また)” の例文
が、少したつとその風は、またこの三つまたになった路の上へ、前のようにやさしく囁きながら、高い空からおろして来ました。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女と弟とは固くなってひとみを見張った。兄は俯伏うつぶせに横わったまま片方の眼を押えてしくしく泣いていた。その指のまたから濃い血がにじみでてくる。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
須走の村の片端に、くぬぎか何かの大木が路をおおうていて、その高いこずえまたに、サンショウクイが巣を掛けていた。
ウツボグサの紫花の四本の雄蕊は尖端がまたになっていて、その一方の叉にはやくがあるのに他の一方はそれがなくてとがったままで反り曲っている。
高原 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
四辺あたりを見ますと、一羽の鸚鵡おうむがつくねんと樹のまたうずくまって居りまする。文治は心中に、「さては鸚鵡でありしか」と我ながら可笑おかしさに耐えず
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
柿本の組で作業していた上川が、猫のようにアカシヤのまたにかけられた他人ひとの軍衣をひっくりかえして歩き出した。巡邏隊の一人として呼ばれた男だ。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
さて彼等の相應ぜること下の如し、蛇はその尾を割きてまたとし、傷を負へる者は足を寄せたり 一〇三—一〇五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
と浮藻の顔の、真ん中どころを狙い澄まし、風を切って力まかせに打とうとしたとたんに猩々卯ノ丸が、かえでまたから二人の間へ、白布のように舞い下りて来た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
調べ所の壁に掛かる突棒つくぼう、さすまたなぞのいかめしく目につくところで、階段の下に手をついて、かねて用意して来た手形を役人たちの前にささげるだけで済んだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それもみんな生きていて、身をよじったり、のたくったり、くるくる巻きになったり、それから、さきの方がまたになって毒をった舌をぺろぺろと出したりしました。
四五本の小枝のまたに、柳や白楊の綿毛や、通りがかりの羊から抜き取つた羊毛やあざみの種の毛帽子で、此の鳥は其の雛に、どんな卵も今までに住んだ事もないやうな
梯子はしごをかけ、梯子の上から、門外の人馬へ何かどなった。おびただしい松明たいまつのいぶりである。十文字鎗、五ツまたほこ袖搦そでがらみなどの捕物道具、見るからにものものしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かう言つて、伊豆はを拡げて畳の上の小粒金を拾ひ集めた。小粒金は悪戯いたづらのやうに指のまたを擦りぬけて転げ廻つてゐたが、それでもしまひには素直に元の徳利に納まつた。
またを組んだりゴロの上を転がしたり、彼らの咽喉のどは重さに耐えてうなるのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
賀茂の競馬を見に行ったら、おうちの木に坊主が上って、木のまたのところで見物していた。木につかまりながら眠りこけて、落ちそうになるかと思うと、ハッと目をさましてまた眠り出す。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
耳をどう振っても蝉気せみけがないので、出直すのも面倒だからしばらく休息しようと、またの上に陣取って第二の機会を待ち合せていたら、いつのにか眠くなって、つい黒甜郷裡こくてんきょうりに遊んだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
南は標高二八四一米のレンゲ岳(また)に始まり、うねうねと屈曲していはするものの、大体において真北を指し、野口五郎のぐちごろう烏帽子えぼし蓮華れんげはりじい鹿島槍かしまやり五龍ごりゅう唐松からまつ等を経て北
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
「そうわかったら、直ぐ様この倍の助勢を呼ぶか——いや、八丁堀までは間に合うまい、せめてさしまた、袖がらみ、目つぶしから梯子はしごまで用意するか——いやそれも急場のことでは六つかしいな」
また宇野の部落の、道が三つまたになっているつじの掛け茶屋で、茶店の老人と話したり、古朽ちた低い家並や、小石混りの乾いた白い道を眺めたり、山を越えてゆく人や馬をぼんやり見送ったりした。
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
庭の桜のまたになった枝の上に、鶸の巣があった。見るからに綺麗きれいな、まん丸によく出来た巣で、外側は一面に毛で固め、内側はまんべんなく生毛うぶげで包んである。その中で、ひなが四羽、卵からかえった。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
木のまたでつくった鉤を両側に出した鞍の一種も、見受けられる(図348)。これは薪や長い材木を運搬するのに使用される。あらゆる物を馬背で運搬する。私は人力車以外の車を見たことがない。
これこのように枝の先が三ツまたに分れているでしょう。これを
六ツまたの熊手
無法な火葬 (旧字旧仮名) / 小泉八雲(著)
鹿の角なら二本にきまっているようなものだが、これは角のまたがいくつにわかれているかということらしい。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
三つまたの路の空まで、犬を進めて来ましたが、見るとそこにはさっきの二人の侍が、どこからかの帰りと見えて、また馬を並べながら、都の方へ急いでいます。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
尤も、時々、身をよじって、頭をもたげ、ねむいような、しゅっしゅっという音を立てて、またになった舌を出すのもいましたが、それもすぐ仲間の蛇の間にもぐってしまいました。
さそりの如くさきを固めし有毒うどくまたを卷き上げて尾はこと/″\く虚空に震へり 二五—二七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
楓の木のまた蹲居そんきょして、桂子の様子を見守り出すと、猿猴の群れも啼き声をとどめ、木々の枝葉の間から、蛍火ほたるびのような眼の光を、無数に点々と闇にともし、彼らの王を見守り出した。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのうちに筋違御門すじかいごもんの前まで来た。そこはまた交叉路こうさろでまた人通りが混んでいる。編笠の侍は、目の前を突ッ切る四ツ手駕をやり過ごして、ついと、燕のように、向う側へ駈け出した。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「下りろ。下りろ。あの三つまたになっている路の上へ下りて行け。」と、こう黒犬に云いつけました。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこへ三つの団子を樹の枝の三つまたにさして、参詣さんけいかたがた村の人が焼きに来るのである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
とうとうそのまたになった角をつかまえて、生捕いけどりにして家につれて帰った話をしました。
とたんに楓のまたからも、猩々卯ノ丸の悲鳴する声が、はらわた断つように聞こえて来た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
村のまたみちを、妙な野郎が、二つの空桶からおけかついで素っ飛んできやがった
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)