土蔵くら)” の例文
旧字:土藏
土蔵くらを脱け出すくらい何でもなかったのよ。妾あんまり口惜しかったから、アノお土蔵くらの二階の窓にまっていた鉄の格子こうしね。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
けれどもその騒ぎは、何時いつの間にか土蔵くらから屏風や、燭台や、煙草盆や、碁盤やを運び出す忙しさに変つて居るのが例でした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ものは、思っていたより倍かかるものです。まして、長く残そうと思う土蔵くらを、金がかかりすぎるからといって、途中で手を
とよは碁石の清拭きよぶきせよ。利介りすけはそれそれ手水鉢ちょうずばち、糸目のわん土蔵くらにある。南京なんきん染付け蛤皿はまぐりざら、それもよしかこれもよしか、光代、光代はどこにいる。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
御徒士町辺おかちまちあたりとほつて見るとお玄関げんくわんところ毛氈もうせん敷詰しきつめ、お土蔵くらから取出とりだした色々いろ/\のお手道具てだうぐなぞをならべ、御家人ごけにんやお旗下衆はたもとしゆう道具商だうぐやをいたすとふので
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
僕は土蔵くらの石段に腰かけていつもごと茫然ぼんやりと庭のおもてながめて居ますと、夕日が斜に庭のこんで、さなきだに静かな庭が、一増ひとしお粛然ひっそりして、凝然じっとして
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「殿、その言葉でござりましたら……」と、この時まで雪洞高くかかげ、土蔵くらの入口に突っ立って、内の様子をうかがっていた、戸ヶ崎熊太郎が声をかけた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
や、また塗った塗った、その顔は何だい、まるで白粉おしろいで鋳出したようだ。厚きこと土蔵くらの壁に似たりよ、何の真似だろう、火にけぬというお呪詛まじないかも知れねえ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼈甲べっこう屋、小間物屋といったような土蔵くらづくりの、暖簾のれんをかけた、古い店舗みせになってならびます。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
町家が続くあたりに、土蔵くら造りの店構え、家宅を囲む板塀に、忍び返しがいかめしい。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
貸付けたる金はその十分一も戻らず、得意先は残り少なに失ひて、これまで通り商業しようばいも営みかねるやうになりしかば、いくほどもなく家屋いえ土蔵くらをも人手に渡してその後は、小さき家に引移り
小むすめ (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
今も太郎が学校から帰って来て食堂でウェーウェーとやっていて、小チャイ叔母ちゃんは「お土蔵くらへ入れて来るから一寸待って」と云いましたが、やがて「面倒くさい」と云って中止しました。
「それに、伝之助叔父さんはあの時、土蔵くらの中に入っていました」
もはやお土蔵くらへは火がいているのだ。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
土蔵くらの鍵はあるんですか?」
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
女学校を出てからというもの毎日毎日お土蔵くらの二階の牢屋みたいな処に閉じ込められて、一足も外へ出ちゃいけないって云い渡されていたの。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたしの眼に、ふっと、一文字国俊いちもんじくにとしかたなが見えた。と同時に、横浜のうちの、土蔵くらの二階一ぱいの書籍の集積が思い出された。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
たそがれに戸に出ずる二代目のおさなき児等こら、もはや野衾のぶすまおそれなかるべし。もとのかの酒屋の土蔵くらの隣なりし観世物みせもの小屋は、あともとどめずなりて、東警察とか云うもの出来たり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其のうち土蔵くらの塗直しが始まり、質屋さんでは土蔵を大事にあそばすので、土蔵の塗直しには冬が一番もちがいゝと云うので、職人が這入ってどし/\日の暮れるまで仕事をして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とうとう出たのは、掘割を、前にひかえた、立派な角店、——総檜そうひのき土蔵くらづくり、金看板を夜中ながらわざと下ろさず、堂々と威を張っているのが、いわずと知れた広海屋の本店だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
刀真っ向に振り冠り、暗々たる土蔵くら内に踏み入りながら、冬次郎は叱咜しったした。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
豊吉はお花が土蔵くらの前の石段に腰掛けてうたう唱歌をききながら茶室はなれの窓にりかかって居眠り、源造に誘われて釣りに出かけて居眠りながら釣り、勇の馬になッて、のそのそと座敷をはいまわり
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
此処こゝに近い土蔵くらの入口におほ番頭が立つて
住吉祭 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
土蔵くらの蔭ですから、少しも見えません」
土蔵くらの二階の片隅に積んでありました空叺あきがますで、板張りの真中に四角い寝床のようなものが作ってありまして、その上にオモヨさんの派手な寝巻きや
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「では、万一、蔵の出来かかった時に天災が来たらどうします。土蔵くらは出来ましたが、蔵に入れる何にもなくって人手に渡しますとは、まさか言えますまい。」
土蔵くらがある、土蔵には、何かの舞に使った、能の衣裳まで納まったものである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むこう土蔵くらがあって、此の手摺などの構えはてえしたものだ……驚いたねえ、馬方むまかたさんが斯ういう蔵持くらもちの馬方さんとは、此方こっちは知らぬからねえ、失礼な事をいいましたが、実に大したお住居すまい
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
土蔵くらをなくするほどの道楽をした揚句、東京で一旗上げると言って飛び出した切り、行方をくらましているそうで、年った両親は誰も構い手がないままに
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
土蔵くらの縁の下にも住居すまいの下にも、湿けないようにと堅炭かたずみが一ぱい入れてあるといったうちで、浜子一代は、どんなことがあっても家に手を入れないですむようにと
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
土蔵くらの戸前の処へまわって行きましたが、内側からどうかしてあると見えまして、土戸つちど微塵みじんも動きません。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
土蔵くらの縁の下にコロコロしていて、長持ながもちの中は、合紙あいがみがわりに、信州から来る真綿まわたがまるめて、ギッシリ押込んであり、おなじような柄の大島がすりが、巻いたままで
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
土蔵くらの二階へ上って、何かコソコソやっているようで御座いましたが、私はその間、たった一人になりますと、生きた空もない位恐ろしゅうなりましたので
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ふうむ。してみると誰かこの女にイタズラをした村の青年わかてが、その土蔵くらの戸前を開けてやったものかな」
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お隣りのお土蔵くらの壁だの、おうちの台所の天井だの、お向家むかいの御門の板だの、梅の木の枝だの、木の葉の影法師だのをヨ——ク見ていると、いろんな人の顔に見えて来てよ。
人の顔 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
土蔵くらの鼠が、そのお人形さんのお腹を喰い破っちゃったの。そうして中から四角い、小さな新聞紙の切れ端を引き出したのよ。妾がチャンと抱っこしていたのに……ええ。そうなのよ。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)