かぐ)” の例文
女というよりも花、花のようにしなやかで、花のようにかぐわしいあなたは、花の言葉で話をなさった——もし花が方言を使うなら。
ロッテ・レーマンの「五月の夜」(コロムビアJ五四八三)と「我が恋は新緑の如く」(ビクターJE三三)などは新緑の如くかぐわしい演奏だ。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
それに反して蝶の群居は如何に爽かなかぐわしい、そして高踏的な自由なものであることか。とそんな風に彼は感ずる。
(新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
いわばあなたとの最初の邂逅かいこうが、こんなにも、海を、月を、夜を、かぐわしくさせたとしか思われません。ぼくは胸をふくらませ、あなたを見つめました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
また天皇、三宅の連等の祖先のタヂマモリを常世とこよの國に遣して、時じくのかぐの木の實を求めさせなさいました。
にはかに夜も昼もかぐはしい夢を見る人となつて旦暮あけくれ『若菜集』や『暮笛集』を懐にしては、程近い田畔たんぼの中にある小さい寺の、おほきい栗樹くりのきの下の墓地へ行つて
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
秋日の下に曳きだして、いかにかぐわしい飼料をやっても、水辺にのぞかせても、首を振っては悲しげに麦城のほうへ向っていななくのみであった。麦城にはまだ百余人が籠城していた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
街路樹の新芽が眼に見えて青くなり、都会の空にかぐわしい春の匂いが漂ってきた。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
林檎りんごいまいっぱいのはなざかり、かぐわしい接骨木にわどこはビロードのよう芝生しばふまわりをながれる小川おがわうえにそのながみどりえだれています。なにもかも、はるはじめのみずみずしいいろできれいなながめです。
殊に湯より上り來れば、虎の皮を敷き一閑張かんばりの大机を据ゑたる瀟洒なる一室には、九谷燒の徳利を載せたる午餐ひるげの膳既にならべられて、松蕈まつたけかぐはしき薫氣かほりはそこはかとなくあたりに滿てるにあらずや。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
百と積むけだし稀なりかぐの果の影さへや然り歌に敢て積む
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かぐ清水しみづ』は水錆みさびてしふる御寺みてら
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
かぐわしき山々の上にありてのろ
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
優しく 麗はしく かぐはしく
氷島 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
かぐの木の実がるでなし
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かぐもの
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
「常世の國の時じくのかぐの木の實を持つて參上致しました」と申して、遂に叫び死にました。
初めて人生の曙の光が動いて居ると氣が附いてから、遽かに夜も晝もかぐはしい夢を見る人となつて、旦暮あけくれ『若菜集』や『暮笛集』を懷にしては、程近い田圃の中にある小さい寺の
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
嬌嗔きょうしんを発した顔は、咲き立ての芙蓉ふようを見るような、かぐわしい美しさに輝きます。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
不意に消魂けたたましい女の叫びが、如意輪寺裏の幽寂ゆうじゃくの梅林につんざいた。——もう散り際にあるもろ梅花うめは、それにおどろいたかのようにふんぷんと飛片ひへんを舞わせて、かぐわしい夕闇に白毫はくごうの光を交錯こうさくさせた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
樹のもとで立つをみなしては豊かなるかぐはしき空
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かぐの清水」は水錆みさびてし古き御寺の
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
江戸の空は淺葱あさぎ色に燻じて、かぐはしい微風が、全く欠伸を誘ひさうな日和です。
時じくのかぐの木の實
かぐはしい唇の曲線と、矢絣やがすりのお仕着せに包んだしなやかな四肢てあしの線を見ただけで、平次は何やら秘密の一つの鍵がこの娘のすぐれた肉體の美しさに潜んでゐるやうな氣がしてならなかつたのです。
優しくかぐはしく、ほの/″\とした若い聲でした。