迅雷じんらい)” の例文
と、声色共にはげしく、迅雷じんらいまさに来らんとして風雲大いに動くの概があった。これを聴いたパピニアーヌスは儼然げんぜんとしてかたちを正した。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
それ御前の御機嫌ごきげんがわるいといえば、台所のねずみまでひっそりとして、迅雷じんらい一声奥より響いて耳の太き下女手に持つ庖丁ほうちょう取り落とし
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
雷横の刀術に、おおとりがいがあれば、赤髪鬼の野太刀にも、羽をつ鷹の響きがあった。赤髪の影が旋風つむじに沈めば、迅雷じんらいの姿が、彼の上を躍ッて跳ぶ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茫然ぼうぜん自失している彼等の前に、疾風迅雷じんらいのように乗り込んで来たのは皮肉にも南部の藩士である。没収を宣言された彼らの土地や家屋にはあるじは無い筈であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そして一年のある月と同じく、生涯しょうがいのある年齢は、きわめて多くの電気を飽和しているので、迅雷じんらいがそこに生じてくる——随意にでなくとも——少なくとも期待する時に。
二万五千六百の雪峰 であって巍然ぎぜんとして波動状の山々の上に聳えて居る様はいかにも素晴らしい。その辺へ着きますと閃々せんせんと電光が輝き渡り迅雷じんらい轟々ごうごうと耳をつんざくばかり。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
迅雷じんらいおおうにいとまあらず、女は突然として一太刀ひとたち浴びせかけた。余は全く不意撃ふいうちった。無論そんな事を聞く気はなし、女も、よもや、ここまでさらけ出そうとは考えていなかった。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
海賊船かいぞくせん此時このとき砲戰ほうせんもどかしとやおもひけん、なかにも目立めだ三隻さんせき四隻しせき一度いちど船首せんしゆそろへて、疾風しつぷう迅雷じんらい突喚とつくわんきたる、劍戟けんげきひかりきらめその甲板かんぱんには、衝突しやうとつとも本艦ほんかん乘移のりうつらんず海賊かいぞくども身構みがまへ
室に入れば野人斗酒を酌んで樽を撃ち、皿を割り、四壁に轟く濁声だくせいをあげて叫んで曰く、ザールの首をさかなにせむと。この声を聞かずや、無限の感激はほとばしつて迅雷じんらいの如く四大を響動せんとす。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その迅雷じんらい風烈を放ち出す手は、また一隻の雀をだに故なくして地におとすことなきなり。わが久しき間の經歴は我前に現じて一瞬時の事蹟に同じく、神の扶掖嚮導ふえききやうだうの絲は分明ぶんみやうに辨識せられたり。
本阿弥ほんあみ折紙をりかみ古今ここんに変ず。羅曼ロマン派起つてシエクスピイアの名、四海に轟く事迅雷じんらいの如く、羅曼派亡んでユウゴオの作、八方にすたるる事霜葉さうえふに似たり。茫々たる流転るてんさう。目前は泡沫、身後しんごは夢幻。
深山越みやまごしの峠の茶屋で、すさまじき迅雷じんらい猛雨に逢って、げも、引きも、ほとんど詮術せんすべのなさに、飲みかけていた硝子盃コップを電力遮断の悲哀なる焦慮で、天窓あたまかぶったというのを、改めて思出すともなく
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
学校友達と名宣なのりし客はそのことばの如く重ねてぬ。不思議の対面におどろき惑へる貫一は、迅雷じんらいの耳をおほふにいとまあらざらんやうにはげしく吾を失ひて、とみにはその惘然ぼうぜんたるより覚むるを得ざるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
迅雷じんらいと電光とのみなぎった黒影が頭上をおおうのを感じた。
怖るべき早技はやわざで、一人を斬り、一人を蹴仆し、疾風迅雷じんらいに駈け去った弦之丞の姿は、時既に、遠い闇に消えていた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども雲の軍勢が鬱然うつぜんと勃起し、時に迅雷じんらい轟々ごうごうとして山岳を震動し、電光閃々せんせんとして凄まじい光を放ち、霰丸さんがん簇々そうそうとして矢を射るごとく降って参りますと修験者は必死となり
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
北条方でも、もちろん、迅雷じんらいの急とは予測していたろうが、こうまでとは、考えきれなかったものとみえる。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仏ヶ根山も、前山も、それと同時に、迅雷じんらいのとどろきを発し、雲を吐くように、弾けむりを、白くひいた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寸断された百足虫むかでのように、輜重車は、なだれくだって、谷間のふところへ出た。ここにも待っていた一隊の敵があった。許褚の影を見かけるや否、その敵将は、迅雷じんらい一電
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「兄貴、その敵は、おれにくれ」と、張飛が見つけて、迅雷じんらいのようにかかって来た。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
序戦の立ち上がり——起——の疾風迅雷じんらいの点では、遺憾いかんなかったのであるが、勝家の六回の諫使かんしも退けて、「キレ」を取らずに、傲然ごうぜん、その夜も陣地を動かさずにいたことは、まさに
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)