下手したで)” の例文
ただ先方はどこまでも下手したでに出る手段を主眼としているらしく見えた。不穏の言葉は無論、強請ゆすりがましい様子はおくびにも出さなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今度はわたしが手を替へて、優しく下手したでに出た。すると娘はシク/\泣きだして半巾ハンカチで顔をおほつてばかりゐる。わたしは情けなくなつた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
侍「おのれ下手したでに出れば附上つけあがり、ます/\つの罵詈暴行ばりぼうこう、武士たるものゝ面上めんじょうに痰を唾き付けるとは不届ふとゞきな奴、勘弁が出来なければうする」
相手が下手したでから出ると、ついホロリとしてしまふ瑠璃子であつたが相手が正面からかゝつて呉れゝば、一足だつて踏み退く彼女ではなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
それでいて婦人おんなはいつも下手したでに就いて、無理も御道理ごもっともにして通さねばならないという、そんな勘定に合わないことッちゃあ、あるもんじゃない。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
重吉はかつて我儘わがままで身のおさまらない年上の女と同棲どうせいした時の経験もあるので、下手したでに出て女をあやなすことにはれている。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そしていま迄、下手したで謙遜けんそんに学び取っていた仕方は今度からは、争い食ってかかる紛擾ふんじょうの間に相手からぎ取る仕方に方法を替えたに過ぎなかった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こじれだしたらおさめようのないことを知っているので、ずいぶん下手したでに出てなだめたが、どうしてもきかない。
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
まだやくを越したばかり、若くて美しくて、氣立てのいゝお靜は、氣の毒なほど下手したでに出て、綺麗で年上で、何となく押の強いお樂を立てゝやつたのです。
直接じかにかけ合ったり、下手したでに出ればいい気になって勿体もったいをつけてさ、それがためにこの子がれ出して、こんな病気になるのもほんとに無理がありませんよ
どういう態度で返事をしてやろうかという事が、いちばんに頭の中で二十日鼠はつかねずみのようにはげしく働いたが、葉子はすぐ腹を決めてひどく下手したでに尋常に出た。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
としきりとなだめている男は、裾野落すそのおちのひとりである早足はやあし燕作えんさく。なぜか、きょうにかぎってばかに下手したでだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私をちでもするかと思った。私、あれが新さんが厭なの。そりゃ姉の亭主だから義兄にいさんにいさんと下手したでに出ていれば親切なことは親切な人なんですけれど
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
下手したでに息子を説きすすめて食べさせようとした。彼は強情を張った。彼女はついにいらだってきて、不愉快なことを口にのぼせた。彼もそれに言い返してやった。
人の家なれば使ひの來る事もありと無情すげなきこたへに、左樣いはれては返すに詞も無けれど、どこからの使ひだ位は聞かせて呉れてもよき筈、喧嘩かひのとげ/\しき言葉ならでもと下手したでに出れば
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それまでは、何事もおだやかに、おだやかに、くまでも下手したでに出て、この、一度血を見た若いけもののごとき神尾喬之助を、何とかあしらって置かねばならぬ……と、思ったが、あぶない。そばへは寄れぬ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
法印は、ひどく下手したでだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「ま、板倉は下手したでに出てるよってに大した事にもならなんだけど、こいさんのために、二人の男が場所柄も忘れて喧嘩けんかするなんて云うことは、あんまり見っともええこッちゃないな。こんなことが世間へぱっとせんうちに、何とか解決しとく方がええで」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
相手が下手したでから出ると、ついホロリとしてしまう瑠璃子であったが相手が正面からかゝってれゝば、一足だって踏み退しりぞく彼女ではなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
平次は穏やかな調子で、下手したでに出ました。手柄や功名は誰にさしても、それは大した問題ではありません。
「さっきから下手したでにでていればツケあがって、素直すなおにわたさねえとまたいたい目に会わすからそう思え」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内の奴は返事のないほどこちらが下手したでに痛み入るほかはないが、この外の奴の返事のないのは——これは全くようしゃがならない、時節柄ではあり、現に先日の夜も
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
其時そのときうらやまむかふのみね左右さいう前後ぜんごにすく/\とあるのが、一ツ一ツくちばしけ、かしらもたげて、の一らく別天地べツてんち親仁おやぢ下手したでひかへ、うまめんしてたゝずんだ月下げツか美女びぢよ姿すがた差覗さしのぞくがごと
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「うむ……お宮というんだが、君は知らないのか……。」と下手したでに出た。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
彼は今までこれほど猛烈に、また真正面に、上手うわてを引くように見えて、実は偽りのない下手したでに出たお延という女を見たためしがなかった。弱点をいて逃げまわりながら彼は始めてお延に勝つ事ができた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
矢頃やごろを計ってから語気をかえてずっと下手したでになって
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
平次は穩かな調子で、下手したでに出ました。手柄や功名は誰にさしても、それは大した問題ではありません。
そこで御機嫌斜めなうちかた御思惑おんおもわくを察してみると、お代官も権柄けんぺいずくではどうにもならないから、下手したでに出てその雲行きのやわらぎを待つよりほかはないとあきらめたものらしい。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、やがてその前へ家の内から柴進さいしんが会釈に出ていた。そしてあくまで下手したでに。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新子が出来るだけ、下手したでに出ての哀願に、夫人はニコリともせず
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
下手したでに出ると、宅助は、その泣き落しに誘われないで
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は靜かに、下手したでに出ました。
「行き過ぎをやるな。何事によれ、下手したでに下手に」
「あの野郎、悪く下手したでになっていたが? ……」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)