伎倆ぎりょう)” の例文
それから、彼女が無政府主義者の集会の演壇に立つようになり、演説者としての伎倆ぎりょうを認められるやうになつたのは直ぐであつた。
乞食の名誉 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
れで政府も余程こまった様子でありしが、到頭とうとうソレを無理圧付おしつけにして同船させたのは、政府の長老も内実は日本士官の伎倆ぎりょう覚束おぼつかなく思い
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし、それらの色眼鏡を取りはずして見物した人々は、さすがに日本一の団十郎であると驚嘆して、みな口々にその伎倆ぎりょうの卓抜なるを讃美した。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
顧みると国文学者の分子の方が勝つてしまつた彼の生涯の中で、かえって生れつきゆたかであつたと思はれる、物語作者の伎倆ぎりょうを現したのはわずかに過ぎない。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
飛衛の方では、また、危機をだっし得た安堵あんどと己が伎倆ぎりょうについての満足とが、敵に対するにくしみをすっかり忘れさせた。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
英国公使館の籠谷かごたに、精養軒の外山とやま大隈家おおくまけの伊藤、露国公使館の秋山、昆布こんぶスープをこしらえた加藤なんぞという諸氏は各々得意の伎倆ぎりょうを持っていて
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それを、正義だの、青年の仲間だのと言って、僕たちを言いくるめて、いい加減に踊らせたのだから天晴あっぱれれな伎倆ぎりょうだ。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
されど君が画における伎倆ぎりょうは次第にあらはれ来り何人もこれに対しての賞賛を首肯しゅこうせざる能はざるほどになりぬ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
轆轤ろくろにしろ、削りにしろ、絵附えつけにしろ、ダミにしろ、その伎倆ぎりょう技術は見る者を「不思議」の世界に導くであろう。彼らの腕は昔の如く素晴らしいのである。
北九州の窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「どうも驚ろいたね。君にしてこの伎倆ぎりょうあらんとは、全く此度こんどという今度こんどかつがれたよ、降参降参」と一人で承知して一人で喋舌しゃべる。主人には一向いっこう通じない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
欧羅巴ヨオロッパの某大国の Corpsコオル diplomatiqueジプロマチック で鍛えて来た社交的伎倆ぎりょうたくましゅうして、或る夜一代の名士を華族会館の食堂に羅致らちしたのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
師匠はこの婦人をどうかと私に相談をしました。高橋家は彫刻師としては名家であり、定次郎氏は私とは年来の知己で、性情伎倆ぎりょうともに尊敬している人である。
「ほろりとも降らで月澄む」の十二字を以て、大旱の夜の空気を現した伎倆ぎりょうは尋常でない。蚊遣は片靡かたなびきもせず、作者の座右に細々とくゆりつつあるものと想像する。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
その思想と伎倆ぎりょうの最も円熟した時、後代に捧ぐべき代表的傑作として、ハムレットを捕えたシェクスピアは、人の心の裏表うらおもてを見知る詩人としての資格を立派に成就した人である。
二つの道 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
日本海軍の起源きげんは、安政初年のころより長崎にて阿蘭人オランダじんつたうるところにして、伝習でんしゅうおよそ六七年、学生の伎倆ぎりょうほぼじゅくしたるにき、幕議ばくぎ遠洋えんようの渡航をこころみんとて軍艦ぐんかん咸臨丸かんりんまる艤装ぎそう
というのは、その愛もそのうれいも、幾度も繰り返してわれわれの心に生き残って行くから。われわれの心に訴えるものは、伎倆ぎりょうというよりは精神であり、技術というよりも人物である。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
助七はすぐ林大學頭はやしだいがくのかみ様のやしきへ参り、殿様に右の次第を申上げますと、殿様も長二の潔白なる心底と伎倆ぎりょうの非凡なるに感服されましたから、直に筆をって前の始末を文章にしたゝめて下さいました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
よくこんなしっかりした青年を友人に獲得したものだと一向にだらしのないような自分のむす子のどこかにひそむ何かの伎倆ぎりょうがたのもしく思われた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あたか孟子もうしの云いし浩然こうぜんの気に等しく、これを説明することはなはかたしと雖も、人にしていやしくもその気風品格の高尚なるものあるに非ざれば、才智伎倆ぎりょう如何いかんかかわらず
彼が『万葉』を学んで比較的くこれを模し得たる伎倆ぎりょうはわが第二に賞揚せんとするところなり。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
どうやら出来るくらいの「伎倆ぎりょう」を、れいの運動で走り廻ったおかげ? または、女の? または、酒? けれども、おもに金銭の不自由のおかげで修得しかけていたのです。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
素人しろうと——榎本君は素人ではないが、その当時はまだ其の伎倆ぎりょうを認められていなかった——が寄り集まって書いた脚本が、こういう風に鉈を加えられたり、なますにされたりするのは
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
よくまああれだけの簡単な材料でかくまで異様な顔を思いついた者だと思うと、製造家の伎倆ぎりょうに感服せざるを得ない。よほど独創的な想像力がないとこんな変化は出来んのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伎倆ぎりょう一杯に丹精を擬らし、報酬の多寡などは眼中に置かないという有様となる。
しかし己はうそは言わないから、誰も落ち込みはしない。己は遣って来る人の性質や伎倆ぎりょうや境遇を見て、その人に出来そうな為事しごとを授けるのだ。それで成功したものが、これまでに随分あるよ。
里芋の芽と不動の目 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
遊び道具としては、まことに面白いものであると思ふ。しかしこの写真を見るのに、二つの写真が一つに見えて、平面の景色が立体に見えるのには、少し伎倆ぎりょうを要する。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
航海術の伝習を始めてから五年目にして、れで万延元年の正月に出帆しようと云うその時、少しも他人の手をらずに出掛けて行こうと決断したその勇気と云いその伎倆ぎりょうと云い
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そのほかこの本にある画は今まで見た画の内の、最も簡単なる画であつて、しかもその簡単な内に一々趣味を含んでゐる処はけだし一種の伎倆ぎりょうと言はねばならぬ。(八月二十五日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
つまびらかに言へば茅堂は写生の何たるをもく解せざるべく、鳥羽僧正の写生の伎倆ぎりょうがどれだけに妙を極めたるかも解せざるべく、ただその好きな茶道より得たる幽玄簡単の一趣味を標準として
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
十三番の右は景色画でしかも文鳳特得の伎倆ぎりょうを現はして居る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
こはもとより伎倆ぎりょう退しりぞきたるにあらず、されど進まざるなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)