに預からうといふ野心満々たる面々は何れも愚劣極まつた鼻持ならぬ連中だ子。君達も及ばぬ恋の滝登りに首尾よく及第しやうといふ僥倖党げうかうたうだから断念あきらめめ話して聞かせやう。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
居さえすれば渡して進ぜる、らぬが実じゃで断念あきらめさっし。と言わせも果てず眼を怒らし、「まだまだぬかすか面倒だ。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その秋にお種は利七のところへ輿入こしいれいたしましたが、陳はそれでも断念あきらめ兼ねたと見えまして、それから足掛三年唐人屋敷かんない居住いすんでおりましたが、さすがに気落らくたんして
あなたは亀屋かめや御出おいでなされた御客様わたくしの難儀を見かねて御救おすくい下されたはまことにあり難けれど、到底とてものがれぬ不仕合ふしあわせと身をあきらめては断念あきらめなかった先程までのおろかかえって口惜くちおしゅう御座りまする
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すると案じるよりうむが安いで、長い間こうやって一所に居るが、お前様の断念あきらめの可いには魂消たまげたね。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
厭でござります、厭でござります、塔の建てたいは山〻でももう十兵衞は断念あきらめて居りまする、御上人様の御諭おさとしを聞いてからの帰り道すつぱり思ひあきらめました、身の程にも無い考を持つたが間違ひ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
みづしろあかるつた……おうら行方ゆくへれ、在所ありかわかり、草鞋わらぢ松明たいまつさぐつたところで、所詮しよせん無駄むだだと断念あきらめく……それに、魔物まものから女房にようばう取返とりかへ手段しゆだん出来できた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
照子はおとがいにて数え、「二円八十銭……。」と言い懸けて莞爾にっこと笑い、「お安いものよ、ねえ貴下。」予算よりは三倍強なるに「えッ。」とまなこみはりしが、天なるかなと断念あきらめ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……また、忘れるために、その上、年に老朽ちて世を離れた、と自分でも断念あきらめのため。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いかん、だめだもう、僕も殺したいほどの老爺おやじだが、職務だ! 断念あきらめろ」
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
断念あきらめのために、折から夫理学士は、公用で九州地方へ旅行中。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜中よなかあてこともねえ駄目なこッた、断念あきらめさっせい。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)