あたか)” の例文
これを言出いひいでたるのち、いのちをはり、又これを言出でたるあとは、かしらを胸にれて、あたかも老僧が聖祭せいさいを行ひつゝ絶命する如くならむ。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
つは彼れ如何に口重き証人にも其腹のうちに在るだけを充分吐尽はきつくさせる秘術を知ればお失望の様子も無くあたか独言ひとりごとを云う如き調子にて
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
目瞬きはぴつたりととまり、線を引いたやうな切れ目が深く長く、あたかも部厚い眼鏡そのものに入つたヒビ割れのやうに見えた。そして
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
ここに於てか電火ひらめき、万雷はためき、人類に対する痛罵つうばあたか薬綫やくせんの爆発する如く、所謂いはゆる「不感無覚」の墻壁しようへきを破りをはんぬ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
あたかも夭蟜たる白竜が銀鱗を輝かしながら昇天するのではないかと怪しまるる長大なる雪渓が懸っているのを見られたであろう。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
天子廢立の全權が、宦官の掌裡に在ること、あたかも受驗生の及落が試驗官の自由に在ると同樣なることを申述べたものである。
支那の宦官 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
人には道理を考える心が無くなって、あたかも酔漢の如くに市中を狂奔きょうほんする者が沢山あった。警察の官吏とてもこれを制止しようとは勉めなかった。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
はじめ心臓はあたかも眠って居るかのようであったが、暫くしてぱくり/\と動き出し、間もなく、威勢よく搏ち出した。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
あたかもよし、九月晦日みそかは、にわかに暴風雨が起って、風波が高く、湖のような宮島瀬戸も白浪が立騒いだ。
厳島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
で、その婦人は、あたか往時わうじ猶太人ユダヤじんが病人をベテスダの池に送つたやうに、この娘の病氣をなほす爲めにこの學校へ送られたのである。で、私から先生方にも學監にもお願ひしたい。
あたかも、海へ行く場合、私が何時もおぼれることを確信して行くのと同様に。ということは、何も、自暴自棄になっているのではない。それ所か、私は、死ぬ迄快活さを失わぬであろう。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
是は堯の如き聖者の下に於ては、余り善く世の中が治つて、其恵が行き渡つて居ることを記したものである。あたかも太陽の恵を吾々が忘れて居る如く、天子の威力が眼立たないのである。
吾等の使命 (新字旧仮名) / 石川三四郎(著)
姫が狭手彦さでひこの船を見おくりつつ、ここより空しく領巾ひれふりけむと、かきくるる涙にあやなや、いづれを海、いづれを空、夢かうつつかのそれさへ識るの暇もなく、あたかも狂へるものの如くに山を下り
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
七人比丘尼の話は、女が一生の懺悔話をするので、其はあたかも仏の前でする心持ちで人の前に発表したのである。「一代男」の歌なども、上方唄の色香から採つたらしく、やはり懺悔の一種なのである。
お伽草子の一考察 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
折柄竹の台のかたより額の汗ぬぐひもへず、飛ぶが如くに走せ来れる二人の車夫を、お加女はガミ/\と頭からのゝしりつ、ヤヲら車に乗り移りしが、あたかも其前に来れる篠田は、梅子と相見て慇懃いんぎんに黙礼し
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
あたか冒涜ぼうとくの感を起すといふのが、初、二節の意である。
薄紗の帳 (旧字旧仮名) / ステファヌ・マラルメ(著)
目科はあたかも足を渡世とせい資本もとでにせる人なると怪しまるゝほど達者に走り余はかろうじて其後に続くのみにてあえぎ/\ロデオンまちに達せし頃
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
あたかも滿人の辮髮の如く、背後に垂下したものもある樣であるが、然し之は稀有の場合で、普通は左右両耳の後に二個の辮髮を垂れたものである。
支那人弁髪の歴史 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
地球の表面はあたかも、眼鏡の玉で光線を引き集めたその焦点に置かれるのと同じ事でしょう、ただ木で作った品物がことごとく焼けてしまうのみでありませぬ。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
だが、その奇妙な遠慮深さのために片手で入口の柱をつかまへたまゝ、あたかもまだ家の中へはすつかり入り切つてはゐませんや、と云つてゐるやうな恰好をしてゐた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
『坂下鶴吉の告白』なる本に依りますと、典獄とか検事とか云う連中が、坂下鶴吉の信仰を獲たことをあたかも猫が鼠を取ったのを賞めるように、賞めそやして居ります。
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ここに於てか、あたかもこれ絶美なる獅身女頭獣なり。悲哀を愛するのはなはだしきは、いづれの先人をもしのぎ、常に悲哀の詩趣を讃して、彼は自ら「悲哀の煉金道士」と号せり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
えたゝせたことか! なんと素晴しい感動をその光は私に與へたことだらう! そしてその新らしい感情が如何に私をはげましたか! それはあたかも殉教者や英雄が奴隷どれいや犧牲者の側を
あたかも若き競技者が方人かたうど調練者ならしてぐんせかれてか楕圓砂場だゑんさぢやうをさして行く時
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
そのさあらめ、あたかねぶまろ
あたかも言附られし役目を行うが如くに泰然自若として老人の死骸のもとに行き、そのそばひざまずきてそろ/\と死骸を検査し初めぬ。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
絶え間なくかさが増し、幅が広がり、わずかに半時間の後には、あたかも扇とも慧星の尾とも見らるる形となった。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
あたかも學生が小學より中學、中學より高等學校、高等學校より大學と、年を追うて進級して行く面影があつて、誰人にでも眞似出來る樣な階級を歴て、層一層と人格を高めて居る。
あたかもその原因が、新聞小説をかいた為に得た比較的豊かな、物質上の自由にあるように解釈されて、従ってそれを書く事を勧めた雄吉迄が、細木などから軽い非難の的になって居た。
神の如く弱し (新字新仮名) / 菊池寛(著)
どんなにのんきさうに帰つて来ても、一たん家の中に入るや否や、何かしらむつとした、気むつかしい、わがまゝらしい表情もあたかもとつてつけた面のやうに知らず知らず練吉の顔に浮ぶのだつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
あたかも大海の波濤荒び卷き上がりて
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
あたかもその常に閉さざるまぶたもと
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
あたかも壁から剣が出た様に思った、果して壁から剣が出れば剣の出る丈の穴が壁になくては成らぬけれど無論其の様な穴はない、爾すれば余を刺したのは目に見えぬ幽霊の仕業か知らん
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
あたかもよし、京都では、第九十六代後醍醐ごだいご天皇が、即位し給うた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
他の新聞紙はあたかも事件の真相を伝へる如くに云つた
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
他の新聞紙はあたかも事件の真相を伝えるごとくに云った
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)