近付ちかづ)” の例文
大きな雁首がんくびゆびおさへて、二吹許ふたふきばかり濃いけむりひげなかからしたが、やがて又丸い脊中せなかを向けて近付ちかづいた。勝手な所を自由に塗つてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いづれもうれしさうにして、ふね近付ちかづいてるのを、退けるやうにして、天滿與力てんまよりききにふねへ、雪駄せつたあしまたんだ。途端とたん玄竹げんちくはいつにないらいのやうに高聲たかごゑで、叱咜したした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
うしろから看護婦が草履のおとを立てゝ近付ちかづいて来た。三四郎は思ひ切つて戸を半分程けた。さうしてなかにゐる女と顔を見合せた。(片手かたて握りハンドルつた儘)
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
三四郎は自分から進んで、ひとの機嫌を取つた事のない男である。女もとほざかつたぎり近付ちかづいてない。しばらくすると又立ちがつた。まどから戸外そとをすかして見て
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけ近付ちかづいて、この揉苦茶もみくちやになつたかみしたのぞいておぼえず苦笑くせうした。したには大便だいべんれてあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
やがて寂寞せきばくうちに、ひと足音あしおときこえた。はじめかすかにひゞいたが、次第しだいつよゆかんで、宗助そうすけすわつてゐるはう近付ちかづいてた。仕舞しまひ一人ひとりそう廊下口らうかぐちからぬつとあらはれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
先生は彼の風変りのところや、もう鎌倉かまくらにいない事や、色々の話をした末、日本人にさえあまり交際つきあいをもたないのに、そういう外国人と近付ちかづきになったのは不思議だといったりした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんの事かく聴き取れなかつたが、声はたしかに、平岡と三千代であつた。話声はなしごえはしばらくでんで仕舞つた。すると又足音が椽側迄近付ちかづいて、どさりと尻をおろおとが手に取る様にきこえた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
同時どうじなが廊下らうかんで、此方こちら近付ちかづ足音あしおとがした。はかまけたをとこまた廊下口らうかぐちからあらはれて、無言むごんまゝ玄關げんくわんりて、しもうちつた。かはつてまたあたらしいをとこつて、最前さいぜんかねつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)