内容なかみ)” の例文
かみまつられたといえば、ちょっと大変たいへんなことのようにおもわれましょうが、内容なかみけっしてそれほどのことではないのでございまして……。
運ぶんだぜ。そんな時に、内容なかみが水でないなんて、誰が気がつくものか。俺はマシュースの言葉は信用しないよ。奴は冗談に云っただけだよ
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ところが、内容なかみはモリエルの『タルチュフ』なんだよ。見給え、ドーミエの口絵で、あの悪党坊主ブラック・モンクわらっているじゃないか」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
節子に起って来た憂鬱ゆううつの何であったかは、旅でもらったかずかずの手紙の内容なかみと相待って、何もかも一息に岸本の胸に解けて来るように成った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
地獄ぢごく夜叉やしゃ肉體からだには何者なにものませうとや? あんな内容なかみにあのやうな表紙へうしけたほんがあらうか? あんな華麗りっぱ宮殿きゅうでん虚僞うそ譎詐いつはりすまはうとは!
いいながら内容なかみをつかみ出した。巻き紙がほぐれて、ばらり、手から膝へ垂れた。それを風が横ざまに吹き流した。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
……私は確かにあの風呂敷包みの内容なかみを見たのだが……僅かの間に、あんなに埃がたかる筈はないわけだが……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
見ようか見まいか、何事もない清浄な妻として考えていたい。という思いと、何かしら凡てを知りたいという慾望とで思い迷った揚句、遂に内容なかみを出しました。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
お豊の寝室にあった箪笥たんすの引き出しが一つ残らず開けたまんまになり、その内容なかみが攪き乱されているところを見ると、殺害の動機は窃盗であると察せられました。
白痴の知恵 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
此所ここに居る自分と同じ運命の人間は、大約かれこれ三千人と云う話だが、内容なかみは絶えず替って居る。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
台所からコップを持って来て桶の横腹に穴をあけて内容なかみを受けてみる、舐めて試る。ブランディではない。揮発油でもないアルコウルである。重い、一つずつ二人掛りで動かした。
生きている戦死者 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
言っていけない言葉の中には、思い上った言葉だの、不心得な言葉が多く、だから一方では良心についての訓戒でもある。言葉遣いがいいということは、内容なかみがいいということでもある。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
夜具の中へ首をすつ込めて足を縮めて、冷えた身體の暖まるので、いゝ氣持になつてゐたが、すると今見た手紙の内容なかみがいろ/\に想像され出して、自分に女房の出來るのが不思議でならなかつた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
そして何時の間にかお前はその内容なかみをひき出してたのしむで居る。
わが児に (新字新仮名) / 加藤一夫(著)
と云って、包にはあるアルカロイドの名が書いてありますが、内容なかみは僕のポケットに偶然入っていた催眠剤なんですよ。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
が、内容なかみからいえば、それは現世げんせではとてもおもいもよらぬような、不思議ふしぎな、そして物凄ものすご光景こうけいなのでございました。
『懴悔録』の広告を見つけた時の喜悦よろこびから、飯山の雑誌屋で一冊を買取つて、其を抱いて内容なかみを想像し乍ら下宿へ帰つた時の心地こゝろもち、読み耽つて心に深い感動を受けたこと
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
美人は多く玩弄用がんろうようで、内容なかみのお粗末なのが通り相場になっていると聞くが、その園絵、花ももあるほんとうの美人で、美人とは美しい人と書く。人は、形の美よりも心の美である。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そなたこひ盟約ちかひ内容なかみ空誓文からぜいもん、なりゃこそ養育はごくまうとちかうたこひをもころしてのけうとやるのぢゃ、そなた分別ふんべつ姿すがたこひかざりぢゃが、本體ほんたいうないので不具かたはとなり、おろかそつ藥筐くすりいれ火藥くわやくのやうに
しかし、封を切って、内容なかみ一瞥いちべつした瞬間に、どうしたことか彼の瞳から輝きが失せ、全身の怒張がいっせいにゆるんでしまって、その紙片を力なげに卓上へ抛り出した。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
内容なかみよりも外形うわべたっと現世げんせひとまなこは、それで結構けっこうくらませることができても、こちらの世界せかいではそのごまかしはきかぬ。すべてはみなかみうつり、また程度ていどたがいにもうつる……。
内容なかみは、左膳の計略で壺にはあらで、隅田川すみだがわの水に洗われたまるい河原の石……いずれをいずれと白真弓しらまゆみと、左膳がその石のおもてに一筆ふるってあったのは剣怪ちかごろの大出来だったが
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
毎時いつも演説の前には内容なかみの話が出て、斯様かう言ふ積りだとか、彼様あゝ話す積りだとか、く飯をやり乍ら其を我輩に聞かせたものさ。ところが、君、今夜に限つては其様そんな話が出なかつたからねえ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それは、荒涼たる時間の詩であろう。この内容なかみのない硝子器が、絶えず何ものかを期待しながらも、空しく数十年を過してしまって、しかも未だもって充されようとはしないのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「しかし、私はあくまでも、内容なかみは壺ではねえと存じますので」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
問題の鎧櫃の内容なかみなどをきいてみると——。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)