はさ)” の例文
ぱらぱらとページをめくってみると、或る頁に名刺ぐらいの大きさの写真が一枚はさんであった。雀斑そばかすのありそうな、若い男の写真である。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼はそこになにかはさんであるかと思ったが、終りまで一枚ずつ、紙を左右にひろげながらみていったが、ついになにも出て来なかった。
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
三尺さんじゃくの間へはさんで来た物に巻いて有る手拭をくる/\と取り、前へ突付けたのは百姓の持つ利鎌とがまさびの付いたのでございます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
法皇の護衞なる瑞西スイス隊は正裝して、その士官はかぶと唐頭からのかしらはさめり。この裝束は今若き貴婦人に會釋せるベルナルドオには殊に好く似合ひたり。
「あゝさう、奧さんたちと馬車に乘つて出かけられなかつたから、泣いてゐるんですわ。」とベシーが口をはさんだ。
ルビー入の指環ゆびわや、金の丸打などを両の指にめ込んでゐたし、小さな婦人持の時計までも帯の間にはさめてゐた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
そうしてその揷絵には殊に葛飾北斎のものが多く、その他当時の浮世絵師の揷絵が豊かにはさまれて居ました。
幼き頃の想い出 (新字新仮名) / 上村松園(著)
この鍛冶屋は時たま流行語はやりことばをちよいとはさむことがあつた。それはポルタワの百人長ソートニックのところへ、板塀を
二人の間には、チリの鍋などが火鉢にかけられて、B—は時々笹村に酌をしながらくちはさんでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
森を廻って町の方へ、四人懸命にひた走る! だが前後よりはさみ討ち、グルグルグルと包まれた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これはお袖の中にはさんでお帰りになったという小石ですが、万葉集や風土記の出来た頃には、もう一尺以上の重い石になっておりました。卵の形をした美しい石であったそうです。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こんしてじゅなるはかならずしも良縁りゃうゑんならず、こんして夭折えうせつす、かへって良縁りゃうえん。さ、なみだかわかして、迷迭香まんねんくわう死骸なきがらはさましゃれ。そして習慣通ならはしどほり、いっ晴衣はれぎせて、教會けうくわいおくらっしゃれ。
「でも五月の末となりや暑いんですよ……大抵単衣物ひとえものよ。」とお栄が言葉をはさんだ。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
夜の物を揚げあえず楊枝ようじを口へ頬張ほおば故手拭ふるてぬぐいを前帯にはさんで、周章あわてて二階を降りる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
おかみさん、この花を持つて歸つて殺してやるんだ、この心の臟を突通つきとほしてやるんだ。私は愛の思出や、感情の玩具おもちやや、古い繪草子ゑざうしはさんだ押花をしばなや風が忍冬にんどうつるに隱して置く花なんぞは嫌ひだ。
わるい花 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
たとえば女を三字集めたかん両男りょうだんの間に女をはさんだなぶる(もっともこれは女のほうより左右さゆうにある男のほうが罪あるに相違ない)、奴(やっこ)、妄(みだる)、奸(みだす)、妨(さまたげる)
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
而して其中間にはさまれたる以太利イタリーは遂に如何いかならむ。邦運久しく疲れて産業興らず。民多くは一種固有の疾疼しつとうくるしむ。而して国境を守るの兵は日に多く、せたる民衆に課するの税斂ぜいれんは月に加ふ。
想断々(2) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
妙に奧齒に物のはさまつたやうな微笑を浮べて、腰を浮かします。
しばらくじっと聴いていた婆さんはまた口をはさんで
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ほんの素描のようなものに過ぎないが、ひと頃の私の母に対する心もちがよく出ていると思うので、此処ここにそれをはさんでおきたいと思う。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
馬「着物おめしをお着替なさい、だが箪笥は錠が下りて居ます、鍵はおふくろさんの巾着きんちゃくの中へ入れてありましたがの儘帯へはさんで一緒にずうとお出かけで」
アヌンチヤタがヂドは妙藝なり、その歌女は美質なり。曲中にはまゝ何の縁故もなき曲より取りたる、可笑しき節々をはさみたるが、姫が滑稽なる歌ひざまは、その自然ならぬをも自然ならしめき。
野外に逍遙して芬郁ふんいくたる花香をかぐときに、其花の在るところに至らんと願ふは自然の情なり、其花に達する時に之を摘み取りて胸にはさまんとするも亦た自然の情なり、この情は底なき湖の如くに
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
平次の話の突飛さに、萬七は憤然ふんぜんとして口をはさみました。
「加地の云うこともわかるが」と渡が口をはさんだ
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「倒れたの。」とベシーがまた口をはさんだ。
封じ目を固くして店の硯箱の上の引出ひきだし半切はんきれや状袋を入れる間へはさんで、母が時々半切や状袋を出すから、此処へ入れて置けば屹度目に入ろうと斯様に致し
誰も言葉をはさむ者はなかった。
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
娘「はい、飛んだ事を致しました、かつがれてく時、帯の間にはさんで居りましたのを、仲間体ちゅうげんていの者が手を入れて抜出して持ってきました、何うしたらうございましょう」
夜着よぎの袖をはねて、懐中から出した匕首を布団の下にはさんで、足で踏んで鞘を払いながら
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ふるえながら新吉は伯父と同道で七軒町へ帰りまして、れからず早桶をあつら湯灌ゆかんをする事になって、蒲団を上げ様とすると、蒲団の間にはさんであったのは豊志賀の書置かきおき
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)