こひねが)” の例文
一、余、去年已来いらい心蹟百変、あげて数へがたし。なかんづく、ちようの貫高をこひねがひ、の屈平を仰ぐ、諸知友の知るところなり。
留魂録 (新字旧仮名) / 吉田松陰(著)
私はただ両国橋の有無いうむかゝはらず其の上下かみしも今猶いまなほ渡場わたしばが残されてある如く隅田川其の他の川筋にいつまでも昔のまゝの渡船わたしぶねのあらん事をこひねがふのである。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
今かの娘の宮ならば如何いかならん、吾かの雅之ならば如何ならん。吾は今日こんにちの吾たるをえらきか、はたかの雅之たるをこひねがはんや。貫一はむなしうかく想へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私は老境に入りかけ、業務多端のために媼にも全く無音に過ぎた。ただたまたま心に暇があるときに、媼の身の上の多幸ならむことをこひねがつてゐる。(昭和三年十月記)
日本媼 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
もて身の營業なりはひとなすものがいかで左樣な惡き事に荷擔かたん致してすむ可きかは此御賢察ごけんさつこひねがふと口には立派りつぱに言物からこゝろの中には密計みつけいの早くもあらはれ夫ゆゑに弟は最期さいご
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
〔譯〕賢者はぼつするにのぞみ、まさに然るべきを見て、以てぶんと爲し、死をおそるゝをぢて、死をやすんずるをこひねがふ、故に神氣しんきみだれず。又遺訓いくんあり、以てちやうそびやかすに足る。
やゝとき乘客じようかくは、活佛くわつぶつ——いまあらたにおもへる——の周圍しうゐあつまりて、一條いちでう法話ほふわかむことをこひねがへり。やうや健康けんかう囘復くわいふくしたる法華僧ほつけそうは、よろこんでこれだくし、打咳うちしはぶきつゝ語出かたりいだしぬ。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たまには激浪げきらう怒濤どたうもあつてしい、惡風あくふう暴雨ぼううもあつてしい、とつて我輩わがはいけつしてらんこのむのではない、空氣くうきが五かぜよつ掃除さうぢされ、十あめよつきよめられんことをこひねがふのである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
ゆくりなくも世をのがれて。自得の門に三宝の引接いんぜうこひねがひしかば。遂に念願成就して。けふ往生の素懐をとげなん。…………またたゞ汝は畜生なれども。国に大功あるをもて。やがて国主の息女むすめを獲たり。
つかれを忘れて、身はかの雲と軽く、心は水と淡く、こひねがはくは今より如此かくのごとくして我生ををはらんかな
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)