吾家うち)” の例文
「叔母さん、すこし吾家うちも片付きました。ちと何卒どうぞ被入いらしって下さい。経師屋きょうじやを頼みまして、二階から階下したまですっかり張らせました」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
山ではなく吾家うちの食卓で、山の弁当を開くのは、ちよつと趣きがあるぜ——電灯を消さうか、そして、蝋燭をともさうか、そして
断唱 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「心配おしでない、今夜は、わたしがそばにいて、面倒をみてあげるから」と、吾家うちをほうって、泊りにきてくれるお婆さんもある。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でもおあいにくさまだが吾家うち母様おっかさんはおまえの心持を見通していらしって、いろいろな人にそう云っておおきになってあるから
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
うっかりして居たが、吾家うちは組内だから昨日も何角なにか手伝てつだいに行かねばならなかったのであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
六歳むツつか……吾家うち子供ばうは、袴着はかまぎ祝日いはひ今日けふ賓客きやくんで、八百膳やほぜん料理れうり御馳走ごちそうしたが、ヤアれが忌嫌いやだのこれ忌嫌いやだのと、我意だだばかりふのに、わづ六歳むツつでありながら親孝行おやかうかう
この松原の真中へ、降りたら水があるかしら。咽喉が乾くと、眼を醒ませば。身はいつしかに夜着の中、緑の絹に包まれたり。南無三、これは吾家うちじやない。たしかこの宵、おおそれよ。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
さうして従来通これまでどほりに内で世話をして、どんなにもあの人の目的を達しさして、立派に吾家うちの跡を取して下さい。私はさうしたら兄弟のさかづきをして、何処までも生家さとの兄さんで、末始終力になつて欲いわ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そのほか花の日、旗の日、慈善市、同窓会、卒業祝、パス祝、誰さんの誕生日まで数え込んだら大変であろう。又、そんなのに一々義理を立てたら、吾家うちの晩御飯をいただく時はなくなりそうである。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
もう駄目だつた! 君も知つてゐるかも知れないが吾家うちの団子は斯んなにも大きいんだからね、何ういふわけだか昔からのしきたりで。
鶴がゐた家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
正月と言えば吾家うちもちをつきに来たり、松を立てたりしに来るのも、先祖以来の関係からさ。あの百姓たちには目をかけてやれよ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
じゃあ吾家うち母様おっかさんの世話にもなるまいというつもりかエ。まあ怖しい心持におなりだネエ、そんなにきつくならないでもよさそうなものを。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ご勅使の大原三位様のお供にいていらっした桂さんという人です。とても、気軽で、吾家うちへは、書生時分から来ているので、まるで内輪うちわの人なんですよ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隣字となりあざの仙左衛門が、根こぎの山豆柿やままめがき一本と自然薯じねんじょを持て来てくれた。一を庭に、一をにわとりさくに植える。今年ことし吾家うち聖護院しょうごいん大根だいこが上出来だ。種をくれと云うから、二本やる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
少々惨酷な云い方ではあるが、しっかりした身よりがあって東京に来たのは別として、只無暗むやみに東京にあこがれて吾家うちを飛び出したりするのは、東京に着かぬ前から不良性を帯びていると云っていい。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
『これ、お作や。御辞儀しねえかよ。其様そんな他様ひとさまの前で立つてるもんぢや無えぞよ。奈何どうして吾家うちの児はう行儀が不良わるいだらず——』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
吾家うち母様おっかさんもおまえのことには大層心配をしていらしって、も少しするとおまえのところの叔父さんにちゃんと談をなすって
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「尤もあの番人には詳しいことは解つてゐないだらうが——こんな格構で畑へ入れば吾家うちの者だつて何とか云はれるさ。」
村のストア派 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その二人を、門口から見送った朝、何か、意味ありげに、こう笑って、吾家うちへはいった老人は、これまた、にわかに、旅支度をして、いつの間にか、米沢からいなくなっていた。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でも、香蔵さん、吾家うち阿爺おやじ俳諧はいかいを楽しむのと、わたしが和歌を詠んで見たいと思うのとでは、だいぶその心持ちに相違があるんです。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「止せば好かつた。」——「吾家うちで昼寝でもしてゐれば好かつたのに!」——「何の何の、もつと駆けろ、沙漠だ、沙漠だ! どうせ沙漠だ!」
熱い砂の上 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
ごく懇意こんいでありまたごく近くである同じ谷中の夫の同僚どうりょうの中村の家をい、その細君に立話しをして、中村に吾家うちへ遊びに来てもらうことをうたのである。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
吾家うちへいらっしゃいまし」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よく私は吾家うちのおとっさんにそう言われますよ——愛宕下へ行って帰って来ると、まるで一日二日は腑抜ふぬけのように成ってしまうなんて」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
吾家うちに来る友達は皆なこれを飲まされてゐるんだ。君のやうなガブ飲家には、勿論大丈夫だと思つて、安心してゐたんだ。
素書 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
機嫌がひどく悪いように見えたのは、どういうものだか、帰りの道で、吾家うちが見えるようになってフト気中きあたりがして、何だか今度の御前製作は見事に失敗するように思われ出して
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
実は吾家うちから立っていただきたいと思って、お隅ともその話をしていたんですけれど、連れがありなさるんじゃしかたがない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
父親が吾家うちの者に対して吝嗇で悲しいといふこと(彼女等は Golden touch の夢を信じてゐたらしい。)
小川の流れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
客座にどっしりと構えて鷹揚おうようにまださほどは居ぬ吾家うちからげた大きな団扇うちわゆるはらいながら、せまらぬ気味合きみあいで眼のまわりにしわたたえつつも、何か話すところは実に堂々として
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大変おおかわり。こないだも江戸土産みやげ吾家うちへ届けてくれた飛脚がありましてね、その人の話には攘夷論じょういろんが大変な勢いだそうですね。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それに、新しい友達こそないが吾家うちには相変らず以前の連中が好く来るよ。それが大抵酒飲みでね、どうも……」
素書 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「ええ、皆無事で暮らしてるようです。こちらへも御厄介ごやっかいになったろうッて、吾家うちのものからよろしくと言って来ました。」
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
吾家うちへ来ると云つて出かけたさうなんだが、悪いから俺もそのつもりにして置くんだが、変だね、毎日/\!」
籔のほとり (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「勝重さん、君の前ですが、この節吾家うちのものは皆で寄ってたかって、わたしに年を取らせるくふうばかりしていますよ。」
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
送つてお呉れ、務めが厭なのなら吾家うちに居るのも好からう。お父さんは吾家をあけてばかりゐるのだし、吾家にだつて男でなければ出来ない用事もある。
F村での春 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「わたしは元服を済ますまで盃を手にするなって、吾家うち阿爺おやじに堅く禁じられていますよ。」と勝重はすこし顔をあからめる。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「この前君が来た時は、お互ひに大分酔つ払つたな。君は、吾家うちへ着いたら夜が明けやしなかつたか?」
素書 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
お栄は姉の背中をさすりながら、叔父さんに向つて、「なんでも吾家うち祖母おばあさんの顔がつとそこへ出て来たんですツて……」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
えゝ、その時分は吾家うちにはお金があつたのですつて。それが、とても可笑しいのよ。この人の阿父さんの祖母が死ぬ時に、大変妙な眼つきをして天井を睨めたんですつて。
断唱 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「たしか、橋本の番頭さんが薬をしょって吾家うち被入いらしって、あの時豊世さんのお嫁さんに被入いらしったことを伺いましたっけ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
吾家うちは、それほどの金持だから、僕と結婚すれば幸福になるよ——といふやうな意味で……」
R漁場と都の酒場で (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
どうして天明三年の大飢饉だいききんはこんなものじゃなかったと言うよ。おれの吾家うちの古い帳面には、あの年のことが残ってる。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
吾家うちの婆アは大不機嫌で閉め出しを喰はせた、癪に触つたから門口の扉を滅茶苦茶に叩きのめした、ところが昨日のあの雨で水嵩の増した水車の勢ひが目の廻るやうな凄じさだ
歌へる日まで (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
先刻さっき、僕が吾家うちから出掛けて来ると、丁度御濠端おほりばたのところで皆に遭遇でっくわした。僕は棺に随いて会堂までやって行った」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「僕はあと三日この天気が続いたら今度こそは吾家うちの酒樽を一杯に満して置かう。」
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
お文さんは相變らず吾家うちへ手習に通ひました。しかし私が道さん達の仲間入をするやうに成つてからは、以前のやうに彼女と親しくしませんでした。
それで吾家うちでは、土地を買つたり、十五年近くも長く阿父さんがアメリカで遊べたりしたんですつて! だけど、さういふ話は決して子孫には伝へまいといふ掟をこしらへたのだつて
断唱 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
名倉さんの方では母親おっかさんと兄さんと附いていらしッたんですッてね。きっとまた吾家うち阿爺おやじ喋舌しゃべっていましょうよ。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
途中まで送つておいでと命じたのに、吾家うちの宵張りの連中は誰一人寝言でさへも返答しないよ、僕は飯も喰はずに出かけて来たので途中で君の家に寄つてパンを一片とビールを一本と……
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「豊世さんでしたね」と三吉も引取て、「吾家うちへも手紙を貰いましたが、なかなか達者に好く書いてありましたッけ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)