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乳呑兒
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ちのみご
處へ、
細君はしどけない
寢衣のまゝ、
寢かしつけて
居たらしい、
乳呑兒を
眞白な
乳のあたりへしつかりと
抱いて
色を
蒼うして
出て
見えたが、ぴつたり
私の
椅子の
下に
坐つて
こぼれるほどに
乘つた
客は
行商の
町人、
野ら
歸りの
百姓、
乳呑兒を
抱へた
町家の
女房、
幼い
弟の
手を
引いた
町娘なぞで、一
度出かゝつた
舟が、
大きな
武士の
爲めに
後戻りさせられたのを
下女と
徇れてゐた
醜女計りを
伴ふて
來たので、
而して
此女には
乳呑兒が
有つた。
それは
高瀬船の
船頭夫婦が、
足りても
足りなくても
自分の
家族の
唯一の
住居である
其の
舳に
造られた
箱のやうな
狹いせえじの
中で
噺して
居る
聲であつた。
乳呑兒の
泣く
聲も
交つて
聞えた。
夫婦と
乳呑兒と三
人の
所帶で
彼等は
卯平から
殼蕎麥が一
斗五
升と
麥が一
斗と、
後にも
先にもたつた
此れ
丈が
分けられた。
正月の
饂飩も
打てなかつた。
有繋にお
袋は
小麥粉を
隱してお
品へ
遣つた。