口数くちかず)” の例文
旧字:口數
げんさんは会社かいしゃにつとめて、ごくほがらかな性質せいしつでありましたが、さんはそれにくらべて口数くちかずすくない、うちきなところがありました。
クラリネットを吹く男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかもその時はちょうど午飯ひるめしの時で、その女が昔の通り御給仕をしたのだが、男はまるで初対面の者にでもったように口数くちかずかなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たゞすこ遠慮勝えんりよがちなのと、あまおほ口数くちかずかぬのが、なんとなくわたしには物足ものたりないので、わたしそれであるから尚更なほさら始末しまつわるい。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そのの事は申し上げるだけ、無用の口数くちかずに過ぎますまい。ただ、みやこへはいる前に、太刀だけはもう手放していました。——わたしの白状はこれだけです。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
年紀としかい、二十五だと聞いたが、さう、やうやう二三とよりは見えんね。あれで可愛かはゆい細い声をして物柔ものやはらかに、口数くちかずすくなくつて巧いことをいふこと、恐るべきものだよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
キチンと四角に坐ったまま少しもひざをくずさないで、少し反身そりみ煙草たばこかしながらニヤリニヤリして、余り口数くちかずかずにジロジロ部屋へや周囲まわりを見廻していた。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
以上の言葉は、城太郎が、未熟な弁を懸命にふるって、武蔵へうったえた沢山の口数くちかずのあらましである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのくせ私は少年の時から饒舌しゃべり、人並ひとなみよりか口数くちかずの多い程に饒舌って、うして何でもることは甲斐々々かいがいしく遣て、決して人に負けないけれども、書生流儀の議論とうことをしない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その口数くちかずすくない、ひかものごしが、わたくしにはなにより有難ありがたおもわれました。
いもうとは、つねに桃色ももいろ着物きものをきていました。きわめて快活かいかつ性質せいしつでありますが、あね灰色はいいろ着物きものをきて、きわめてしずんだ、口数くちかずすくない性質せいしつでありました。
灰色の姉と桃色の妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれは平生の代助の如く、成る可く口数くちかずかずにひかえてゐた。ちゝから見れば何時いつもの代助と異なる所はなかつた。代助の方では却つてちゝかはつてゐるのに驚ろいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
現に指揮官のM大尉なぞは、この隊の先頭に立った時から、別人のように口数くちかずの少い、沈んだ顔色かおいろをしているのだった。が、兵は皆思いのほか、平生の元気を失わなかった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは、伊那丸いなまる幕下ばっかで一番年のわかい巽小文治たつみこぶんじだった。つれの六部は、ニヤリとして口数くちかずをきかないが、たしかに木隠龍太郎こがくれりゅうたろうであるということは、ほの暗い濠ばたの夕闇ゆうやみにもわかる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆうちゃんの叔父おじさんは、としわかく、口数くちかずすくなかったけれど、まじめでありましたから、まちひとたちもだんだんこのみせをひいきにするようになりました。
海が呼んだ話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
僕はきょろきょろしているうちに、叔母と母が汽車の中はさぞ暑かったろうとか、見晴しの好い所が手にって結構だとか、年寄の女だけに口数くちかずの多い挨拶あいさつのやりとりを始めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いちばんうえねえさんは、やさしい、さびしい口数くちかずすくないかたで、そのつぎのいもうとは、まことにうるわしい、おおきいぱっちりとしたかたで、すえおとうと快活かいかつ正直しょうじき少年しょうねんでありました。
王さまの感心された話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おじいさんは、あまり口数くちかずはきかなかったけれど、それはがいいひとでありました。
ものぐさじじいの来世 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうして、いちばんうえのさびしい、口数くちかずすくないあねほしとなったのであります。
王さまの感心された話 (新字新仮名) / 小川未明(著)