融通ゆうずう)” の例文
その帆村から、若い女探偵の助力じょりょくを得たいことがあるから、誰か融通ゆうずうしてくれといってきたんだ。どうだ、君ひとつ、行ってくれんか
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もじもじしながら、私は質種しちぐさを出して金の融通ゆうずうを頼んだ。番頭は小うるさそうにしていたが、私の顔をじろじろと眺めながら言った。
鬱勃うつぼつたる事業慾を押えることが出来ず、彼は山林の一部を抵当ていとうにして信用会社から資本の融通ゆうずうを受け、糞尿汲取事業ふんにょうくみとりじぎょうを開始した。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
むしろ、まことにけっこうなことだろうと思うんだが、なにしろ、法月様ときた日にゃ、そこになると、まったく融通ゆうずうかねえからなあ
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おつさん、あまりたくさんなかね融通ゆうずうもできないが、すこしくらいならいたしましょう。」と、あるこうおつにいいました。
一本の釣りざお (新字新仮名) / 小川未明(著)
朝霞の兄弟も泰文の弟の権僧正光覚ごんのそうじょうこうかくも、いずれも融通ゆうずうのきかない凡骨ぞろいで、事件のおさまりをあきたらなく思っていた。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
どうして/\、モオパッサンは彼等のような融通ゆうずうのきかない、平面描写や無技巧主義むぎこうしゅぎの小説なんぞを書いては居ない。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「七月末が限度だった。無理もない。それでもあの時には何うにも融通ゆうずうがつく積りだったんだから、おれも図々しい」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
といって、お糸さんに迷ってから、散々無理を仕尽した今日此頃、もう一文もん融通ゆうずうの余地もなく、又余裕もない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ツイ父親に内証ないしょで五百両という大金を染五郎の一存で融通ゆうずうしたことなどが知れたためだと言われております。
ルピック氏——融通ゆうずうのきかないちっぽけな人類だよ、お前は。その理窟は、みたいだ、そりゃ。人の心が、いちいち奥底まで、お前にはっきり見えるかい?
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
しこうして遂に彼の発議により、寛永打払うちはらい令を修正して、外舶のきたるものにはその来意をただし、漂流船には、薪水しんすい食料を供して立ち退かしむるの融通ゆうずう法を設けたり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
理由は云わずと知れたことじゃ! いったいその方という人間は、いやに馬鹿堅くて融通ゆうずうかぬ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ちょうど非番の日で、菖助は家にいて、半蔵らの立ち寄ったことをひどくよろこんだ。この人は伏見屋あたりへ金の融通ゆうずうを頼むために、馬籠の方へ見えることもある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
融通ゆうずうの利かぬ男じゃから、帯刀たてわきと談合の上、丁度ちょうど、感応院の蔵の中に、宝沢の笠のあったのを幸い、犬の血をつけて、切り目を作っての、越前の下役共の先廻りをして
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それで幸い今度転任者が一人出来るから——もっとも校長に相談してみないと無論受け合えない事だが——その俸給から少しは融通ゆうずうが出来るかも知れないから、それで都合を
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女郎屋の朝の居残りに遊女おんなどもの顔をあたって、虎口ここうのがれた床屋がある。——それから見れば、旅籠屋や、温泉宿で、上手な仕立は重宝ちょうほうで、六の名はしち同然、融通ゆうずうは利き過ぎる。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
知らない。不親切きわまる。切符の手違いとわかったら、できないまでも、いちおう車室の融通ゆうずうを考えてみるのが至当じゃないか——まあま、貴女もそう泣くことはないでしょう。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
意志にとどこおって肉情はほとんどその方へ融通ゆうずうしてしまった木人のような復一はこれを見るとどうやらほんのり世の中にいろ気を感じ、珍らしく独りでぶらぶら六本木の夜町へ散歩に出たり
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
モンローの宣言は立派に文字になって残っているけれども、法律というわけではなし、文章も融通ゆうずうがきくようにできているので、取りようによっては、どうにでも伸縮する事ができるのです。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
俺は、そう聴いたときに、の一軸で一時の窮境を逃れようと思ったのだ。素晴らしい逸品だ、ことに俺の手から持って行けば、三万や五万は、融通ゆうずうが出来ると思ったのだ。果して融通は出来た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
中田に通うころに和尚さんに融通ゆうずうしてもらった二円も返さなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
融通ゆうずうの利く男でない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「——まったく、いいご身分だよ、男ってものはね。金も力も、なくても、亭主づらして威張ってられるんだものね。そこへいくと、女なんてかわいそうなものさ。棺おけにかた足つっこむほどの年になっても、女中になと子もりになと融通ゆうずうがきくんだからね。」
雑居家族 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「はやく、どうかしてやらなくちゃいけねえ。預かってる七十両を、俺が、融通ゆうずうでもしちまったように思ってるんじゃねえか」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それです、妻籠の方で融通ゆうずうがつくかと思いましてね、今、今、そのことを寿平次さんにも頼んで見たところです。妻籠にも米がないとすると、山口はどうでしょう。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「お祖父さんがもう少し融通ゆうずうく人だったら、お前も子爵夫人になっているのになあ」
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
松前様のお金を融通ゆうずうして、一代に万という金をこしらえたが、主人三郎兵衛は、女房のお駒と、小さい娘のお君をのこして五年前に病死——それにも変なうわさがありますが、ともかくも
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あの未曾有みぞう超々大戦果ちょうちょうだいせんかこそ、金博士が日本軍に対し、博士の発明になる驚異きょうい兵器を融通ゆうずうされたる結果であろうという巷間こうかんの評判ですが、どうですそれに違いないと一言いってください
けれど、何といってもここは身内の家であるから多少の時間の融通ゆうずうはついた。
金の出所は全くとだえてしまっていたから。岡がしきりと融通ゆうずうしようと申し出たのもすげなく断わった。弟同様の少年から金まで融通してもらうのはどうしても葉子のプライドが承知しなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私のかんがえによると、責任を解しない金力家は、世の中にあってならないものなのです。その訳を一口にお話しするとこうなります。金銭というものは至極重宝なもので、何へでも自由自在に融通ゆうずうが利く。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どうも貴公は、何事もすぐそのまま、真正直に考えるので融通ゆうずうがきかん。もとよりこの婚儀は初めから謀略にきまっている。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正金を融通ゆうずうしたり米穀を輸入したりして時局を救おうとする当局者の奮闘は悲壮ですらある。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
現に俺の知っている重役は一番や二番を集めたら融通ゆうずうの利かないのばかり揃って困ったと言っている。真正ほんとうに使えるのは勉強しないで十番どころを占めている実力家だそうだよ。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
融通ゆうずうのきかねえ野郎だ、兎も角、今のうちから心掛けて、カラ咳でもして居るがいい」
顔色を変えてカンカン寅の留守宅へ行って、いままでの事情を話すと共に、この際是非に融通ゆうずうを頼むと歎願たんがんをした。しかし留守を預る人達は、老人の話を鼻であしらって追いかえした。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「少しばかりでいいんです、一つ融通ゆうずうしてください」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「どうにかなるよ。世の中はそんな融通ゆうずうかねえものじゃない。愚痴を云ったって始まるもんか」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
請書うけしょは出した。今度は帰りじたくだ。半蔵らは東片町にある山村氏の屋敷から一時旅費の融通ゆうずうをしてもらって、長い逗留とうりゅうの間に不足して来た一切の支払いを済ませることにした。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「幸い石川様が融通ゆうずうして下すって研屋の身上しんしょうを建て直したようなわけでございます」
融通ゆうずうが利くというのか、それからそれと考えて妙な理窟をつける」
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
むしろその寡黙や沈剛の風を愛するのではございますが、どうもその……融通ゆうずうがききません。
何んかの手蔓てづるで田原屋から千とまとまった大金を融通ゆうずうしてもらい、それでようやく稼業は立ち直ったが、その恩があるから、田原屋の言うことなら、どんな無理なことでもいやとは言えない
実は八月一杯と吹っかけたいんだが、せめて中旬までガヷナーの御機嫌を繋いで貰えまいか? 昨日の権幕では覚束おぼつかない限りだが、マザーを説いてくれ給え。八月はひまなんだぜ。融通ゆうずうは充分つくんだ。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
どうにも融通ゆうずうのきかねえ人間だった。——それにひきかえ、この三蔵は、親に似気にげなき天晴あっぱれ者と、きのうも直々、池田入道勝入さまから、お褒めのことばを頂戴し……さ。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
融通ゆうずうが利かないんですね?」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
家財はもとより持物を売り尽し、まったく身一つになっている者が大部分だし、又、生活力のない者には、多少余裕のあった者から融通ゆうずうしているので、これもたちま枯渇こかつしてしまう有様なのだ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)