仕合しあはせ)” の例文
だが飛びのいて初めてわかるまでは、そんなに遠くの方まで逐ひやられようとは思つてゐなかつたのだつた。結局これは仕合しあはせだつた。
仕合しあはせなことにさきに一等看護婦になつてゐた智恵子の姪のはる子さんといふ心やさしい娘さんに最後まで看護してもらふ事が出来た。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
知り即夜そくや旅館りよくわん呼寄よびよせ一通り糾問たゞしに取掛られたり然れば藤八お節の兩人は願ひのおもむき御取上とりあげに相成し事まことに有難き仕合しあはせなりとなみだ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「しかし、あの子はお乳がないとこまるから、母さまのそばにゐた方が仕合しあはせだ。それでは四人で一しよにくらしていかう。」
星の女 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
思へば、人の申候ほど死ぬる事は可恐おそろしきものに無御座候ござなくさふらふ。私は今が今此儘このままに息引取り候はば、何よりの仕合しあはせ存参ぞんじまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
エヘヽヽおもてとほ女子達をなごたちみな立留たちどまくらゐのもんで、ういふ珠揃たまぞろひのお方々かた/″\世辞せじあきなひしてらつしやるところかひましたのは手前共てまいども仕合しあはせ
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
桑田はこんな好い家は捜しても滅多めつたに捜されるものではない。アパートを追出されたのは全く有難い仕合しあはせだと思つた。
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
ところ仕合しあはせにもミハイル、アウエリヤヌヰチのはうが、此度こんど宿やど引込ひつこんでゐるのが、とうとう退屈たいくつになつてて、中食後ちゆうじきごには散歩さんぽにと出掛でかけてつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「有難い仕合しあはせです。」作者は妙に苦笑し乍ら云つた。「これからも精々いゝ種を仕入れるとしませう。」
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
人間といふものは賢くなるためには、従来これまで持つてゐた何物かを失はなければならない、とすると、女房かみさんや馬にげられるよりは、蜜蜂をくした方が、まだ仕合しあはせだつた。
堪忍かんにんをし、なんおもつても先方さき大勢おほぜい此方こつちみなよわいものばかり、大人おとなでさへしかねたにかなはぬはれてる、れでも怪我けがのないは仕合しあはせ此上このうへ途中とちうまちぶせがあぶない
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それがあなたにとつて仕合しあはせだとも不仕合だとももう思へませんでした。
井上正夫におくる手紙 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
『常さんがしつかりして居るから、おたくでは仕合しあはせぢや』
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そんだがおめえも相續人さうぞくにん出來でき仕合しあはせだよなあ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ぷんにならるるよめ仕合しあはせ 利牛
民族的記憶の名残 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
見付是はめづらしやと表へ呼出し向ふ横町の鰻屋うなぎやあがりて物語りけるに三吉はひざを進め扨々さて/\面目なき仕合しあはせなれども誠に此體なれば何卒なにとぞ少々の合力を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼は宮を見る毎におほいなる手柄をも成したらんやうに吾がれるほどの親といふ親は、皆才覚無く、仕合しあはせ薄くて、有様ありようは気の毒なる人達かな、とそぞろに己の誇らるるなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
仕合しあはせと道具屋は名人をこさへる事にかけては、その道の師匠よりもずつとすぐれた腕を持つてゐるので、幸田氏は十日も経たぬうちに名人の吹いた尺八を三本まで手に入れた。
堪忍をし、何と思つても先方さきは大勢、此方こちは皆よわい者ばかり、大人でさへ手が出しかねたにかなはぬは知れてゐる、それでも怪我のないは仕合しあはせ、この上は途中の待ぶせが危ない
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
誠に有難ありがた仕合しあはせぞんじます……。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
逃去にげさり金はまんまと奪ひ取仕合しあはせよしと兩人五百兩宛配分はいぶんして悦び別れけり然ばかの兩替屋にては翌朝早速さつそく町奉行所へ訴へ出ければ大岡殿島屋の手代てだい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「いや、仕合しあはせと想うたよりは軽くての、まあ、ま、あの分なら心配は無いて」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)