売女ばいた)” の例文
旧字:賣女
それから自分はもう取り返しのつかない淪落の女だ売女ばいただと思いながら夜更けの道を帰って来たことも、話してしまおうかと思った。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
売女ばいたを抱くことは決して美徳ではない。しかし抱かないことも美徳ではない。売女を抱かないことはただ抱かないというだけのことだ。
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
綺麗な尼だったそうだよ、比丘尼びくに長屋には法体ほうたい売女ばいたも居る世の中だから目黒の尼寺は大した人気だったと言っても嘘じゃ無さそうだ。
「出てお行き、売女ばいた!」とカテリーナ・イワーノヴナはわめき立てた。すっかりゆがんでしまった彼女の顔の筋という筋が震えていた。
別れを惜しんでいると、処女の親しみを感じるけれども、昂奮し出すと、売女ばいたのいや味が油のようにみ出す。兵馬は、これを迷惑がって
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
実際またその頃から、女の旅をする者がめっきりと減った。歌比丘尼うたびくには市中の売女ばいたとなって、やがてまた跡をおさめてしまった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その女房に満足しない程のTだから、その辺にざらにある売女ばいたなどに、これはという相手の見つかろうはずもないのだが、そこがそれ、退屈だ。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
御禁制の布令ふれが出ても出ても、岡場所にかく売女ばいたは減らないし、富興行はひそかに流行はやるし、万年青おもと狂いはふえるし、強請ゆすり詐欺かたりは横行するし
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
売女ばいた、売女め! とかきむしるような言葉を、寝床のなかで座間はえたてていた。やがて夜があけた。雨が暁の微光に油のように光りはじめてきた。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
上頤下頤うわあごしたあごこぶし引掛ひっかけ、透通る歯とべにさいた唇を、めりめりと引裂く、売女ばいた。(足を挙げて、枯草を踏蹂ふみにじる。)
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まわりの者は大変に腹を立てわき返るような騒ぎをした。恥知らずの売女ばいためが、いったいだれに赤ん坊を育てさせようと思ってるのか。何という大胆さだ。
それにしても、この虫も殺さぬ天使のような少女がやっぱり売女ばいただったとは、なんという淋しいことだろうか。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
去年三月十五日の怨恨うらみさえ晴らせば……男の意地というものが、決してオモチャにならぬ事が、思い上がった売女ばいために解かりさえすれば、ほかに思いおく事はない。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
御承知かも知れませんが、赤城下はその以前に隠し売女ばいたのあったところで、今もその名残なごりで一種の曖昧茶屋のようなものがある。そこの白首しろくびに藤吉は馴染が出来て、余計な金が要る。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たとい売女ばいたにしても、容易にそんなことが出来るわけのものではない。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「カワタ」の「タ」は弟人おとうとをオトト、素人しろうとをシロトという如く、皮人かわうとをカワトとつづめ、それがカワタと訛ったものか、或いは番太ばんた売女ばいた丸太まるた・ごろた(丸くごろごろする石)などの「タ」の如く
エタ源流考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
歌川多門方醜怪なる売女ばいたへ、という手紙をだしたというんですね。返事がなかったそうですよ。特に名指さなかったから、たぶん、売女がたくさんいて、みんな譲り合ったんだろうと言ってましたな
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「——嘘をつけ、この売女ばいた
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
あの……売女ばいたの恐ろしい仕打ちもすっかり…… C'est tragique(ほんとに悲慘ですね)わたしがあの人の立場にいたら
隣の室からは、女の啜り泣く声が聞えます、曾ての許婚いいなずけ半十郎に、売女ばいた枕捜しとまで罵られて、繁代は身も世もあらぬ思いだったでしょう。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「お手の筋だ。しかし、売女ばいたのお品と江戸前のお綱とは芥子けし牡丹ぼたんほどの違いがある。すぐ片ッ方は追い返してしまった」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なかには売女ばいたと寝たなどといって、誇らしげにそのようすを語る者もいたが、新八には理解もできなかったし、そういうことに興味もなかった。
もし又、万が一にも、そのに及んで満月が二人の切ないこころまず、売女ばいたらしい空文句を一言でもかしおって、吾儕われらを手玉に取りそうな気ぶりでも見せたなら最後の助。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まるで、噴水のように涙がわき出るぞ、いい気味だ。やい、その目はなんだ。いまさら哀願するのか。おれにこびを売るのか。売女ばいため。うん、きさまが泣くとかわいい顔になる。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
宴会のあった時、出ていた芸妓げいしゃが加茂川さんちょいとと言ったら、売女ばいた風情が御前をつかまえて加茂川さん、朋友ともだちでも呼ぶように失礼だ、と言って、そのまま座敷を構われた位ないきおいよ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それで「この不貞腐ふてくされの売女ばいため!」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「おお、売女ばいた! 売女ばいた!」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
売女ばいた根性の——江戸一番の性悪娘を、この錦太郎に押し付け、否応いやおう言わせぬ祝言をさせようというのは、みんなそのためだ。
実際は隠し売女ばいたになっただけで、どこの風呂屋にも客の背中をながしたり、茶をんだりする女たちがいて、それらがみな客を取るのであった。
「わが身はこの雷横の母じゃ。生れ損いを産んだ母じゃ。けれどな女子おなご、わしはまだそなたのようなみだら売女ばいた風情を子にもったことはないぞえ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうしても許すことのできない売女ばいたと結婚なすっても、(と彼女は重々しげに言いだした)わたしはやはりあの人を見すてませんわ! 今からけっして、けっして
わしは決して売女ばいたの如き瑠璃子に愛着を感じていた訳ではない。彼女こそ憎みても憎み足らぬ仇敵なのだ。だが、アア、あの愛らしい笑顔! あの笑顔がわしのはらわたをえぐるのだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たとい間違っておりましても、貴方のおことばばかりできます。女の道に欠けたと言われ、薄情だ、売女ばいただと言う人がありましても、……口に出しては言いませんけれど、心では、貴方のお言葉ゆえと、安心を
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「二た月後に迫る、砲術の御前試合に勝ち度さに、妹に売女ばいた真似まねをさせ、相手の『秘巻』を奪い取って済むと思うか、恥を知れッ、犬ッ」
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
僅かに知っているのは売女ばいたにひとしい女だけだし、それも人間らしい相手ではなかった。そんなおれ自身にとって、おまえはあまりに違いすぎた。
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
でもまだ宋江はこらえていた。かえって、わが愚があわれまれた。何をか好んで物ずきに、かかる売女ばいたの侮辱を忍んでいなければならないのか——と。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貧乏人の子かは知らないが、お駒は生無垢きむくの素人娘だ。売女ばいた夜鷹よたかに劣るように言われて、親の俺はどんな心持だと思う
男は二人の女をただ囲っているわけではなく、稽古所の看板にかくれて、ひそかに男女の出会いにも貸すし、侍や裕福な町人に売女ばいたの世話もする。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
売女ばいただろう。だんうらのむかしに似て、北条氏の諸家の奥に仕えていた女たちが、あわれ、色をひさいでいるとか」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんなふうにと説明することはないだろう、おれは盗みも知っている、売女ばいたおぼれたこともあるし、師を裏切り、友を
そこへこの辺の売女ばいただろうか、うるちの粉をまだらに顔へこすったような、しどけない身なりの女が来て、大蔵に何かを渡し、もういいといっても帰らずに
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千万無量の怨みを包んで、私があの女に接近したのは、折を見て一刀の下に斬り捨てようため——だが、折はあっても、売女ばいた一人の命と引き換えでは、この私の命が惜しい。
「それでは訊くが、女に隠し売女ばいたをさせているような人間を、家中の剣法師範に抱えるなどという藩があるだろうか」
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
良家の子女まで、淫蕩いんとうな色彩をこのんだ。町に捨て児がふえ、売女ばいたの親たちが、大きな顔して、暮しが立った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「卑怯者の本意など、解ってたまるものか、其方はそれで本望だろうが、兄の卑怯なのぞみの為に、道具に使われた繁代殿、恥を恥とも思わぬ売女ばいた枕捜しの真似をさせられて、女心がそれで済むか」
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
……が、いかに大たわけでも、よもやなお恋々と、水茶屋の売女ばいた風情に、心を奪われておるわけではあるまい
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだとすると」と十左が云った、「売女ばいたなどにも口の軽いものばかりはいないとみえるな」
「そればかりじゃない、あやめまでこの俺を踏付けやがった——売女ばいた
売女ばいため! 自分の臭い身をかえりみたがいい。人の子をつかまえて、生れ損いとはよういえたもんじゃ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこには親類縁者がいならんでいた、鎌二郎は刀を左手に持って、立ったままでおれをそうどなりつけた、卑しい売女ばいたを囲っていながら、こんな法要をして生きている者はごまかせても
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)