太腿ふともも)” の例文
猿橋から馬で逸走した一人は、石和いさわの代官所で捕えられていた。太腿ふとももに銃傷があり、そこから多量に出血して、弱っていたのだろう。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さっきの狩犬の一頭が、ひらりと茶まだらな尾をふるったかと思うと、次郎はたちまち左の太腿ふとももに、鋭いきばの立ったのを感じた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
笑って取り合わなかったが、いよいよもって油紙に火のついたように、髪を逆立てて太腿ふとももあらわにじだんだ踏んで眼をつるし上げた。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
色あいの派手な、しかしよごれ切った衣裳を着けて、腰を二つに折っているので、太腿ふともものあたりの肉が、着物のうえにむくむくして見えているのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
然し石山の馬は、口綱をとって行く主人と調子が合わなかった為、一寸した阪路を下る車に主人は脾腹ひばら太腿ふとももをうたせ、二月も寝る程の怪我をした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私の太腿ふとももと、その男のガッシリした偉大な臀部でんぶとは、薄い鞣皮一枚を隔てて、暖味あたたかみを感じる程も密接しています。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
八五郎に解かせた帯で、自分の右足の太腿ふとももを縛ると、その両端を左の肩へ掛けて、帯のあたりで固く結びます。
ゴンゴラ総指揮官は、博士に催促さいそくされて、床に膝をつき、博士の右足をつかんで、えいと引いた。すると、すぽんと音がして、博士の右脚が、太腿ふともものあたりから抜けた⁉
「あっ!」と言ったのは低能娘ではなく、三ツ目入道の神尾主膳で、その時、主膳は屈んでいた低能娘のために、自分の太腿ふとももを、いやというほど下からつねり上げられてしまったのです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まず最初に太腿ふとももの肉とか何とか良い肉をやり出すと沢山な鷲が皆舞い下って来る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
両の肩怒りてくびを没し、二重ふたえあぎと直ちに胸につづき、安禄山あんろくざん風の腹便々として、牛にも似たる太腿ふとももは行くに相擦あいすれつべし。顔色いろは思い切って赭黒あかぐろく、鼻太く、くちびる厚く、ひげ薄く、まゆも薄し。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼がそこへ来かかると、赤土から女の太腿ふとももが出ていた。何本も何本もだった。
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
しかし、息をあえいで太腿ふとももを改め、凍りついた、腐肉の上に瞳を凝らすと、やはりそこにはグレプニツキーの言うがごとく、EL DORADO RA という文字がしたためてあるのだ。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あのとき、彼女は太腿ふとももをやられたのだ、と思いかえしながら。
夏の葬列 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
「おっとそのへんでやめにしよう、とり殺すが出ると酔がさめていけねえ、ええ畜生」彼はしきりに太腿ふとももや腕などを叩きながら
ゆうれい貸屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
頸筋くびすじ、背、太腿ふとももあらわに、真っ白なからだに二人とも水着を着けて、その水着がズップリれてからだ中キラキラに輝いて
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
あやしく光るような、不思議なうす笑いをうかべて、そろりそろりと近づいてくると、お駒ちゃんは、太腿ふともものあたりに何かぴりりと走るものを感じて
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
影男のよりかかった巨女の臀部でんぶ太腿ふとももも、生けるがごとくふるえゆらめき、かれは両側の巨大な人肉に締めつけられ、おしつぶされるのではないかと疑った。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
太腿ふとももを縫われた十郎は、立ちたくも立てないのであろう、太刀たちつえにして居ざりながら、ちょうど羽根をぬかれたからすのように、矢を避け避け、もがいている。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは見事に刑事の左脚に命中し、太腿ふともものところから千切ってしまった。貫一の使っているのは特殊な破壊弾であったから、こんな工合に恐ろしい破壊力を発揮するのであった。
つなは躯をすっかり眺めさせたうえ、あたしには「三つ星さま」があるのよと云い、足をひろげて、右の太腿ふとももの内側を見せた。
女は同じ物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まっさきに進んだ真木島まきのしまの十郎が、太腿ふともも箆深のぶかく射られて、すべるようにどうと倒れる。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ビシリビシリ、細引の鞭は、文代のふっくらとした太腿ふとももへ、刃物の様に食い入るのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
六郎兵衛は、女めと叫び、足をあげておみやをった。太腿ふともものあたりを蹴られて、おみやは横へよろめき、又五郎が危ない、とそれを支えた。
胸乳むなぢのたっぷりした重さ、腰まわりのいっぱいな緊張感、痛いほど張った太腿ふともも。そのくせ胴は細く緊って、手足も先端にゆくほどすんなりと細い。
寒橋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それはつるという若い小間使で、寝衣ねまきのままであり、夜具からぬけ出るとき、乱れた裾から白い太腿ふとももがあらわになった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
宇乃の胸や、腹部や、太腿ふとももが、二人の着物をとおして、直接、ぴったりと触れあった。甲斐はほんの一瞬、たじろいだ。
弾丸は太腿ふとももに当った、しかし五人に向けた身構えは少しも変らず、切尖さがりの刀はかれらを身動きもさせなかった。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
初めは二人いっしょにはいって来て、爺さんに焼酎を貰い、お吉が少女の裾をまくって太腿ふとももの傷の手当をしてやった。
嘘アつかねえ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
母はやはり持病の痛風であったが、まえには右足のひざがしらだけだったのに、こんどは太腿ふとももから腰にかけて痛みがひろがり、立ち居も不自由になった。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
裾がまくれて、太腿ふとももまで見えるのにも気がつかず、おみやはびっくりしたような眼で、茫然と新八を見あげていた。
りつ子はもんぺを脱ぎ、太腿ふとももまであらわにして、川の中へはいり、魚を捕ろうとして、にぎやかに騒いでいた。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
又平の刀は彼の太腿ふとももを斬ったらしい、股立ももだちを取っていたのが半ばから切られて垂れ、血の色は(もう暗いので)わからないが、そこがみるみる濡れていった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
先の男は太腿ふともも、次の男は二の腕である。手応えは慥かだったし、かれらの悲鳴と、転倒した一人の姿を見て、万三郎は自分の腕の慥かさをはっきり自覚した。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なまあたたかく吸いつくような肌ざわりが、自分の胸や太腿ふともものそこにもここにもありありと残っている。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼はそう云いながら、添木を当てた右の太腿ふとももを見やった、それはひざの上から切断されていた。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
着物のすそまくれ、太腿ふとももまであらわになったが、不健康に青白く、むくんだような太腿は、腐りかかった魚の腹のように醜くぶきみで、功兵衛はまゆをしかめながら眼をそむけた。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし胸のふくらみの豊かさと、腰部から太腿ふとももへかけての肉付きは、そこだけがべつの存在であるかのように、たくましい厚みとまるみと、そうして重たそうな緊張をみせていた。
あだこ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし極めてわずかなところで刃は、わされた。そして通胤が、右へひらきながら抜き打ちに浴びせた一刀は、逆に男の背筋をしたたかにり放し、かえす太刀で太腿ふとももいでいた。
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
転げ落ちてゆくおみやの、華やかにひるがえる下着の色と、やわらかくあぶらぎった、太腿ふとももはぎのあらわな白さを眺めながら、動くことも叫ぶこともできず、ただ茫然と立ったままでいた。
薄い樺色かばいろ乳暈にゅううん、ゆたかな腹部のえぐったようなくぼみと、それに続くたかまりの上の僅かな幅狭い墨色、広くなった腰から重たげな太腿ふとももへ、そうしてすんなりと細くしなやかに伸びている脚。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大助の部屋をのぞくと、勝江といっしょに午睡をしていた。勝江は上半身を大助のほうへ向け、下半身を仰向けにしていた。裾が乱れて、水色のふたのの絡まった太腿ふとももが、あらわに見えた。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それはたくましい男であった。ぼったと呼ばれる腰っきりの沖着の下から、古びた下帯を覗かせ、裸の太腿ふとももからすねへかけてびっしょり毛が生えているうえに、筋肉がこりこりとこぶをなしていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それはたくましい男であった。ぼったと呼ばれる腰っきりの沖着の下から、古びた下帯をのぞかせ、裸の太腿ふとももからすねへかけてびっしょり毛が生えているうえに、筋肉がこりこりとこぶをなしていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小さな肩とひき緊った胸乳と、きわだって広い腰と太腿ふとももとが、眼を奪った。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
半兵衛の二の太刀たちはその男の太腿ふとももをするどく斬りはなっており、そして、その男が(太腿を斬りはなされて)横さまに顛倒てんとうしたときには、半兵衛はすでに残る一人を広縁まで押し詰めていた。
艶書 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
参太はするどく顔を歪め、右手をこぶしにして太腿ふともものところへ押しつけた。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「日済しで恨みのある者なら、私よりおまえにあだをする筈だ」得石はあざのできた右の太腿ふともも膏薬こうやくりながら云った、「おまけに大川端の海石のことから治療のことまで知っていたのはおかしい」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「詳しいことは知りません、腰とか太腿ふとももとかを斬られたそうで、命には別条はないということでしたが、このところ二三回そんなまちがいがあったそうで、みんな騒いでいるらしゅうございます」
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは栄二の太腿ふともものところへ当り、それからすねのほうへさがった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)