あらわ)” の例文
宇宙間の万象を一切讐敵あだとして、世にすねたる神仏の継子等ままッこら、白米一斗の美禄をれず、御使番を取拉とりひしぎてあらわに開戦を布告せり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは望みの絶えた救われない人間をよくあらわしていて、ちょうど、飢えた旅人が、曠野の中をただ独りさまようて疲れ果て、行き倒れて死ぬ前に
右のとおり、その半切れ図であらわしてあるように、果実の中は幾室いくしつにも分かれていて、この果実はじつは数個の一室果実から合成せられていることを示している。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ぼく、うちへっていって、おかあさんにねがってみよう。」と、まことさんが、決心けっしんかおあらわして、いいました。
僕たちは愛するけれど (新字新仮名) / 小川未明(著)
いわく、すべて宗教の事よりたんを開き、あるいは宗教の事に托して起したる戦争は、左の四件をあらわす。
いたずらにみずからあらわしてあざけりを買うに過ぎず。すべて今の士族はその身分を落したりとて悲しむ者多けれども、落すにもあぐるにも結局物の本位を定めざるの論なり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
遠く海を描きて白帆を点綴てんてつしたるは巧に軟風をあらわしまたおのずから遠景において光線の反射を示せり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
昔からおごそかに秘せられていた書が、たちまち目前に出て来たさまが、この語で好くあらわされている。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
傘をすぼめながら一寸会釈して、寺の在処ありかを尋ねた晩成先生の頭上から、じた/\水の垂れる傘のさきまでを見た婆さんは、それでも此辺には見慣れぬ金ボタンの黒い洋服に尊敬をあらわして
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
もしこういう見方が、現在の国情の一側面を幾分でもあらわしているものであったならば、危機突破策の一要素は極めてあきらかである。それは国民が今日において平常心を失わないことである。
硝子を破る者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
と二人は、胴着や帯を締め直し、礼儀の心だけをあらわして、湯漬を馳走になった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰にもして詫びる心を実際に自分の身にあらわさねば成らないと思った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小野田はお島から金を受取ると、そう云って感謝の意をあらわした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ほこりを深い胸に蔵め、うやまいを色にあらわして
とにかく、そのひっそりしている合間は、人々が息を殺し、固唾かたずを呑み、何事が起るかと思って動悸を速めている様子を、聞えるほどにあらわしたのであった。
わたくしは洋行以前二十四、五歳の頃に見歩いた東京の町々とその時代の生活とを言知れずなつかしく思返して、この心持をあらわすために一篇の小説をつくろうと思立った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
このさい、それを自分じぶんちからあらわせぬなら、いっそなにもかぬほうがよかったのです。
夢のような昼と晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
傘をすぼめながらちょっと会釈して、寺の在処ありかを尋ねた晩成先生の頭上から、じたじた水の垂れる傘のさきまでを見た婆さんは、それでもこの辺には見慣れぬ金釦きんボタンの黒い洋服に尊敬をあらわして
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何卒どうぞ、原先生にも御話を一つ」と布施は敬意をあらわして言った。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だが、それらはどれもこれも年齢四十五歳の男の顔であって、主として異っているのは、そのあらわしている感情と、その瘠せ衰えた様子の物凄さとの点であった。
からだ左右さゆうするのは、うれしいかんじをあらわすことであり、あたま上下うえしたうごかすのは、なにかべるものをしいというこころしめすものだということは、見物けんぶつにもわかったのであります。
白いくま (新字新仮名) / 小川未明(著)
にうずもれた、きのこのように、利助りすけ作品さくひんは、あらわれませんでした。そしてうすあおい、遠山えんざんほどの印象いんしょうすらもその時代じだいひとたちにはのこさずに、さびしく利助りすけってしまいました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)