駄洒落だじゃれ)” の例文
ところが俳句の滑稽もずっと以前になると、大分趣を異にした駄洒落だじゃれに類するものがある。ついでにその一句を挙げて見ようならば
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一体に、日本の滑稽文学では、落語なぞの影響で、駄洒落だじゃれに堕した例が多い(尤も外国でも、愚劣な滑稽文学は概ねそうであるが)
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その時、ふと彼の眼が例の脊の高い剽軽者があの駄洒落だじゃれを書き立てているに止ったので、彼は路の向側のその男に声をかけた。——
「松島よりも松島座、ですか。」私は田舎者のくせに、周さんの前では、こんな駄洒落だじゃれみたいなものを気軽に飛ばす事が出来た。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
男の時々の心持は鋭敏にぎつけることも出来た。気象もきびきびした方で、不断調子のよい時は、よく駄洒落だじゃれなどを言って人を笑わせた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
文学にしても枕詞やかけ言葉を喜ぶような時代は過ぎている。地口じぐち駄洒落だじゃれは床屋以下に流通している時代ではあるまいか。
元来私は談話中に駄洒落だじゃれを混ぜるのが大嫌いである。私は夏目さんに何十回談話を交換したか知らんが、ただの一度も駄洒落を聞いたことがない。
温情の裕かな夏目さん (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
むやみに縁語を入れたがる歌よみはむやみに地口じぐち駄洒落だじゃれを並べたがる半可通はんかつうと同じく御当人は大得意なれどもはたより見れば品の悪きことおびただしく候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
小父さんの知っている人で莫迦ばかに元気の好い客なぞが来て高い声で笑ったり、好き勝手に振舞ったり、駄洒落だじゃれを混ぜた商売上の話をしたりすると
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今までの、内に向いての言葉は拙い駄洒落だじゃれであり、歎願であったけれども、この時のは真剣なる命令でありました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
駄洒落だじゃれを聞いてしらぬ顔をしたり眉をひそめたりする人間の内面生活は案外に空虚なものである。軽いわらいは真面目な陰鬱いんうつな日常生活にほがらかな影を投げる。
偶然の産んだ駄洒落 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
茶界というもの紋切り型一通り覚え込むさえ三年や五年はかかるものである。しかもまだその上幇間ほうかん駄洒落だじゃれに富まざるべからざる要が加わるのである。
現代茶人批判 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
その駄洒落だじゃれは、水たまりに石を投げ込んだようなものだった。モンカルム侯爵といえば当時名高い王党の一人だったのである。かえるどもは皆声をしずめた。
荻生さんの軽い駄洒落だじゃれもおりおりは交った。そこに関さんがやって来て、昆虫採集の話や植物採集の話が出る。三峰みつみねで採集したものなどを出して見せる。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
イヴァン・ペトローヴィチの駄洒落だじゃれのこと、パーヴァの悲劇の見得のことまで一ぺんに思い出して、町じゅう切っての才子才媛がこんなに無能だとすると
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
悪口、諧謔かいぎゃく駄洒落だじゃれ連発のおのぶサンは一目でわかる好人物らしい大年増。十歳で、故郷の広島をでてから三十六まで、足かけ二十六、七年をサーカス暮し。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
どこまでも駄洒落だじゃれと警句との連発でなければならぬと、思っている人ばかり多かった際に、わが芭蕉翁だけが立ち止まって、もう一度静かに考えられたのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あるいは得意げな気取った判断を述べ、あるいは不条理な比較を試み、あるいは無作法なこと、卑猥ひわいなこと、狂気じみたこと、駄洒落だじゃれめいたこと、などを口にした。
いわゆる俊成のざれ歌ざまのものであって、一歩をあやまると、単なる駄洒落だじゃれになってしまう危険の非常に多いものである。しかもそれが非常に多く眼につくのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
かびはえ駄洒落だじゃれ熨斗のしそえて度々進呈すれど少しも取りれず、随分面白く異見を饒舌しゃべっても、かえって珠運が溜息ためいきあいの手のごとくなり、是では行かぬと本調子整々堂々
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼は又、社交会話に洒落しゃれ(彼によればその大部分が、不愉快ふゆかい駄洒落だじゃれでしかなかったが)
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この原詞げんしは“And what to?”「してなんために?」といふ。マーキューシオーはそれをわざと“And what two?”の意味いみりてれい駄洒落だじゃれのキッカケとする。
つまらない駄洒落だじゃれや、軽口や、冗談を連発して患者の憂鬱を吹き飛ばしたり
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
蕎麦そばは二銭さがっても、このせち辛さは、明日の糧を思って、真面目まじめにお念仏でも唱えるなら格別、「蛸とくあのく鱈。」などと愚にもつかない駄洒落だじゃれもてあそぶ、と、こごとが出そうであるが
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
諸君子はやむを得ず年にちなんで、鶏の事を書いたり、犬の事を書いたりするが、これはむし駄洒落だじゃれを引き延ばした位のもので、要するに元日及び新年の実質とは痛痒相冒つうようあいおかす所なき閑事業である。
元日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
などと駄洒落だじゃれをいって、誰も藤次のいいわけをに受けないのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駄洒落だじゃれみたいな発句と妙な字をぬたくらせた短冊を、自分たちにしたところが、それを持って役場や学校の玄関へ立てるだろうか。どんなに押しの強い人間でも、これを買ってくださいとは言えぬ。
酒徒漂泊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
教養あるものからは駄洒落だじゃれなぞと軽蔑されること。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
(四)変な駄洒落だじゃれ
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
嵐山劇場の小便くさい観覧席で、百名足らずの寒々とした見物人と、くだらぬ駄洒落だじゃれ欠伸あくびまじりで笑っているのが、それで充分であったのである。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
むやみに縁語を入れたがる歌よみは、むやみに地口じぐち駄洒落だじゃれを並べたがる半可通はんかつうと同じく、御当人は大得意なれどもはたより見れば品の悪き事おびただしく候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
物にならない駄洒落だじゃれを飛ばしながら、金公はそのコップを取り上げてグッと一飲み、ゴボゴボとせき込みながら
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、眉山の家庭には気の毒な面倒臭い葛藤かっとう絶間たえまなかったそうで、何時いつでも晴れやかな顔をして駄洒落だじゃれをいってる内面には人の知らない苦労が絶えなかったそうだ。
ちっともなっていない陳腐な駄洒落だじゃれを連発して、取り巻きのものもまた、可笑しくもないのに、手をたんばかりに、そのあいつの一言一言に笑い興じて、いちどは博士も
愛と美について (新字新仮名) / 太宰治(著)
滑稽こっけいな句でありますけれども駄洒落だじゃれの句ではありません。ただ事実を描写したのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ちょうど我々が駄洒落だじゃれを興じているところを、西洋人などが立聴きしたようなものであろう。
この程度のもの、またもっと駄洒落だじゃれらしいものなら、まだいくらでもありそうである。
フランス語やドイツ語の駄洒落だじゃれを交えていた。その駄洒落に楽譜をつけてまでいた。
一時ひとときばかりにして人より宝丹ほうたんもらい受けて心地ようやくたしかになりぬ。おそろしくして駄洒落だじゃれもなく七戸しちのへ腰折こしおれてやどりけるに、行燈あんどうの油は山中なるに魚油にやあらむくさかりける。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その男は、そういう手合のよくやるように、さも意味ありげに自分の駄洒落だじゃれを指し示した。ところが、それがまとはずれて、すっかり失敗した。これもそういう手合にはよくあることである。
駄洒落だじゃれだと笑うのはまちがいである。駄洒落はしばしば政治において重大なものとなることがある。その例、ナルセスを一軍の指揮官たらしめたカストラトスはカストラへ(去勢者は陣営へ)。
それは駄洒落だじゃれである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
こういう風に明確に表現する態度を尊重すべきであって日本に人は多いが人は少い、なんて、駄洒落だじゃれにすぎない表現法は抹殺するように心掛けることが大切だ。
右はほぼ時代の順序に従ふて記したる者、かつ大かたの句はことごとく挙げたるなり。悪句また悪句、駄洒落だじゃれまた駄洒落、読んで古池の句に至りて全くその種類を異にするの感あらん。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
芭蕉を中心とする元禄の新運動は、俳諧を滑稽こっけい駄洒落だじゃれの域より救い上げて、真面目な着実なそうして閑寂趣味のものに導いたということを記憶すればいいのであります。(38)
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
跡になんにも残らぬような駄洒落だじゃれ小説をお書きになっているような気がするのです。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
しきりにせきをしたり、または、機会をうかがっては駄洒落だじゃれを言ったりした。しかしクリストフはそれを耳に入れなかった。彼はますますしゃべりつづけた。クラウゼは困却して考えた。
このほかの歌とても大同小異にて駄洒落だじゃれか理屈ッぽいもののみに有之候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ことにその一人は、クリストフを面白がらせまたうるさがらせた。その男はたえず休みなしに、一人で口をきき、笑い、歌い、駄洒落だじゃれを並べ、つまらぬ口笛を吹き、独語ひとりごとを言い、始終働いていた。
あなたたちにとっては、それは不思議な事のように思われるようですが、しかし、僕は努めて口にしない事にしているのです。僕は、まるで駄洒落だじゃれのように孔孟の言を連発する人がきらいなのです。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)