鋼線はりがね)” の例文
と、葭簀よしずを出る、と入違いに境界の柵のゆるんだ鋼線はりがねまたぐ時、たばこいきおいよく、ポンと投げて、裏つきのやぶれ足袋、ずしッと草を踏んだ。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『僕こそ。』と言ひながら、男は少許すこし離れて鋼線はりがねの欄干にもたれた。『意外な所でまたお目にかかりましたね。貴女あなたお一人ですか?』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
仰向あおむけになって鋼線はりがねのような脚を伸したり縮めたりして藻掻もがさまは命の薄れるもののように見えた。しばらくするとしかしそれはまた器用にはねを使って起きかえった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
空に引き渡した鋼線はりがねに縋つて通ふ渡し舟を、見ながら、私たちは、河原の石コロ路を、二三町も歩いた、傘も下駄も、船の中へ置き去りにして、尻ッ端折になつて、炎天の焼石の上を
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
取廣げられた往來の石塊いしころや瓦の破片かけらに躓いたり、水溜りに驚いたり、捨てゝある鋼線はりがねに足を取られたり、亂雜に歩いて來る通行人をけそくなつたりする度び毎に、自分は歐米の市街の美麗を説くと
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
烏が引啣ひきくわえて飛ぼうとしたんだろう……可なりおおきな重い蛇だから、飛切れないで鋼線はりがねに留った処を、電流で殺されたんだ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それで、智惠子が袂を分つて橋を南へ渡り切るまでも、靜子は鋼線はりがねの欄にもたれて見送つてゐた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
鋼線はりがねが焼き切れるやうな、輝やきと光沢を帯びて、燃え栄つてゐたのも、是等の山々であつた、その山の白い頭を、いや白くして、白金プラチナの輝やきを帯びてゐた氷雪が、日の光と、生命の歓楽に
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
それで、智恵子が袂を分つて橋を南へ渡り切るまでも、静子は鋼線はりがねてすりもたれて見送つてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あえてこの部落が無くなるという意味ではない、衰えるという意味ではない、人と家とはさかえるので、進歩するので、繁昌はんじょうするので、やがてその電柱は真直まっすぐになり、鋼線はりがねはりを持ち
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無造作に鋼線はりがねで繋いだ木柵は、まばらで、不規則で、歪んで、破れた鎧の袖をべた樣である。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
これが角屋敷かどやしきで、折曲をれまがると灰色はひいろをしたみち一筋ひとすぢ電柱でんちういちじるしくかたむいたのが、まへうしろへ、別々べつ/\かしらつて奧深おくぶかつてる、鋼線はりがねまたなかだるみをして、ひさしよりもひくところを、弱々よわ/\と、なゝめに
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二人は鋼線はりがねを太い繩にした欄干にもたれて西日を背に受け乍ら、涼しい川風に袂を嬲らせて。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
これが角屋敷かどやしきで、折曲おれまがると灰色をした道が一筋ひとすじ、電柱のいちじるしく傾いたのが、まえうしろへ、別々にかしらって奥深おくぶこう立って居る、鋼線はりがねが又なかだるみをして、廂よりも低いところを、弱々よわよわと、斜めに
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人は鋼線はりがねを太い繩にした欄干にもたれて西日を背に享け乍ら、涼しい川風に袂をなぶらせて。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ははあ、来る道で、むこうの小山の土手腹どてっぱらに伝わった、電信の鋼線はりがねの下あたりを、木の葉の中に現れて、茶色の洋服で棒のようなものを持って、毛虫が動くように小さく歩行あるいている形をた。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほろびるといつて、あへ部落ぶらくくなるといふ意味いみではない、おとろへるといふ意味いみではない、ひといへとはさかえるので、進歩しんぽするので、繁昌はんじやうするので、やがてその電柱でんちう眞直まつすぐになり、鋼線はりがねはり
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たん電柱でんちうばかりでない、鋼線はりがねばかりでなく、はしたもと銀杏いてふも、きしやなぎも、豆腐屋とうふやのきも、角家かどやへいも、それかぎらず、あたりにゆるものは、もんはしらも、石垣いしがきも、みなかたむいてる、かたむいて
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)