陋劣ろうれつ)” の例文
あの胸くその悪くなるような警部風情の鼻息をうかがったり、ごきげんをとったりしたが、なんという陋劣ろうれつなざまだ! もっとも
彼等の越権行為を私が屡々しばしば攻撃しているからだ。今日の記事など、実に陋劣ろうれつだ。初めは腹が立ったが、近頃はむしろ光栄を覚えるくらいだ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
だが、いずれにしても、模倣というほどに邪気のあるものでなく、焼直しというほどに陋劣ろうれつなるものでもあるまい。次を聞いてやって下さい
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「出て下さい……スグに出て! 紳士のくせに鍵を破ってはいって来るなんて! 何という見下げ果てた! 陋劣ろうれつな……」
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
けれども、さっき、娘が不憫ふびんのあまり、ふいと恐ろしい手段を考えました。ただいまハムレットさまのおっしゃったような陋劣ろうれつな事を考えました。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは陋劣ろうれつなる偽善の最後の段階ではないか。それはいやしい卑怯ひきょうな陰険な唾棄だきすべきまた嫌悪けんおすべき罪悪ではないか!
この哀れな私の同胞に対して、今まで此室に入って来た者共が、どんな残忍なことをしたか、どんな陋劣ろうれつな恥ずべきおこないをしたか、それを聞こうとした。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
れでわたくし反應はんおうしてゐます。すなはち疼痛とうつうたいしては、絶※ぜつけうと、なんだとをもつこたへ、虚僞きよぎたいしては憤懣ふんまんもつて、陋劣ろうれつたいしては厭惡えんをじやうもつこたへてゐるです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
唯当時私はまだ若かったから、陋劣ろうれつな吾にしても、私の吾には尚お多少の活気が有って、多少の活機を捉え得た。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
だから芸をって口をするのを恥辱とせぬと同時に、学問の根底たる立脚地を離るるのを深く陋劣ろうれつと心得た。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吾人の標準とか題したる某君の国家主義論は、推断陋劣ろうれつ、着眼浅薄、由来皮相の国家主義を、弥益いやます皮相に述べ来りたる所、稚気ふんとして近づく可からず候。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
思いもかけぬ貪婪どんらん陋劣ろうれつな情欲の持ち主で、しかもその欲求を貧弱な体質で表わそうとするのに出っくわすと
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼らの人柄の下品陋劣ろうれつ唾棄すべきものがありますが、また反面には、イエスの言行が平生いかに強く彼らの憎悪を招いていたかが、これによってわかります。
芸者や女給に持てたいという陋劣ろうれつな料簡だろうと人身攻撃に及びましたから、私はやり返しました。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
資本家の新聞雑誌の陋劣ろうれつ讒誣ざんぶ虚報や、警察官等の法外な迫害は左程彼女を傷めはしなかつた。しかし、自分達の仲間からの攻撃は彼女にとつて堪えがたいものであつた。
乞食の名誉 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
事実だとすれば、それがもし事実だとすれば……いや! 人間はそんな陋劣ろうれつにはなれぬはずだ、心の企む不善にも限度がある。そこまで自分を卑劣に堕すことは不可能だ。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
人格のない人に、芸術はあり得ず、卑俗陋劣ろうれつな人間に、美しくも気高き芸術が生れる筈はない。
うまうまと自分の陋劣ろうれつ術數たくらみだまされた不幸な彼女の顏が眞正面に見戍みまもつてゐられなかつた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
光一は悲しかった、かれの心は政党に対する憤怒ふんぬに燃えていた。どういう理由か知らぬが、校長がぼくの家へ見舞いにきただけで政党が校長を排斥するのはあまりに陋劣ろうれつだ。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
私は心から中谷の陋劣ろうれつな心事を憎みました。どうかして復讐してやりたいという望みを押えることができません、そこで取調べのとき中谷の聞いている前でこう云ってやりました。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
職業的の賭博者とばくしゃ陋劣ろうれつきわまる手管てくだを覚えこもうとし、また、その卑劣な術策の達人になってからは、いつもそれを実行して、仲間の学生たちのなかの愚鈍な連中から金をまき上げて
はては犬畜生にも劣つた精神陋劣ろうれつ佞奸ねいかん邪智の曲者などと病的な考にとらはれる。
総理大臣が貰つた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
趣味の上からは高潔純正をよろこび、高い理想の文芸を味おうてる身で、生活上からは凡人もいやしとする陋劣ろうれつな行動もせねばならぬ。八人の女の子はいつかは相当に婚嫁こんかさせねばならぬ。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
と罵倒しながら「おれの儲け処が貴様達にわかるものか」という陋劣ろうれつな本心——
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それから引続きジョルジ三世が王権を再興するがため陋劣ろうれつなる手段を採りて議会に於ける自己の勢力を扶殖ふしょくせんとするあり、ために七、八十年ほどは非常に憂うべき状態にあったのである。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
勿論標尺と引金を糸で結び付けて、反対の方向へ自働発射を試みるようなことはやらんだろうし、汁で縮むレットリンゲル紙を指に巻いて、引金に偽造指紋を残すような陋劣ろうれつな手段にも出まい。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
遠林寺の祐海ゆうかいとやらが、柳沢家に伝手つてを求めているとか、大奥の縁引へ奔走しているとか、その結果を見た上でとか何とか、まるで女人にょにんるような陋劣ろうれつな策に大事をたのんでいるのじゃないか。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陋劣ろうれつな作業を、私に向っても開始したことを理解したのであった。
一九三二年の春 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
卑怯ひきょうにも陋劣ろうれつにも、金の力であの清廉せいれんな父を苦しめようとするのかしら。そう思うと、瑠璃子は、女ながらにその小さい胸に、相手の卑怯をいきどおる熱い血が、沸々と声を立てゝ、煮え立つように思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
父の心事しんじ陋劣ろうれつさは余りにも明白である。だが、叔父についてなぜこう言うのであるか。言うまでもなくそれは、めいを妻としようと約束した不義不徳のためではあるが、ただそればかりではないのだ。
陋劣ろうれつにも食物しよくもつをもてす。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼の心をかくも急に転向させたのは、副署長を相手にした打明け話の陋劣ろうれつさでもなければ、また彼に対する中尉の勝利の下劣さでもない。
世には陋劣ろうれつなる小人と、商売根性というものがあって、盛名あるものの出づるごとに、ことさらにそれをいやしきものに引当てて貶黜へんちつを試みようとする。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それでわたくし反応はんのうしています。すなわち疼痛とうつうたいしては、絶呌ぜっきょうと、なみだとをもっこたえ、虚偽きょぎたいしては憤懣ふんまんもって、陋劣ろうれつたいしては厭悪えんおじょうもっこたえているです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
警察のある種の役人は、陋劣ろうれつと権威との交じった複雑な特別な相貌をそなえてるものである。ジャヴェルは陋劣の方を欠いたその特別な相貌を持っていた。
従って何程なにほど古手の思想を積んで見ても、木地の吾は矢張やっぱりもとのふやけた、秩序だらしのない、陋劣ろうれつな吾であった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
死ねば天堂へ行かれる、未来は雨蛙あまがえるといっしょに蓮の葉に往生ができるから、この世で善行をしようという下卑た考と一般の論法で、それよりもなお一層陋劣ろうれつな考だ。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、それは矢島の陋劣ろうれつなあてこすりだったのだ。そこには藤野先生も周さんもいるから、試験問題の「漏洩ろうえい」を暗に皮肉るつもりで、矢島が卑屈の小細工をしたのだ。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かれらがそんなにも無恥陋劣ろうれつで、その悪徳非道にとめどがないとすれば、これを抑える法は一つしかないでしょう、私はそう決心した、私の決心に賛成する者が九人、それぞれが持場を
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そしてその陋劣ろうれつさを、自分でちゃんと承知しているのだ。それにまだ、兄のミーチャから花嫁を横取りしようとしているが、たぶんこの目的は成功するだろう。
一粒のあわをも持たない小鳥から十万フランの年金をも持たない僕自身に至るまで、空と地上とにかくも多くの陋劣ろうれつと貧弱と困厄とを見、はなはだしく疲弊してる人類の宿命を見
その時期の、様々の情ない自分の姿を、私は、みんな知っている。忘れられない。私は、日本一の陋劣ろうれつな青年になっていた。十円、二十円の金を借りに、東京へ出て来るのである。
人気をあおろうというほどな陋劣ろうれつな根性に出でたのではなく、誰かにそそのかされて、何の気なしにやったことが諒解が届いたから、役人たちも、単に張紙をさせるだけで、後は問いませんでした。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その後は決して猫の良心に恥ずるような陋劣ろうれつな振舞を致した事はない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きさまはまだ自分の陋劣ろうれつさに気付いていないだろう。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは僕に対する誹謗ひぼうだ。しかもかなり陋劣ろうれつなものなんだ。僕はきのう途方に暮れているやもめに金をやった。しかし『葬儀費と称して』じゃない、じっさい葬式の費用にやったんだ。
これは一体、誰の猿智慧さるぢえなんです? ばかばかしくて、見て居られません。どうせ、いやがらせをなさる積りなら、も少し気のきいた事でやって下さい。あなたがたは卑怯ひきょうです。陋劣ろうれつです。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
陋劣ろうれつ不名誉なる刑場であった。
「何という陋劣ろうれつな男だろう」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)