悄気しょげ)” の例文
旧字:悄氣
ネッドは気の毒なほど悄気しょげて、田舎道を村の方へ引きかえしていった。それを見送る山木と河合とは、あまりいい気持ではなかった。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あとになった作者は不安此上もなく「一万部位になってしまっては、此方から印税を返さねばならぬ」と長田幹彦大いに悄気しょげて居る由
おKちゃんのことは全く悄気しょげてしまった、佐藤さんからきいて。去年の初め来る前とった写真にも空洞は出ているのですって、もう。
悄気しょげ返った良平はしぶしぶまた金三を先に立てた。二人はもうけなかった。互にむっつり黙ったまま、麦とすれすれに歩いて行った。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「それでは酒抜きにしよう、ゆうべは折角支度をした食事が無駄になったと云って小房のやつ悄気しょげていた、今夜は飯だけにしよう」
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
怒る時は鼻柱から眉宇びうにかけて暗澹あんたんたる色をみなぎらし、落胆する時は鼻の表現があせ落ちて行くのが手に取るように見えるまで悄気しょげ返る。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何も彼も段落が付いてしまったから、千種十次郎は、足の勇をめる勇気もありませんでした。それほど勇は悄気しょげ返って居たのです。
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
わたくしは「あー、あー」と歎声を洩して、後口の悪い思いに胸をむかつかせ、なり振りもなく悄気しょげた姿のまゝ、急いで歩き出しました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ドアは、続け様に割れるようにたたかれた。今迄いままで傲然ごうぜんと反り返っていた荘田は、急に悄気しょげ切ってしまった。彼はテレ隠しに、苦笑しながら
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして隣りの室の前を通りかゝりましたら、が開け放してあって、さっきの給仕がひどく悄気しょげて頭を垂れて立ってゐました。
毒蛾 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
と革にすがったまま、ぐったりとなって、悄気しょげ返った職人のさまは、消えも入りたいとよりは、さながら罪を恥じて、自分でくびくくったようである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無い時は悄気しょげ返って小さくなっているが、いざ、いくらか身についたとなると、あのはしゃぎようは——そうして、勝負事に注ぎ込むんだ。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
会計は父の命令で自分の方でもつことになっていたので、甥がひどく悄気しょげて困ったことを思い出す。恥かしい内証話である。
初旅 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし新聞には彼の言わないことばかり出るといって、召使用昇降機エレベーターのなかで非常に悄気しょげている記者を私は見たことがある。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
田口七郎兵衛は悄気しょげてしまって黙っていた。先生は、また——男のセイトキライ——と書かれている方を見て微笑しながら
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「素人稽古の時はよく褒められたが、本気に遣り出してから以来このかた、さっぱり褒めてもらえぬと悄気しょげていましたよ。そんなものでしょうかね。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
だからと言って、それを探しに出かけるのも大儀たいぎだと言うので、困ったなァ、と思って、悄気しょげていたところだったのです。
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
ただ連中饅頭まんじゅうが食いたくなって、しきりに饅頭屋を探したのだが、生憎あいにく一軒も無くって大悄気しょげ。渋川からは吾妻川あがつまがわの流れに沿うて行くのである。
時間前になつて皆が机の上に筆洗や絵の具皿などを並べて用意にかゝつたときに私は、すつかり悄気しょげて仕舞ひました。
京山が甚だしく悄気しょげかえっているのを見ると、先ず自分から落ついて、京山をなぐさめるより外はありませんでした。
稀有の犯罪 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それを聞くと、農夫は両手を膝の上へ、頭を垂れたまま、悄気しょげかえったようにじっと考え込んでいたが、暫くすると
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
異常の決心でのりこんでいった閑子が悄気しょげかえって帰ってきたいつかの日、閑子はうつろな声で入りこむすきまがなかったとうめいたのを思い出す。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
それにしても利発聡明で、大胆不敵で見識高かった女が——この梶子が何んとまア、今はすっかり悄気しょげていることか!
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
出ばなをくじかれたので、張飛はすっかり悄気しょげてしまった。雲長は気の毒になって、彼の好きな酒を出して与えたが
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
借金と気がついて急に悄気しょげた時期もあります。わが借金はたなにあげ、ひとの少々の貸金をはたって歩いた時もあります。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そうして、友木が全く金を返えして、別に害心のない様子を見て取ると、今までの悄気しょげた様子はどこへやら、急に顔を輝やかして、ホクホクし出した。
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
急に悄気しょげてしまったぼくが片隅でひとりダンスを拝見していると、いつの間にかぼくの横に、油もつけていないバサバサの長髪ちょうはつを無造作にきあげた
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
と、云ったまま、ひどく悄気しょげたというが、この事は、幼稚園以前であるから、私の大衆文学智識というものは、相当に古くから、その淵源をもっている。
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ジナイーダの冷たい態度を見て、すっかり悄気しょげてしまったのである。ところが、ああなんというおどろきだったろう。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
頭からのしかゝるやうに私は皮肉を言つたが、「知つてゐたのか」彼は惨めに悄気しょげた。一途に落胆を表はして
篠笹の陰の顔 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「おい、そう悄気しょげるなよ。二三日見て居給え、君の絵は屹度探し出して見せるよ」と彼の肩を叩いて別れた。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
まあまあ、そう悄気しょげられるにはおよばない。手前にしてからが、ただもうほんの思いつき。偶然そんな話を
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
若いうちは、たった今まで悄気しょげていても、相手しだいですぐつけ上っちまう。まことに赤面の至りである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これを聞くと悄気しょげていた兵隊もゲラゲラ笑い出したりした結果、士気昂揚に役立ったというのである。
悄気しょげて)困るわ。あたし、ちっとも怠けてなんかいやしないのよ。だけど、あれでしょう三年間ちっともお針なんか持たなかったんだもの。そりゃ、女学校の時分はやったけれど。
みごとな女 (新字新仮名) / 森本薫(著)
悄気しょげた風を見せまいと一層心を励まして顔に笑いを出そうとしていると、長田は、ますます癖の白い歯を、イーンとあらわしてなぶり殺しのとどめでも刺すかのように、荒い鼻呼吸をしながら
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
さうした善意にもかかはらず、実行の上ではいつも何かしら思ひがけない不運につきまとはれて、まあそれも主に女の問題でだが、ひどく悄気しょげかへつて慰めやうもないほどの意気地なさ。
春泥:『白鳳』第一部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
前年の晩秋どこかへ用達ようたしに行った帰り、夏かかあに死なれて悄気しょげきっていた辰は途上で未知の大之進に掴まって片棒かつぐことになったのだが、名も言わず聞かず、ほとんど口もきかずに
逃げ道に一番近くいたのが自分の不運なのだと、彼はひどく悄気しょげてしまった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
悄気しょげきった眼のり場にも困っているらしい耕吉の態を気の毒にも思ったか
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
長次郎と金作が直ぐ裏の路を上って、たしかに有るという家を尋ね合せたが、間もなく悄気しょげて帰って来た。今度は仕度して来た源次郎が一緒になって、対岸の東蔵や山女まで探したが、矢張やはり駄目だ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
悄気しょげた顔はどこにもない、油紙は人夫どもに処置させて、先刻げ込んだばかりの、白河内岳の頂上に立って、四方を見廻した、南の方、直ぐ傍近く間の岳(赤石山脈)と、悪沢わるさわ岳がけわしく聳えて
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
孫軍曹は、自分のもの知らずを、悲しむかのように悄気しょげ返った。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
高倉玄蔵はすっかり悄気しょげかえった風で、黙って首垂うなだれていた。
電車停留場 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
と、奥さんにからかわれて、民さんは悄気しょげかえっていた。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
医者を呼びに行ったモセ嬶はひどく悄気しょげて帰って来た。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
悄気しょげて見せたが、すぐるそうな目付をして
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
メドヴェージェンコは悄気しょげて、わきへしりぞく。
お母さんは赤ちゃんが生れたら守りをしなくちゃならないときめて、うれしいながら、いくらか悄気しょげていらっしゃるのよ、先から。
少将の声は、気の毒なほど、悄気しょげていた。一体リント少将は、アーク号の積荷の、どんな品物を待ちわびているのであろうか。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)