門司もじ)” の例文
あるひはまた西洋においでになる時にも門司もじでお逢ひになつた妹さんの口から何事もあなたへ伝へられなかつたかも知れません。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それが、今朝がた、お開きになってな、今、別れの昼御飯を食べておいでになる。博多、別府方面の親分衆は、二時の汽車で、門司もじからお帰りになる
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
例えば青森で出すと上へ上って門司もじの上空で電気天井にぶっつかり今度は反射して台北たいほくへ下りてくるという風に、下りたところに受信機じゅしんきがあれば聴える。
科学が臍を曲げた話 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
此間こないだうちへ行ったら、門司もじ叔父おじに会いましてね。随分驚ろいちまいました。まだ台湾にいるのかと思ったら、何時の間にか帰って来ているんですもの」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長身の、まだ若いが、職掌柄だけに凛として気の利いた顔貌と風采の持主だ。左舷寄りの上席には門司もじ鉄道局の船舶課の、かなりの上役らしい人が据わる。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ただ、小倉や門司もじを隔てて、一衣帯水の海門の潮流が、さばの背のように、蒼黒あおぐろく、暮れかけているだけだった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな訳で、風前の燈火ともしびみたような小僧の生命いのちを乗せたアラスカ丸が、無事に上海シャンハイを出た。S・O・Sどころか時化しけ一つわずに門司もじを抜けて神戸に着いた。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
門司もじを過ぎ玄界灘より東シナ海を経てホンコンに着くまでは船長及び船員らと親しくなって時々法話を致しました。ホンコンでタムソンという英人が乗船した。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
青木氏が東京に居られなくなつて浴衣ゆかた一枚で九州おちをした事がある、その折門司もじか何処かで自分が子供の時の先生が土地ところの小学校長をしてゐるのを思ひ出した。
その武器をいよいよ船に積んで送り出すという段になって、門司もじの水上警察に見つかって、おさえられてしまった。これには弱った。銃器弾薬の持ち出しは厳禁だ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
春を待って私たちがその組合の事業を助けるために門司もじに行かねばならぬということは夢にも思わなかったが今夜小林監督にその話を聞いて、私は非常に勇み立った。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
散り行く櫻の哀れを留めて、落ち行く先は、門司もじ赤間あかまの元の海、六十餘州の半を領せし平家の一門、船をつなぐべきなぎさだになく、波のまに/\行衞も知らぬ梶枕かぢまくら高麗かうらい
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
それが今年の六月の末になって、突然に手紙をよこしまして、自分は門司もじに芸妓をしているが、この頃はからだが悪くて困るから、しばらく実家へ帰って養生をしたいと思う。
水鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
殊に門司もじまちを午後三時に散歩した時のやるせなき蒸暑むしあつさが直ちに思い出された。
今から三十余年の昔自分の高等学校学生時代に熊本くまもとから帰省の途次門司もじの宿屋である友人と一晩寝ないで語り明かしたときにこの句についてだいぶいろいろ論じ合ったことを記憶している。
思い出草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
十二月二十九日に榛名はるな丸に門司もじで乗船して帰国の途にかれたのでしたが、それらの間に夫人とともに諸所の風光に接し、また東洋の芸術を見て驚異の感に打たれられたようでもありました。
わたしは泣く泣く俊寛様へ、姫君の御消息ごしょうそくをさし上げました。それはこの島へ渡るものには、門司もじ赤間あかませきを船出する時、やかましい詮議せんぎがあるそうですから、もとどりに隠して来た御文おふみなのです。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
徳山と門司もじとの間を交通している蒸汽船から上がったのが午前三時である。地方の軍隊は送迎がなかなか手厚いことを知っていたから、石田はその頃の通常礼装というのをして、勲章をびていた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
門司もじに行き、それから船で、大連だいれんへ行くのです。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
梅雨晴つゆばれの波こまやかに門司もじせき
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
同 門司もじ
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
このとき、門司もじ市全体を、暗黒の戦慄におとし入れた「上海シャンハイコレラ」の猖獗しょうけつは、浜尾組のみならず、すでに、市内の各所に、その兆候をあらわしていた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
甘酒だの五目飯ごもくめしなどひさいでいる腰掛こしかけ茶屋で、そこは門司もじから小倉こくらへの中間ぐらいな大道路の傍らで山というほどでもない小高い丘の登り口にある角店である。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二三週間ぜん門司もじ駅の改札口で、今まで持っていた金側きんがわ時計を掏摸すりにしてられてしまったのだ。モバド会社の特製で時価千円位のモノだったが惜しい事をしたよ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ある時用事が出来て門司もじとか馬関ばかんとかまで行った時の話はこれよりもよほど念がっている。いっしょに行くべきはずのAという男に差支さしつかえが起って、二日ばかり彼は宿屋で待ち合わしていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある時門司もじで若い芸妓げいしやが病気で亡くなつた。流行はやりだけあつて、生きてゐるうちには、色々いろんな人に愛相あいそよくお世辞を言つてゐたが、亡くなる時には誰にも相談しないでこつそり息を引取つた。
教授は数日を門司もじに送って関門海峡の美しい風光にも親しまれましたが、十二月二十九日に榛名丸はるなまるで出発されることになり、もはやうすら寒い風の吹くなかで、幾たびか別れの握手をかわしながら
殉死の先登せんとうはこの人で、三月十七日に春日寺かすがでらで切腹した。十八歳である。介錯は門司もじ源兵衛がした。原田は百五十石取りで、おそばに勤めていた。四月二十六日に切腹した。介錯は鎌田かまだ源太夫がした。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
船は門司もじかかる。小春の海は浪おどろかず、風も寒くない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
春潮しゅんちょうといへば必ず門司もじを思ふ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
門司もじいでて既に幾時いくとき
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
門司もじせきの町屋、風師山かざしやまの山のしわも、明らかに望まれた。そこら辺りに群れのぼって、見えぬものを見ようとしている群衆が、ありのかたまりのように黒く見える。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余はなるほどなるほどと聞いていた。次に御前は門司もじを見たかと聞いた。次にあすこの石炭はもう沢山たんとは出まいと聞いた。沢山は出まいと答えた。実は沢山出るか出ないか知らなかったのである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「この菊は、門司もじ時代のお前のことを思いだしたもんじゃけ、特別に入れたんじゃ。上海コレラ騒ぎで、森の新公と監禁されたとき、お前が、箱の中に、菊の花を入れてくれた思い出は忘れられんよ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
だが、その翌々日、男女ふたりは、門司もじから赤間あかまの関へ行く便船の中で、追手の者に、捕まってしまった。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝から小林太郎左衛門の店と河岸の前には、おびただしい行旅こうりょの荷物やらこうりやらが、淀川から廻送され、それをまた、門司もじせきへ行く便船に積みこむので、ひどく混雑していた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)