天賦てんぷ)” の例文
私はこれが貴方がたへの情愛と敬念とのしるしである事を希う。また藝術的天賦てんぷに豊かな朝鮮民族への信頼のしるしでありたく思う。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼は自分の性急せっかちに比べると約五倍がたの癇癪持かんしゃくもちであった。けれども一種天賦てんぷの能力があって、時にその癇癪をたくみに殺す事ができた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「葉子さんという人は兄がいうとおりにすぐれた天賦てんぷを持った人のようにも実際思える。しかしあの人はどこか片輪かたわじゃないかい」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
平次に取つては、見る眼嗅ぐ鼻ともいふべき八五郎は、その天賦てんぷの勘を働かせて、江戸中から不思議なニユースをかき集めて來るのでした。
徹頭徹尾、脇師をもって自分の天賦てんぷと心得たかのように、主役としてのお銀様を立てることは、本心からしかるのでありました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
慕う慕うといえども亦た及ばず是れ即ち天賦てんぷの文才にして到底追慕するも亦画餠に属すればなりと予は筆を投じて嗟嘆さたんして止みぬ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
就中なかんずく儂の、最も感情を惹起じゃっきせしは、新聞、集会、言論の条例を設け、天賦てんぷの三大自由権を剥奪はくだつし、あまつさのうらの生来せいらいかつて聞かざる諸税を課せし事なり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
いておれはこれから剛にする、俺はこれから柔にすると、天賦てんぷの性質をめ、束縛そくばくすることはすこぶる難事であるが、しかし俺はあくまでも剛である
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「それは人民を充分強健に教育して、天賦てんぷの愛国心を発揮はっきせしめたからであります。しかし国を出でてより長い事であるからこの頃の事は知りませぬ」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
斉彬公は、非常に高い科学精神と、恐るべき直観力とを兼ね備えたれな天賦てんぷの人であったことを初めて知った。
島津斉彬公 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
文芸の道は天賦てんぷの才なくてはかなふべからず、その才なくして我武者羅がむしゃらに熱中するは迷ひにして自信とはいひがたかるべし。これおのれを知らざる愚の証拠なり。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
だが、この高地からながめても、その広い天賦てんぷの平地も、まるで人間の静脈のように大小無数の河水が奔馳ほんちしていて、人力の痕跡こんせきらしいものは殆ど見えないのである。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
濂又曰く、いにしえわゆる体道たいどう成徳せいとくの人、先生誠に庶幾焉ちかしと。けだし濂が諛墓ゆぼの辞にあらず。孝孺は此の愚庵先生第二子として生れたり。天賦てんぷも厚く、庭訓ていきんも厳なりしならん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それは或は半ば以上、天賦てんぷの才能によるものかも知れない。いや、精進の力などは存外ぞんぐわい効のないものであらう。しかしその浄火の熱の高低は直ちに或作品の価値の高低を定めるのである。
同じく生をこの世にけて、一人はもてはやされる力にちた体をもち、一人は女にまでさげすまれる弱々しい体をもっている、甚だしいこの差別を持って生れて来たのを、天賦てんぷだというだけで
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
しかも、そのような、誰にも目撃せられていない人生の片隅に於いて行われている事実にこそ、高貴な宝玉が光っている場合が多いのです。それを天賦てんぷの不思議な触角で捜し出すのが文芸です。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
疑う余地なき才能! 歓迎かんげいすべき天賦てんぷの素質! 詩のそのいた一輪の花! 装幀もいい、などとね。ところで、もう一つの本はどうだろう! あの著者は、ぼくにも買わせようという腹らしい。
私はこれが貴方がたへの情愛と敬念とのしるしである事を希う。また藝術的天賦てんぷに豊かな朝鮮民族への信頼のしるしでありたく思う。
朝鮮の友に贈る書 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼女は美くしい天賦てんぷの感情を、あるに任せて惜気おしげもなく夫の上にぎ込む代りに、それを受け入れる夫が、彼女から精神上の営養を得て
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいは神経衰弱だのあるいはリュウマチスだのあるいは胃弱いじゃくだのと、その他種々の故障こしょうのために、天賦てんぷの力の百分の一も利用せず発揮もせずに一生送る者は
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
この曲においても驚くべき天賦てんぷを示しているが、ヴァイオリンの世の中は必ずしもメニューイン万能ではなく(もちろんメニューインにくみする人も少なくないだろうが)
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
飛鳥あすか、奈良のころも、四季のたのしみや、宴会うたげ、歌むしろは、ずいぶん、おおらかに、それが天賦てんぷの自然生活でもあるように送って来たこの国の人びとではあったが、こう
諸国に率先そっせんして、婦人の団結をはかり、しばしば志士論客ろんかくしょうじては天賦てんぷ人権自由平等の説を聴き、おさおさ女子古来の陋習ろうしゅうを破らん事を務めしに、風潮の向かう所入会者引きも切らず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
けれども僕には僕でまた相当の云草いいぐさがあるんだ。僕のどんは必ずしも天賦てんぷの能力に原因しているとは限らない。僕に時を与えよだ、僕に金を与えよだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
してみれば一人前の仕事とは各自がめいめい天賦てんぷの才能と力量のあらん限りを尽すことであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
少年メンデルスゾーンは、この環境のうちに、天賦てんぷの才能をすくすくと伸ばしていった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
元来のうは我が国民権の拡張せず、従って婦女が古来の陋習ろうしゅうに慣れ、卑々屈々ひひくつくつ男子の奴隷どれいたるをあまんじ、天賦てんぷ自由の権利あるを知らずおのれがために如何いかなる弊制悪法あるもてんとして意に介せず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
もっとも誰にも書けないと云うのは、文を技倆ぎりょうの点や、人間を活躍させる天賦てんぷの力を指すのではない。
ハイフェッツに技巧の驚くべきさえはあっても、メニューインの天賦てんぷの輝きには及び難いかも知れない。「第三ソナタ=ハ長調」もメニューインのがある(ビクターJD一五〇八—一〇)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ところが親爺の腹のなかでは、それが全く反対あべこべに解釈されてしまった。何をしようと血肉の親子である。子が親に対する天賦てんぷ情合じょうあいが、子を取扱う方法の如何いかんって変るはずがない。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この歌の要求するところは幻想上のことである。天賦てんぷの情熱と想像力である。普通の歌手の手は届かない——というキャペルの言葉は正しい。老スレザークかヒュッシュをまつべきであろう。
だから二人の天賦てんぷを度外において、ただ二人の位地いち関係から見ると、お延は戦かわない先にもう優者であった。正味しょうみの曲直を標準にしても、わない前に、彼女はすでに勝っていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし天賦てんぷの能力と教養の工夫とでようやく鋭くなった兄さんの眼を、ただ落ちつきを与える目的のために、再びくらくしなければならないという事が、人生の上においてどんな意義になるでしょうか。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)