骨董こつとう)” の例文
われをもくして「骨董こつとう好き」と言ふ、誰かたなごころつて大笑たいせうせざらん。唯われは古玩を愛し、古玩のわれをして恍惚くわうこつたらしむるを知る。
わが家の古玩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
隣の部屋を覗いて見ると、其處はザラに見かける事のできないおびたゞしい骨董こつとうを飾つた廣間で、疊敷にして十五疊ほどあるでせうか。
目の前の餉台ちやぶだいにあるお茶道具のことから、話が骨董こつとうにふれた。ちやうどさういふ趣味をもつてゐる養嗣子が、先刻さつきからきれで拭いてゐたつばを見せた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
木で造つた渡船わたしぶねと年老いた船頭とは現在ならびに将来の東京に対して最も尊い骨董こつとうの一つである。古樹と寺院と城壁と同じく飽くまで保存せしむべき都市の宝物はうもつである。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しか骨董こつとうのつくほどのものは、ひとつもないやうであつた。ひとりなんともれぬおほきなかめかふが、眞向まむかふるしてあつて、其下そのしたからながばんだ拂子ほつす尻尾しつぽやうてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「さうだ。曾鉄誠老人に会つておくのもわるくない。ついこの筋向ふの椿樹胡同といふところにゐるよ。骨董こつとう店なぞの妙に多い横町で、うちの副社長の官舎にもぢきなのだ。」
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
此処こゝ御案内ごあんないとほ古器物こきぶつ骨董こつとう書画類しよぐわるゐあきなかた中々なか/\面白おもしろい人でございます。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
孔雀の真似をからすの六左衛門が東京に別荘を置くのも其為である。赤十字社の特別社員に成つたのも其為である。慈善事業に賛成するのも其為である。書画骨董こつとうで身のまはりを飾るのも亦た其為である。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
唐櫃は骨董こつとうやガラクタ道具を入れたもので、舊家にこんな物のあることはなんの不思議もありませんが、その唐櫃の中に、骨董品に交つて
書物さへすでにさうである。いはんや書画とか骨董こつとうとかは一度も集めたいと思つたことはない。もつともこれはと思つたにしろ、到底たうてい我我売文の徒には手の出ぬせゐでもありさうである。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なに書畫しよぐわどころか、まるなにわからないやつです。あのみせ樣子やうすてもわかるぢやありませんか。骨董こつとうらしいものはひとつもならんでゐやしない。もとが紙屑屋かみくづやから出世しゆつせしてあれだけになつたんですからね
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「それから、もう一つ訊き度い。お内儀さんは先に亡くなつた大主人が、骨董こつとうを買ひ集めるのを、大層嫌がつたさうだな」
このをとこ書畫しよぐわ骨董こつとうみちあかるいとかいふので、平生へいぜいそんなものの賣買ばいばい周旋しうせんをして諸方しよはう出入でいりするさうであつたが、すぐさま叔父をぢ依頼いらいけて、だれそれがしなにしいとふから、一寸ちよつと拜見はいけんとか
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「でも、俺はそこまで詮索せんさくする氣がなかつたよ。土地の御用聞に任せて置くことだ。——あの兄妹はよく/\骨董こつとうに凝る人間が憎いやうだから」
一兩小判はざつと四匁、元祿げんろく以前の良質のものは、今の相場にして骨董こつとう値段を加へると何萬圓といふことになるでせう。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「井筒屋重兵衞は疝癪せんしやく溜飮りういん持だ。氣の毒だが金に不自由はなくなつても大福餅には縁がありませんよ。——淺ましいことに重兵衞は骨董こつとうり始めた」
それに、困つたことに親の私は古道具屋で、骨董こつとうには一應眼が利くだらうし、隱すにも賣るにも、何彼と都合がよからうと、斯う思つて居る樣子で御座います。
「親分、あつしには薩張さつぱり解らない。銀次は骨董こつとうを打ち壞して井筒屋の父子を殺したんですか」
かつては人にもうらやまれる榮華も見ましたが父親が骨董こつとうに凝り始め、巨萬の身上を費ひ果し、死んだ後に殘つたのは、おびたゞしい僞物の骨董とそれから身に餘る借金だけといふみじめな有樣でした。
何處の藩の糊米のりまえを頂いたとも知れない、親代々の浪人者で、辯口がうまいのと、押出しが立派なのと、書畫骨董こつとうが少しわかるのを資本もとでに金持に取り入つて僞物を賣込んだり、才取りをしたり
修復して、書畫骨董こつとうなどを片付けるのださうで、一と月も前から棟梁とうりやうの佐太郎一人だけを入れて働かせてをりました。私も番頭もお常さんでさへも、土藏へは入れないことになつてをりました
母屋おもやから廊下傳ひに續いて、其處にはおびたゞしい金銀と、數代にわたつてたくはへた骨董こつとう類が入れてあるのですが、三重の扉を開くとムツと腥氣せいきが漂つて、一歩踏み込んだ孫三郎も、思はず足を淀ませました。
中から出て來るのは、おびたゞしい骨董こつとう、金銀、香木。