首肯しゅこう)” の例文
しかし「大道」と「道ばた」とに材料の出所を二分してそれによって「社会的価値」を区別しようとする材料一元論も首肯しゅこうできません。
雲仙がその景観において、山岳中の首位にされることの当然さを、一たび普賢の絶頂に立ったものは、たれでも首肯しゅこうするであろう。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
「僕は余裕の前に頭を下げるよ、僕の矛盾を承認するよ、君の詭弁きべん首肯しゅこうするよ。何でも構わないよ。礼を云うよ、感謝するよ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先生は、そっぽを向いて、しばらく黙って考えて居られたが、やがて、しぶしぶ首肯しゅこうせられた。私は、ほっとした。もう大丈夫。
佳日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もとよりそれは何人をも首肯しゅこうせしめる当然の結論だった。もし道鏡がその神教を握りつぶして不問ふもんに附する場合をのぞけば。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
フランクは単なる「美の追求」のために、一小節の音楽も書かなかったことは少しでもフランクを知る誰にでも首肯しゅこうされることであるだろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
が、ひるがえって常識に叩くに、このストックホルム市の真ん中にぷうんとお味噌のにおいがするということは首肯しゅこう出来ない。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
転瞬てんしゅんの間に内外ないげを断じ醜を美に回した禅機を賞し達人の所為しょい庶幾ちかしと云ったと云うが読者諸賢しょけん首肯しゅこうせらるるや否や
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
閣下、貴下の言葉は私を首肯しゅこうさせる。が、しかし公明正大な好奇心によってわが国へ渡航せんとするこの愛すべき青年の身の上を考えてやって下さい。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかれども、いやしくも今日、中等以上に位するものは、だれかまたかかる不合理、不思議を首肯しゅこうする者あらん。これ、神秘的解釈の下等なるものなり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
されど君が画における伎倆ぎりょうは次第にあらはれ来り何人もこれに対しての賞賛を首肯しゅこうせざる能はざるほどになりぬ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
必ずや天下人心の腐敗ふはいとか、政党よろしきを得ぬとか、ひととおり何人なんぴと首肯しゅこうするような理由を述ぶるであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ワトソン夫人はバーグレーヴ夫人が彼女の着物について言ったことは、何から何まで本当であると首肯しゅこうして、「私が手伝ってあの着物を縫って上げたのです」
然りといえども大酒は女の為す所ならず、宮方に申して暇を与う]と記されているのを首肯しゅこうすることができる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
著者は昔から蕪村を好み、蕪村の句を愛誦あいしょうしていた。しかるに従来流布るふしている蕪村論は、全く著者と見る所を異にして、一も自分を首肯しゅこうさせるに足るものがない。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
専門外のこととてはっきりしたことは判らなかったが、とにかく、簡単ながら、男湯の電気風呂へ、何かの仕掛けがほどこされていることだけは、誰にも首肯しゅこうされたのであった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
妙な因縁いんねんだろう? 今日こんにち我々がハムや野菜のサンドウイッチを喰べるのもみんなこの伯爵はくしゃく賭博とばくふけったお蔭だ。しかしサンドウイッチ伯爵独創の発明とは首肯しゅこうし難いふしがある。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
を画とのみして、それらの芸術的情趣は非常な奢侈しゃし贅沢ぜいたくあらざれば決して日常生活中には味われぬもののように独断している人たちは、容易に首肯しゅこうしないかも知れないが
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
着々として立証して来られました一事を見ましても、たやすく首肯しゅこう出来るので御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そういう事を説明してみましたが、多くのハイカイ詩人はその事を首肯しゅこうしませんでした。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
とうてい外国人——正規の英語の教養があればあるほど——の手に成った文面とは首肯しゅこうされないし、またいかに狂人であっても、医者ならばあれほど無学な手紙は書かない、いや
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
総監の推理が如何に適確周到なものであったかは、読者諸君が、もう一度この物語の前段「両人奇怪なる曲馬を隙見する」くだりを読み返してごらんなされば、忽ち首肯しゅこう出来ることだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
信飛の国界にあたりて、御嶽おんたけ・乗鞍・穂高・槍の四喬岳のある事は、何人なんぴと首肯しゅこうするところ、だが槍・穂高間には、なお一万尺以上の高峰が沢山群立している、という事を知っている者はまれである。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
おまえは、うちの家族のことを芸術の挺身隊ていしんたいと言ったが、今こそ首肯しゅこうする。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
人と人との手にて結び合わせたる形式の結婚はしょう首肯しゅこうするあたわざる所、されば妾の福田と結婚の約を結ぶや、翌日より衣食のみちなきを知らざるに非ざりしかど、結婚の要求は相愛にありて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
衍曰く、南に方孝孺ほうこうじゅあり、学行がくこうあるをもっきこゆ、王の旗城下に進むの日、彼必ずくだらざらんも、さいわいに之を殺したもうなかれ、之を殺したまわばすなわち天下の読書の種子しゅし絶えんと。燕王これを首肯しゅこうす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
君子として世に立つべからざるの事実は、社会一般の首肯しゅこうする所なり。
小山の大議論は主人の中川も客の大原もともに首肯しゅこうする所あり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この解釈は充分に人を首肯しゅこうさすだけの力を持っていない。
こうして、じっと見ていると、ほんとうにソロモンの栄華以上だと、実感として、肉体感覚として、首肯しゅこうされる。ふと、去年の夏の山形を思い出す。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
けれどもそれが西洋人一般の判断だと、先生から注意されて見ると、なるほどと首肯しゅこうせざるを得ない。
それはこの一帯を包容する時、森林公園として、まことに適当の候補地であることを首肯しゅこうさせる。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
こうした女性に取って、そうした幻滅的な出来事が、死刑の宣告以上に怖ろしいものである事は現代の婦人の……特に少女の心理を理解する人々の容易に首肯しゅこうし得るところであろう。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それやこれやを思い合わせると、右の論者の説は直ちには首肯しゅこうし難いと思われる。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
たがいに風狂のやからであろうが、一方は謙遜けんそんし一方は喜び迎えておる心もちがよく現れておる。即ち、発句と脇句とはそういう挨拶の意味から成り立っておる。こういう説も一応首肯しゅこうが出来る。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
古来難解の句と評されており、一般に首肯しゅこうされる解説が出来ていない。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
又斬り傷の箇所が前後左右に飛び離れているのも不自然であって、被害者が逃げ廻ったり抵抗した為だと解釈するにしても、何となく首肯しゅこうし難い所がある。しかも不思議はそればかりではなかった。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは誰でも首肯しゅこうされることであるが、博士は更に
なんですか? さて、どうしたのですか。あなたのおっしゃる事にも、また、佐伯君の申す事にも、一応は首肯しゅこうできるような気がするのですけれど、もっと、つき進めた話を
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
答は何の苦もなく自分の口からすべり出してしまった。するとどてらはそうだろうそのはずさと云うような顔つきをした。自分は不思議にもこの顔つきをもっともだと首肯しゅこうした。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
如何なる名探偵や名検事が出て来ても、一分一厘の狂い無しに「証拠不充分」のところまで押し付け得る、絶対無限の確信を持っていた……という私の主張を遺憾いかんなく首肯しゅこうしてくれるであろう。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ウンと聞いてウンと淋しがらせてくれというのである。この句の如きも余人は知らず、芭蕉の言としては偽らざる告白として首肯しゅこうさるるのである。芭蕉はこの心持を抱いて一生を送った人である。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そんな下手へたくそな見えすいた演技を行っていながら、何かそれが天から与えられた妙な縁の如く、互いに首肯しゅこうし合おうというのだから、厚かましいにも程があるというものだ。
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
通人論つうじんろんはちょっと首肯しゅこうしかねる。また芸者の妻君を羨しいなどというところは教師としては口にすべからざる愚劣の考であるが、自己の水彩画における批評眼だけはたしかなものだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
泉都という言葉は面白くないが、湯の都たることは首肯しゅこうされる。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
私はそれを嚥下えんかして首肯しゅこうし、この医師は以前どんな鰻を食べたのだろうといぶかった。
やんぬる哉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
馬をたおし、たまさかには獅子ししと戦ってさえこれを征服するとかいうではないか。さもありなんと私はひとり淋しく首肯しゅこうしているのだ。あの犬の、鋭いきばを見るがよい。ただものではない。
「僕はいまは、まるで、てんで駄目だけれども、でも、もう五年、いや十年かな、十年くらいったら何か一つ兄さんに、うむと首肯しゅこうさせるくらいのものが書けるような気がするんだけど。」
鉄面皮 (新字新仮名) / 太宰治(著)