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一刹那
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いっせつな
ふりがな文庫
“
一刹那
(
いっせつな
)” の例文
一寸法師は、お花に正面から見つめられて、
一寸
(
ちょっと
)
たじろいだ。彼の顔には
一刹那
(
いっせつな
)
不思議な表情が現れた。あれが怪物の
羞恥
(
しゅうち
)
であろうか。
踊る一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
その瞬間、
斧
(
おの
)
を手にしてドアの陰に立っていたあの数日前の
一刹那
(
いっせつな
)
が、恐ろしいほどはっきりした実感として記憶によみがえった。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
この
一刹那
(
いっせつな
)
の哀楽をいつまでも逃がすまいと二人で取り縋っているかのように、砕けるばかりに抱き合った。厳として存する谿谷の掟。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
健三も
一刹那
(
いっせつな
)
にわが全部の過去を思い出すような危険な境遇に置かれたものとして今の自分を考えるほどの馬鹿でもなかった。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
長吉はその
後姿
(
うしろすがた
)
を見送るとまた更に恨めしいあの車を見送った時の
一刹那
(
いっせつな
)
を思起すので、もう
何
(
なん
)
としても我慢が出来ぬというようにベンチから立上った。
すみだ川
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
▼ もっと見る
突きあたった
一刹那
(
いっせつな
)
に感じたところでは、熊のような長い毛が一面に生えているらしかったというのである。
馬妖記
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
失望
落胆
(
らくたん
)
に沈んでいる時にも、もしこれがソクラテス
翁
(
じい
)
さんであったら、この
一刹那
(
いっせつな
)
を
如何
(
いか
)
に処するであろう、と振返って、
静
(
しずか
)
に
焦立
(
いらだ
)
つ精神を
鎮
(
しず
)
めてみると
ソクラテス
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
「ワン」「ツー」「スリー」の号令とともに、一思いにドブンと、海中に投げ込まれようとした
一刹那
(
いっせつな
)
怪奇人造島
(新字新仮名)
/
寺島柾史
(著)
燃え上っている大きな
焔
(
ほのお
)
の中の
薪
(
たきぎ
)
のように、わたくしはあなたが
用捨
(
ようしゃ
)
もなく、未来に残して置かねばならないはずの生活までを、ただ
一刹那
(
いっせつな
)
の中に込めて、消費しておしまいなさるのを
家常茶飯 附・現代思想
(新字新仮名)
/
ライネル・マリア・リルケ
(著)
葉子は
一刹那
(
いっせつな
)
の違いで死の
界
(
さかい
)
から救い出された人のように、驚喜に近い表情を顔いちめんにみなぎらして裂けるほど目を見張って、写真を持ったまま飛び上がらんばかりに突っ立ったが
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
勿論
(
もちろん
)
男の憎い事などは産が済んだ
一刹那
(
いっせつな
)
に忘れてしまった自分は、世界でこの刹那に一大
功績
(
てがら
)
を建てたつもりですから、最早如何なる憎い者でも
赦
(
ゆる
)
してやるといったような気分になります。
産屋物語
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
純一がはっと思って、
半醒覚
(
はんせいかく
)
の状態に
復
(
かえ
)
ったのはこの
一刹那
(
いっせつな
)
の事であった。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
しかもそれが
一刹那
(
いっせつな
)
閃
(
ひら
)
めくことがあっても次の瞬間にはすでに
滅
(
き
)
えてしまっている。いわゆる前方を
鎖
(
とざ
)
してわだかまるのは
常闇
(
とこやみ
)
である。一刹那の光はむしろ
永劫
(
えいごう
)
の暗黒を指示するが如くに見える。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
彼は彼自身の眼を疑うように、
一刹那
(
いっせつな
)
は茫然と
佇
(
たたず
)
んでいた。が、たちまち大刀を捨てて、両手に頭を抑えたと思うと、息苦しそうな
呻
(
うめ
)
き声を発して、
弦
(
いと
)
を離れた矢よりも早く、洞穴の外へ走り出した。
素戔嗚尊
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
彼池の
滸
(
ほと
)
りの
一刹那
(
いっせつな
)
を思うては、
戦慄
(
せんりつ
)
せずには居られません。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
芝居じみた
一刹那
(
いっせつな
)
が彼の予感を
微
(
かす
)
かに
揺
(
ゆす
)
ぶった時、彼の神経の
末梢
(
まっしょう
)
は、眼に見えない風に
弄
(
なぶ
)
られる細い小枝のように
顫動
(
せんどう
)
した。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
彼は
一刹那
(
いっせつな
)
、弓のように身を縮めたかと思うと、たちまち一発の巨大な弾丸となって、熊を目がけて飛びかかっていった。
人間豹
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
軽い
戦慄
(
せんりつ
)
が姫の体を
一刹那
(
いっせつな
)
走ったと思ったが、観念した姫は悪びれもせず、盃を受けて
戴
(
いただ
)
いた。正に唇を着けようとする。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
第一の小説は今を去る十三年の前にあったことで、これはほとんど
小説
(
ロマン
)
などというものではなくて、単にわが主人公の青年時代の初期の
一刹那
(
いっせつな
)
のことにすぎない。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
一刹那
(
いっせつな
)
の間お玉だと思った事がある。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
私はそういう人に取って、生きていた三十五年が苦しいか、また刀を腹へ突き立てた
一刹那
(
いっせつな
)
が苦しいか、どっちが苦しいだろうと考えました。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
覗きからくりの絵板が、カタリと落ちた様に、
一刹那
(
いっせつな
)
に世界が変って
了
(
しま
)
った。
庄太郎
(
しょうたろう
)
はいっそ不思議な気がした。
灰神楽
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
彼女の心から
一刹那
(
いっせつな
)
悲しみの影が消え去った。身も心も
痲痺
(
しび
)
れようとした。「死んでもよい」という感情が、人の心へ起こるのは、実にこういう瞬間である。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
この変化は実に一瞬の間に、
一刹那
(
いっせつな
)
に生じたことである。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
その笑顔がまた変に彼の心に影響して来る事も彼にはよく解っていた。彼女は
一刹那
(
いっせつな
)
に
閃
(
ひら
)
めかすその鋭どい武器の力で、いつでも即座に彼を征服した。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
一刹那
(
いっせつな
)
、私は
幻
(
まぼろし
)
を見ているのではないかと疑いました。事実私の神経は、それ程病的に興奮していたのですから。
湖畔亭事件
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
凄
(
すさま
)
じい微笑が
一刹那
(
いっせつな
)
多四郎の頬に浮かんだが、山吹の顔をジリジリと上の方へ向けようとする。二人の顔が合った時多四郎は突然自分の顔を山吹の顔へ落としかけた。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
一刹那
(
いっせつな
)
、死んだ弘子の写真ではないかと感じたほど、この歌姫は、彼のかつての恋人と
瓜
(
うり
)
二つであった。
人間豹
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
群集は
一刹那
(
いっせつな
)
静かであった。思いもよらない出来事のために物を云うことさえ出来なかったのだ。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
余が視線は、
蒼白
(
あおじろ
)
き女の顔の
真中
(
まんなか
)
にぐさと
釘付
(
くぎづ
)
けにされたぎり動かない。女もしなやかなる
体躯
(
たいく
)
を
伸
(
の
)
せるだけ伸して、高い
巌
(
いわお
)
の上に一指も動かさずに立っている。この
一刹那
(
いっせつな
)
!
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
一刹那
(
いっせつな
)
、この世の視野の外にある、別の世界の
一隅
(
いちぐう
)
を、ふと
隙見
(
すきみ
)
したのであったかも知れない。
押絵と旅する男
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
すると館の音楽は忽ちハタと音を停めて、人声さえも静まったが、その静けさも
一刹那
(
いっせつな
)
、忽ち聞こえる横笛の音。それに続いて鼓の音。その
囃子
(
はやし
)
さえ一しきり、
錆
(
さび
)
のある肉声の歌うを聞けば
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
もうどう
焦慮
(
あせっ
)
ても
鼓膜
(
こまく
)
に
応
(
こた
)
えはあるまいと思う
一刹那
(
いっせつな
)
の前、余はたまらなくなって、われ知らず
布団
(
ふとん
)
をすり抜けると共にさらりと
障子
(
しょうじ
)
を
開
(
あ
)
けた。
途端
(
とたん
)
に自分の
膝
(
ひざ
)
から下が
斜
(
なな
)
めに月の光りを浴びる。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
幾千年、幾万年、お前たち、空も森も水も、ただこの
一刹那
(
いっせつな
)
の為に生き永らえていたのではないか。お待ち遠さま(!)さあ、今、私はお前達の
烈
(
はげ
)
しい
願
(
ねがい
)
をかなえて上げるのだよ
火星の運河
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
千百の顔が、
一刹那
(
いっせつな
)
ハッと色を失って思わず舞台の上から眼をそらした。次に起こるべきあまりにもむごたらしい光景を、正視するに忍びなかったのだ。婦人客は両手で眼を
覆
(
おお
)
った。
人間豹
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
一刹那
(
いっせつな
)
、私の目には、背景が空ばかりだった
為
(
ため
)
か、それが、非常に大きな
異形
(
いぎょう
)
のものに見えた。
併
(
しか
)
し、次の刹那には、それは、
物
(
もの
)
の
怪
(
け
)
などよりはもっと恐しいものであることが分った。
毒草
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
一
常用漢字
小1
部首:⼀
1画
刹
常用漢字
中学
部首:⼑
8画
那
常用漢字
中学
部首:⾢
7画
“一刹”で始まる語句
一刹