飛鳥ひちょう)” の例文
すると彼は飛鳥ひちょうのように身をひるがえして、たちまち丸壜を一本買ってきて私の前に置いた。私にしたら、それは一瞬のあいだの速さだった。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
道化男は馬の腹の下や、前足や後足の間を飛鳥ひちょうのように潜り抜けて巧みに飛び付いて来る馬と犬を引っぱずした。見物の中に拍手の声が起った。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
次の瞬間に、屋根裏の機関銃手も公衆電話室甲乙の黄外套きがいとうも、それから又、同志帆立も、飛鳥ひちょうの如く現場から逃げ去った。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この時まで主人のあと温和おとなしいて来たのトムは、にわかに何を認めたか知らず、一声いっせい高く唸って飛鳥ひちょうの如くに駈け出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
憲兵のたくましい姿は忽ち飛鳥ひちょうの如く裏門に走り、外の小径へと消えて行った。それは丁度設計班の人々の夕飯時であった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お綱へ盲目刀めくらがたなを振るって、バッと中から飛びだしたが、とたんに、伊太夫を居合討ちに仆した弦之丞が——飛鳥ひちょう——左手使いの冷刃れいじん逆薙ぎゃくなぎに流して
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなどり切って刀へは手をかけず、脇差の抜打ちで払った刃先はさきをどうくぐったか、旅の男は飛鳥ひちょうの如く逃げて行きます。
「まア/\待った」と声を掛ける途端に、また其のの者が逃出そうと致しますから、飛鳥ひちょうの如く彼方あなたへ駈け此方こなたに戻って一々引留める文治が手練てだれ早業はやわざ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
故に下等士族は、その下等中の黜陟ちゅっちょくに心を関して昇進をもとむれども、上等に入るの念は、もとよりこれを断絶して、そのおもむき走獣そうじゅうあえて飛鳥ひちょうの便利を企望きぼうせざる者のごとし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私も彼の目を追いながら、いくらか明るくなって来た窓を見廻すと、気のついた事は隅の方の畳が一枚上げられ、床板ゆかいたが上げられていた。松本は飛鳥ひちょうの様にそこへ飛んで行った。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
まだその日の疲れのにじまない朝の鳥が、二つ三つ眼界を横切った。つばさをきりりと立てた新鮮な飛鳥ひちょうの姿に、今までのかの女の思念しねんたれた。かの女は飛び去る鳥に眼を移した。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「どうぞかみさま、ようのないかがみは、みんな、くだいてください。そして、ただ一めんだけを、わたし永久えいきゅうにさずけたまえ。」と、となえながら、飛鳥ひちょうのごとくひるがえして、うえしたへと
うずめられた鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
拝見の博士はかせの手前——まで射損いそんじて、殿、怫然ふつぜんとしたところを、(やあ、飛鳥ひちょう走獣そうじゅうこそ遊ばされい。かか死的しにまと、殿には弓矢の御恥辱おんちじょく。)と呼ばはつて、ばら/\と、散る返咲かえりざきの桜とともに
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かの半裸の中国人は、飛鳥ひちょうのように後へとびさがったが、そのとき臨検隊の一同は、おやという表情で、その中国人のかおをみつめた。それも道理だ。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と立って、クルリとむきなおるが早いか、韋駄天いだてんの名にそむかず、飛鳥ひちょうのように望楼ぼうろうをかけおりていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と思ふと、平常へいぜい四脚よつあしかえつて飛鳥ひちょうごとくに往来へ逃げ去つた。私も続いてうたが、もう影も見せぬ。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そういったかと思うと、運転手姿の蛭田博士は、パッと飛鳥ひちょうのように部屋の外へとびだして、入口のドアをピッタリとしめ、外からかぎまでかけてしまいました。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、飛鳥ひちょうの様に飛びかかる黒影こくえい、あなやと身構える明智の耳に、意外、味方の文代のいそがしい囁声ささやきごえ
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
横丁をすりぬけて、飛鳥ひちょうのように駈出してゆく人影! やッ、彼奴あいつだ! 彼奴が引返してきたのだ!
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「——待てッ」龍太郎りゅうたろう飛鳥ひちょうのようにけて、女の体をうしろへきもどした。女は、なにか口走くちばしりながら、そのとたんに、ワッとやなぎの木の根もとへ泣きくずれてしまう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを見ると、「うぬ。」とさけびざま、飛鳥ひちょうのような早さで、窓に飛びついていきました。そして、おしあげ戸に手をかけると、いきなり、ガラッとひらきました。
透明怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あたりの喬木きょうぼく手綱たづなをくくりつけておいて、燕作えんさくのあとから、これも飛鳥ひちょうのようにさわへおりた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ハッと振りかえる間も遅く、飛び出した黒い影が飛鳥ひちょうのように階段を駈け下りた。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まっ先に背広人形の意味を悟った彼女は、逃げ足も早く、一人の刑事につかまれた腕を振り切って、飛鳥ひちょうのように、廊下の奥の彼女の私室へ逃げこんで、中から鍵をかけてしまった。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
するとまた一方は、飛鳥ひちょうわす。そして戸惑う大きなしりを突き飛ばした。もう任原は逆上気味だ。何度目かには、燕青を腹の下につかまえた。燕青は盤石の下の亀の子にひとしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帆村が意外の出来ごとに面喰らっているところへ、怪漢は飛びこんで来た、そして彼の身体を「右足のない梟」から引離すと、そのまま肩に引きかついで、飛鳥ひちょうのように室を飛び出した。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
相手のすに任せていたが、最後の一人が中からドアを締めようとした時、飛鳥ひちょうの素早さで、片足を部屋の中に入れ、全身の力でドアを押しのけて、文代と共に、中へ入り込んでしまった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ガチャーンと大きな音がして、硝子には大孔おおあなが明いたが、すかさず手を入れて九万円の金塊をつかむと、飛鳥ひちょうのように其の場から逃げ去った。それから十日目の今日まで犯人は遂に逮捕されない。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
相手は飛鳥ひちょうのようなす早さで、サッと身をかわし、今まで腰をかがめてヨボヨボしていたじいさんが、まるで青年のようなおそろしい元気でやみの中にスックと仁王におう立ちになったではありませんか。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二十面相は、飛鳥ひちょうのように、ドアーの外にとびだしました。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)