把手とって)” の例文
Kは把手とってに手を伸ばしかけたが、また引っこめた。もう誰も助けることはできないし、小使たちがすぐやってくるにちがいなかった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
豊後ぶんご玖珠くす地方のものは久留島武彦くるしまたけひこ氏が図示してくれられた。ただしここのは関東とちがって、小枝の方を長くして把手とってにしている。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼は中佐の姿の消えた扉の前に、躍り出ると、手袋をはいたまま、力を籠めて把手とってをひっぱってみたが、扉はゴトリとも動かなかった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それでやはり凧糸で把手とってをこしらえて、げるようにしてありましたところへ、懸想文けそうぶみのような結状むすびぶみくくりつけてありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こう思うと、忽ち又好奇心の奴隷となって、殆ど前後の分別もなく把手とってへ手をかけ、グルッと廻すと造作もなく開いて了った。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
把手とってはついていませんが、あすこから船艙に通ずる扉があるんです。暗いので、君はたぶん鍵穴のあることに気がつかなかったんですね」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
薄金うすがねで作った吊鐘形つりがねがたの——それに把手とってが付いているので——戦場にでも雨の夜行にでも持ち歩けるがんどうとよぶ燈具だった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は彼の部屋のドアの外側の把手とってには、何故だか知らないけれど、ガアゼの繃帯ほうたいが巻いてあったことを突然思い出した。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
お茶が運ばれて来ると、彼は立ったままで、把手とってのついた大コップをた口でからにし、ほとんどまたたくひまに白パンの大きなかたまりを平らげてしまった。
それから把手とってを𢌞す音が聞え、あの盲人めが入ろうとするのであろう、閂ががたがたいうのが聞えた。それから永い間、内も外もひっそりしていた。
旋回機のふたをあけて、円筒内の頂きへほとんど一杯に上っている分銅の把手とってへ、かたわな結びというかひっとき結びというか、とにかくそれで縛りつけ
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
その開閉器スイッチの間には、山雀やまがらひなが挾まれていて、把手とってを引く糸が切れておりました。ああ、あの糸はたしか、地下の棺中から引かれたに相違ございません。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
フィールス (ドアに近づいて、把手とってにさわってみる)錠がおりている。行ってしまったんだな。……(ソファに腰をおろす)わしのことを忘れていったな。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それは真鍮製のかなり頑固な洋式の把手とってで、鍵穴の附いた分厚い真鍮板が裏表からガッチリと止めてある。それが、やはりこのうちに不似合なものの一つに見えた。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しゃれた鋳金の把手とってをまわして四阿のなかにはいると、愛一郎は、もの憂い目の色で、こちらへ振り返った。サト子は椅子に掛けながら、いきなりに切りだした。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼はもう一歩で中にはいれるのだった。彼はとびら把手とってのほうへ手を差し伸べた。それから、自分の手を、扉を、庭を、うちながめた。にわかに自分の行動を意識した。
緑樹の中を流れるダニューブ河や、もりや牧場の姿は、照りかげる光の中で麗しく静だった。すると、そのとき、黙っていたヨハンはステッキの曲った把手とってから顔を上げて
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
壺の把手とってを持ちました、『ほんとに、あなたがおっしゃるほど、困ったことになっているようには思えないんですが。たしかに壺の中には、まだ大分牛乳がありますよ。』
スッポリと洋杯コップ全体がはまるような把手とってのついた、彫りのある銀金具の台がついているのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
銅の下端したはが広がっている形なので「端広はびろ」と呼んだのではないでしょうか。把手とっても太くて握りよく、珍らしい形で他の地方では余り見かけません。これを砲金ほうきんでも作ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
神棚の燈明とうみょうをつけるために使う燧金ひうちがねには大きな木の板片が把手とってについているし、ほくちも多量にあるから点火しやすいが、喫煙用のは小さい鉄片の頭を指先でつまんで打ちつけ
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「洋服ダンスの鍵なんて、かけたことないから、把手とってにぶらさがってるわ。玄関と部屋の鍵は股野のズボンのポケットと、下のあたしの部屋の小ダンスのひき出しに一つずつ」
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いかさまこけ猿の銘のとおりに、壺の肩のあたりについている把手とっての一つが、欠けている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
せめて今晩だけでも閂をつけなければいけませんですよ。だれでも通りがかりの人が把手とってで外からあけることのできるような戸は、何より一番恐ろしいものではございませんか。
けれども、何の把手とっても足がゝりのない心歴の記録も亦、意味ないものでございましょう。そこで一口だけ後の思い出の緒口にするよすがになるものを述べて置いて見ましょうか。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
千住の家では、凸凹でこぼこの金属の板を張ったのに、細長くした材料を横に入れ、同じような板の両端に把手とっての附いたので押して、前後に動かしますと、二、三十粒の丸薬が一度に出来ます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
この男を、この部屋へやから外に出してはならない。博士はドアをうしに開いて廊下ろうかにとびだし、バタンとめた。カギがない。透明人間が内側うちがわから開けようとして、博士がにぎる把手とってをひねった。
縄でしばった南京ナンキン袋の前だれをあてて、直径五寸もある大きな孟宗竹の根を両足の親指でふんまえて、桶屋がつかうせんという、左右に把手とってのついた刃物でけずっていた。ガリ、ガリ、ガリッ……。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
いちいち把手とってをとって扉をあけさせたものである。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
階段の上り降りにすそがよごれるとか、ドアの把手とって袖口そでぐちが引掛かるとかの、新しい建築との折合いが悪いというだけではない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
風間は、艇長室の扉の把手とってに手をかけたが、どうしたわけか、すぐ手を放した。そしてその手で、指を折りかぞえ出した。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「どうか扉をあけてください」と、Kは言い、把手とってを引っ張ったが、手ごたえを感じたので、少女たちが外でしっかと押えているのがわかった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
引き出せるのも道理、可なりな厚味のあるべきものが、それ一つだけ他の石の半分より薄くってあり、裏側に、長さ七八寸ばかりの柄のような把手とってが刻んである。
一端を分銅の把手とってのひっとき結びの端へ縛り他の一端をランプ室で手もとへ残しておいたところの、あの細紐を、破壊後に引っ張ると、果してひっとき結びは解けて
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
宮崎運転士のいったように、賄部屋の後側になるしきりには、ての出来るようになったドアが一枚はまっていた。把手とってのない鍵穴のついていることが直ぐわかった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
クリストフは胸をおどらせながら、扉の把手とってに手をかけた。そして開くだけの力もなかった……。
次の瞬間、つばむ隙さえ与えられなかった一同が、息詰るような緊張を覚えたと云うのは、法水が両側の把手とってを握って、重い鉄扉を観音開きに開きはじめたからだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そうして結局何が何やら解らなくなったまま、銀貨の反射で痛くなりかけた瞼をコスリまわしているうちに、いつの間にか、乳母車の把手とってつかまってコロコロと押し始めていた。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こわれた虫眼鏡が把手とってをつけただけでたちまちにして顕微鏡になったようなものである。
ラジオ雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それ故、そういう部分を目がけて彼と認め合おうとするものには、描ける餅ともかすみの花とも頼りなく、感ぜられたに違いなかったであろうと思う。特に女性にとっては把手とっての無い器かも知れない。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこでもとどりを以前の通りにクワイの把手とってにしてみましたが、前髪のところに、急に毛生薬けはえぐすりを塗るわけにもゆかないから、熊の毛か何かを植え込んだ妙な形のハゲ隠しようなものを急ごしらえにして
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
探偵はいきなり把手とってをひねって、そのドアをひらいた。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
窓ぎわへ行き、手すりに腰をおろして、片手を把手とってにかけて身体からだをささえ、広場を見やった。雪はまだ降っており、全然晴れあがってはいなかった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
といいながら、帆村は注意ぶかくゴムの手袋をはめ、ドアの把手とってを握っておしてみましたが、びくとも動きません。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ト、予ハ寝台ヲ下リテ浴室ノ戸ノ前ニ行キ、把手とってヲ廻シテミル。戸ハ締マッテイテ動カナイ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
クリストフはその耳れた音を聞くと、アンナのところへやって行った。彼女に話をしなければならなかった。彼は一種の不安に駆られていた。扉のところまでいってその把手とってを回した。
これは十四号室の中の様子を覗うために忍び足になったためで、ドアの処まで来ると腰を屈めて、鍵穴に耳を近づけて中の様子を覗った。把手とっての上に軽く残った左手の指紋がそれを証明している。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
山椒さんしょう一つまみ蓋の把手とってに乗せて、飯櫃めしびつと一緒に窓から差し出した。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ドアかぎを閉めずに出たらしく、把手とってをまわすとじきに開いた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
彼は背後で、把手とってを廻しながら、続いて云った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)